厳しいリーダーと優しいリーダー、どちらが良いのか?
前回のコラムでは、介護現場に求められるリーダーシップを、「タスク志向」「関係志向」「変化志向」という三次元フレームで考え、それぞれが重要であることをお伝えしました。
今回は、少し切り口を変えて、「厳しいリーダーと優しいリーダー、どちらが良いのか?」という視点で考えてみたいと思います。
厳しいリーダーとは?
まず、「厳しいリーダー」とはどのような存在か、考えてみましょう。皆さんは、「厳しいリーダー」と聞くと、どんなイメージを思い浮かべますか?
例えば、
- 目標達成を強く求める
- 部下に高い質と効率を要求する
- 規則やルールを厳格に守らせる
- 細かく指示や命令を出す
このような特徴を思い浮かべる方が多いかもしれません。
これらの要素は、前回お話した「タスク志向」、つまり目標達成に向けたマネジメントの一環と言えます。タスク志向のリーダーシップは、組織の成果を上げるうえで欠かせない重要な役割を果たします。
しかし、注意すべき点もあります。タスク志向が強すぎたり、部下への配慮が不足していたりすると、部下がストレスを感じたり、反発を招いたりする可能性があるのです1)。
また、「規則やルールに厳しい」「事細かに指示命令をする」のようなリーダー行動は、場合によっては、マイクロ・マネジメント(上司が部下の業務に強く干渉するような管理スタイル)になってしまい、部下にストレスを与える恐れがあるので、注意が必要です2)。
優しいリーダーとは?
では、「優しいリーダー」とはどのような人物でしょうか?
例えば、
- 仕事のやり方を丁寧に教えてくれる
- 部下の話をじっくり聞いてくれる
- 積極的にほめてくれる
- 部下のことを気にかけてくれる
こうした特徴を持つリーダーを思い浮かべる方が多いかもしれません。
これらは、前回お話した「関係志向」、つまり人間関係を大切にし、部下への配慮を重視するリーダー行動に当てはまります。関係志向のリーダーシップは、チームの協働を促すうえで欠かせない重要な役割を果たします。
しかし、ここでも注意が必要です。関係志向ばかりが強く、タスク志向が弱いと、チームの目標達成に向けたマネジメントが十分に機能しない可能性があります。また、優しいだけのリーダーには、場合によっては部下がついてこなくなることもあります。
厳しさと優しさを合わせ持つ「High-Highリーダー」
前回お話したように、リーダーシップの古典理論では、「タスク志向」と「関係志向」の2つが基本的な要素とされていました。多くの実証研究で、「タスク志向」と「関係志向」の両方をバランス良く備えたリーダーは、高いパフォーマンスを発揮することが示されています。このようなリーダーは、「High-Highリーダー」と呼ばれています3)。
具体的には、目標達成に向けた「厳しさ」も、部下への配慮を伴う「優しさ」も、どちらも揃っている時に、リーダーシップが効果的に機能するということです。

もちろん、すべての人が完璧なリーダーになれるわけではありません。人にはそれぞれ得手・不得手があります。しかし、「厳しさ」と「優しさ」のバランスを意識し、状況に応じて適切に使い分けることは、多くの場面で求められるのではないでしょうか。
介護現場における「厳しさと優しさのバランス」の例
ここで、筆者が行った介護事業のリーダーやマネジャークラスへのインタビュー調査の一部を紹介します4)。調査では、複数の法人に「貴社の中で、指導力に優れたリーダーやマネジャーを選んでください」と依頼し、選ばれた方々にお話を伺いました。
彼らの語りから、厳しさと優しさのバランスをどのようにとるべきか、具体的なイメージがわいてくるのではないでしょうか。(※以下は実際の語りの要約です)
訪問介護のマネジャーA氏:
「ヘルパーは指導者を求めています。普段は否定せず支えてくれるけれど、時には厳しく指導し、しっかりフォローしてくれるサ責(サービス提供責任者)を信頼します。優しいだけでは、部下はついてこないものです」
訪問介護のサービス提供責任者B氏:
「ダメなことは、はっきり伝えなければなりません。ただし、言い方は工夫します。遠慮せずに伝えつつも、相手の気持ちを考えることが大切です」
施設系(入所型)のマネジャーC氏
「指導した後に、必ずほめるようにしています。怒られっぱなしでは、何が良いのかわからなくなってしまうので、『できると思うから言うんだよ』とフォローを入れます」
これらの声からもわかるように、適度な厳しさと、それを支える優しさが、信頼関係を築くうえで重要なのです。
ベースとして必要な「信頼蓄積」
同じ調査で、指導力に優れたリーダーやマネジャー30名に「日頃から重視するリーダー行動」についてインタビューしたところ、共通して「信頼蓄積」を大切にしていることがわかりました4)。
ここで言う「信頼蓄積」とは、部下から確固たる信頼を得るためのリーダー行動を指し、次の3つの要素が含まれます。
- 「常に人に向き合う」
部下一人ひとりに歩み寄り、向き合い、話を聴き、問題解決を支援することで、信頼関係を築く - 「感情のコントロール」
誰に対しても、常に安定した態度・感情で接する - 「率先垂範」
自らが模範となり、行動で示すことで、周囲に良い影響を与える
リーダーシップ研究の第一人者である金井壽宏氏は、「信頼蓄積」は「関係志向」の一部であり、部下が新しい取り組みを受け入れるために欠かせない要素であると指摘しています3)。
筆者の研究でも、「タスク志向」や「変化志向」のリーダー行動を機能させるためには、日頃からの「信頼蓄積」が不可欠であることが明らかになりました。
つまり、厳しさと優しさのバランスを取ることに加え、日々の関わりの中で信頼関係を築くことが、リーダーとしての土台となるのです。

