サルコペニア(Sarcopenia)とは?

サルコペニア(Sarcopenia)とは?

サルコペニアとは?

サルコペニア(Sarcopenia)とは、加齢や疾患などに伴って骨格筋の量や筋力が低下し、身体機能が衰える状態を指します。主に高齢者で多く見られますが、病気や長期の活動低下によって若年層にも起こることがあります。

サルコペニアは単に筋肉が減るだけでなく、筋力や持久力、動作能力の低下を伴い、転倒や骨折、日常生活動作(ADL)の低下、さらには要介護の増加につながります。

◎主な原因

  • 加齢:筋肉合成能力の低下、ホルモン分泌減少
  • 運動不足:特に筋力トレーニング不足
  • 栄養不足:たんぱく質やビタミンDの不足
  • 慢性疾患:糖尿病、心不全、がん、COPDなど
  • 炎症や長期臥床:病気や入院に伴う活動量低下

◎【診断の基準(一例)

  1. 筋肉量の低下(体組成計などで測定)
  2. 筋力の低下(握力:男性<28kg、女性<18kgなど)
  3. 身体機能の低下(歩行速度:1.0m/秒未満)

→ これらのうち2つ以上が該当すると「サルコペニア」と診断されます。

◎主な症状

  • 筋力の低下(立ち上がり・階段昇降が困難)
  • 歩行速度の低下(転倒しやすくなる)
  • 疲れやすさ、活動量の減少
  • 体重・筋肉量の減少(特に太ももやふくらはぎ)

ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome、略称ロコモ)とは、運動器(骨・関節・筋肉・神経など)の障害によって立つ・歩くといった移動機能が低下し、要介護や寝たきりになるリスクが高い状態を指します。

移動機能とは、単に歩く能力だけでなく、立ち上がる・階段を上る・バランスを保つなどの基本的動作を含みます。
この機能が低下すると、外出や社会活動が減少し、心身の健康にも悪影響を与えます。

◎主な原因

ロコモは多くの場合、加齢による運動器の変化が背景にありますが、病気や生活習慣も関係します。

  • 骨粗鬆症:骨密度低下による骨折リスク増加
  • 変形性関節症(膝・股関節など):関節の変形や痛みで歩行が困難
  • 脊椎疾患:腰部脊柱管狭窄症や圧迫骨折による神経障害
  • サルコペニア:加齢による筋肉量・筋力低下
  • 神経疾患:パーキンソン病、脳卒中後遺症など

◎症状・兆候

  • 階段の昇降や立ち上がりがつらくなる
  • 歩行速度の低下
  • 片足立ちが不安定になる
  • 転びやすくなる、つまずきやすくなる
  • 外出頻度が減少し、活動量が低下する

「フレイル(frailty)」とは

「フレイル(frailty)」とは、加齢に伴って心身の活力(筋力・認知機能・社会とのつながりなど)が低下し、健康障害を起こしやすくなっている状態を指します。日本語では「虚弱」と訳されることもありますが、病気とは言えないものの、健康と要介護の中間の段階とされており、高齢者のフレイルは、生活の質を落とすだけでなく、さまざまな合併症も引き起こす危険があります。

早く気付き、適切な対応をすることで改善が期待できます。

※東京都医師会HPより引用

◎フレイルの主な特徴

フレイルの主な特徴は、加齢や病気などによって心身の機能が全般的に低下し、健康障害を起こしやすくなっていることです。

身体面では筋力の低下や体重減少、歩行速度の低下、疲れやすさ、活動量の減少などが見られます。精神・心理面ではうつ傾向や認知機能の低下が起こりやすくなり、社会面では人との交流や外出機会が減少し、孤立しやすくなります。

これらの変化は互いに影響し合い、進行すると転倒や骨折、寝たきり、要介護状態へとつながる可能性がありますが、早期に気づいて運動や栄養、社会参加などの対策を行うことで改善や進行予防が可能です。

項目 内容
身体的フレイル

筋力低下、体重減少、疲れやすさ、歩行速度低下など

精神・心理的フレイル

うつ傾向、認知機能の低下など

社会的フレイル

独居、閉じこもり、経済的困難、人との交流の減少など

◎代表的なフレイルの兆候

  • 最近、体重が減った(意図しない減少)
  • 疲れやすい(何もしていなくてもだるい)
  • 歩く速度が遅くなった
  • 握力が弱くなった
  • 活動量が減った(家に閉じこもることが多い)

◎フレイルの主な原因

  • 加齢による筋肉量や活動量の低下(=サルコペニア)
  • 栄養不足(特にたんぱく質)
  • 慢性疾患(糖尿病、心不全、関節疾患など)
  • 社会的孤立やうつ状態

◎予防・対策

  • 栄養管理:十分なたんぱく質とバランスの取れた食事
  • 運動:筋力トレーニングやウォーキングなどの身体活動
  • 社会参加:地域活動や趣味活動への参加
  • 健康管理:慢性疾患の治療継続、定期的な健康チェック

※日本成人病予防協会HPより引用

なぜ、フレイル予防が重要なの?