部下の成長には「厳しさ」が欠かせない
最後に、「厳しさ」の重要性について、もう一つ言及したいと思います。
部下の居心地の良さや満足度という視点では、「優しさ」が大切だと、多くの人が直感的に理解できるでしょう。しかし、部下の成長という視点では、必ずしも「優しさ」が有効とは限りません。
例えば、優しい上司は、部下に積極的に仕事を教えようとするかも知れません。しかし、複数の研究で、「上司が部下に仕事を教える」ことが部下の能力向上に統計的に有意な影響を及ぼさないと報告されています5)6)。それよりも、「内省を支援する」5)や「仕事を任せる」6)といったアプローチの方が、部下の成長には効果的だと示されています。
筆者の別の調査でも、「上司の育成的関わり」(教える、スキルアップを支援する)は能力向上に直接影響せず、「創発的コミュニケーション」(失敗を恐れず挑戦を促進する職場のコミュニケーション)の方が大きな影響を与えることが明らかになりました4)。
これらの研究からわかるのは、部下の成長を促すには、「教えてあげる」という関係志向の関わりの効果は限定的で、以下のような要素が重要になるということです。
- 「仕事を任せる」:責任ある業務を任せることで、実践の中で学ぶ機会を与える
- 「挑戦を促す」:未経験の仕事に挑戦させ、新たなスキルを獲得する場を作る
- 「内省を促す」:自身の経験を振り返り、学びを深める機会を提供する
- 「相互に学び合う」:他者とともに振り返り、問題解決を図る

これらは、実は「変化志向」と言える要素が強く7)、仕事の「厳しさ」と言えるものです。責任ある仕事を任せられること、新しい挑戦を求められること、自らの経験を深く振り返ること、他者とともに考え抜くことーこうした「厳しさ」が、最も人を成長させるのです。
そして、その「厳しさ」を機能させるには、日頃からの「信頼蓄積」が欠かせません。信頼関係をベースに、「厳しさ」と「優しさ」のバランスを考えた部下への働きかけを行うことで、部下の成長を促し、組織全体の成果も向上していくのではないでしょうか。
※介護職の能力開発については、「介護職に必要な能力とは?」も合わせてお読みください。
(注)
1) 野中郁次郎・加護野忠男・小松陽一・奥村昭博・坂下昭宣(2013)『組織現象の理論と測定』千倉書房.
2)「規則やルールに厳しい」「事細かに指示命令をする」のようなリーダー行動は、「交換型リーダーシップ」の下位概念である「例外による管理」(上司が部下の行動に介入すること)に相当する。Yukl, G. (2013)によれば、「例外による管理」は、人を操作したりコントロールしたりしようとするネガティブな意味合いが強く、効果的なリーダー行動とは言えないとされる。
出典:Yukl, G. (2013). Leadership in Organizations-8th ed. Boston : Pearson.
3) 金井壽宏(1991)『変革型ミドルの探究: 戦略・革新指向の管理者行動』白桃書房.
4) 菅野雅子(2019)「介護労働の特性と介護人材マネジメント: 職場レベルのマネジメントと上司の関わりに着目して」法政大学博士論文.
5) 中原淳(2010)『職場学習論: 仕事の学びを科学する』東京大学出版会.
6) 榊原國城(2005)「職務遂行能力自己評価に与えるOJT の効果: 地方自治体職員を対象として」『産業・組織心理学研究』18(1), 23-31.
7) Yukl, G. (2012)の分類に照らすと、「仕事を任せる」は「権限委譲」、「挑戦を促す」は「革新の奨励」、「内省を促す」と「相互に学び合う」は「組織学習の促進」に相当する。「権限委譲」は関係志向と変化志向の両方の要素を含み、「革新の奨励」と「組織学習の促進」は変化志向に分類される。
出典:Yukl, G. (2012) “Effective leadership behavior: What we know and what questions need more attention,” Academy of Management Perspectives, 26(4), 66-85.
この記事の執筆者

茨城キリスト教大学 経営学部准教授
菅野 雅子
茨城キリスト教大学経営学部准教授。博士(政策学)、MBA(経営管理修士)。人事労務系シンクタンク等を経て現職。公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査検討委員会」委員。
著書に『福祉サービスの組織と経営』(共著)中央法規出版(2021年)、『介護人材マネジメントの理論と実践』(単著)法政大学出版局(2020年)など。