下記の表からも分かるように要介護状態となった原因に、「骨折・転倒、「関節疾患」が多くを占めています。 

例えば、
サルコペニア(筋肉量・筋力の低下)→ロコモティブシンドローム(運動機能の低下/関節の痛みや、筋力低下により転びやすくなる)→転倒・骨折により入院→入院により全体的な体力・筋力の低下→車椅子や寝たきりになる→食事量低下(低栄養)・意欲低下・・・

などの悪循環(フレイルサイクル)に陥ることとなります。

そのためには、早期からの予防が重要となります。

■現在の要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位)

注:「現在の要介護度」とは、2022(令和4)年6月の要介護度をいう。
※<厚生労働省「国民生活基礎調査」/2022年>より引用

≪様々なチェック方法≫

■ 指輪っかテスト

ふくらはぎの太さで、簡単に身体全体のおおよその筋肉量を知ることができます。
親指と人さし指で指輪っかをつくり、ふくらはぎの最も太い部分を囲みます。

人差し指が届いて、隙間ができた場合は、身体全体の筋肉量が減っている(=サルコペニア)可能性が高いと考えられます。

※飯島勝矢監修、東京大学高齢社会総合研究機構フレイル予防ハンドブック.2016引用

■ ロコチェック(簡易セルフチェック)

以下の7項目のうち1つでも該当すれば、ロコモの可能性あり(日本整形外科学会)

  1. 片脚立ちで靴下がはけない
  2. 家の中でつまずいたり、すべったりする
  3. 階段を上るのに手すりが必要
  4. 横断歩道を青信号で渡りきれない
  5. 15分くらい続けて歩けない
  6. 2kg程度の買い物をして持ち帰るのが困難
  7. 家でのやや重い仕事が困難(掃除機、布団干しなど)
■フレイルの評価基準(日本版フレイル基準(J-CHS基準))

※フレイルの評価基準(日本版フレイル基準(J-CHS基準))

■GLIM基準(低栄養の診断及び栄養治療における世界標準の基準)

GLIM基準(Global Leadership Initiative on Malnutrition基準)は、栄養障害(低栄養)を国際的に統一した基準で診断するために、2018年に発表された国際コンセンサス基準です。病院、在宅、地域などあらゆる現場で使える診断フレームワークで、特に高齢者や慢性疾患患者のフレイル・サルコペニア評価とも深く関係します。

■図:GLIM基準による低栄養診断のプロセス

※日本栄養治療学会 GLIMワーキンググループ 作成 (2024.10.10 改訂版)
URL:https://www.jspen.or.jp/glim/glim_overview

■BMIの計算方法

BMI=体重(kg)÷(身長(m単位))²
で計算できます。
例)体重60kg 身長165センチ
60÷(1.65m)² となり、
BMIは22となります。

Q&A

Q&A:サルコペニア、ロコモティブシンドローム、フレイルなどに効く薬はありますか?

A)

薬自体で改善することは難しいでしょう。
既往歴などがある場合は投薬も必要となりますが、以前のコラムでもあるように、「食事」「運動」「睡眠」などで予防・対策をしましょう。

さらに、チェックリストなどを使用し、早期発見し対策をすることが重要です

Q&A:口(くち)のフレイルってあるの?

A)

フレイルオーラルフレイルという状態があります。

オーラルフレイルとは、加齢や病気などによって口腔機能(かむ・飲み込む・話すなど)のわずかな衰えが現れた状態を指し、将来的な食べる機能の低下や全身のフレイル、要介護状態につながる前段階とされます。
見た目や本人の自覚症状は軽微なことが多く、「歳のせい」として見過ごされやすいのが特徴です。

具体的には、かむ力や飲み込む力、舌や唇の動き、発音の明瞭さ、唾液の分泌量などが少しずつ低下します。その結果、硬いものが食べにくくなったり、むせやすくなったり、会話で言葉が出にくくなったりします。また、口腔機能低下は食事量や栄養摂取の不足を招き、サルコペニアや全身のフレイルの進行を加速させる要因となります。

予防や改善のためには、口腔衛生管理(歯磨きや定期的な歯科受診)、舌や唇・頬の運動、しっかりかんで食べる習慣、たんぱく質やビタミンを含む栄養バランスの良い食事が重要です。医療・介護・歯科の多職種連携によって、早期発見と対応を行うことで、健康寿命の延伸や生活の質の維持が期待できます。

この記事の執筆者

合同会社Sparkle Relation
代表 小林輝信

北里大学薬学部卒業
【資格】
認定 薬剤師/介護支援専門員/iACP認定/MBA/

【所属団体】
一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(J-HOP)会長
一般社団法人日本アカデミック・ディテーリング研究会 理事
日本老年薬学会所属
日本服薬支援研究会所属