大変だからリーダーにはなりたくない?
前回、前々回では、介護現場におけるリーダーや管理者のリーダーシップについて考えてきました。今回は、リーダー人材を取り巻く職場環境と彼らの職務意識について、介護労働実態調査(介護労働安定センター)のデータ1)をもとに考察してみたいと思います。
チームケアにおいて、人材とサービスのマネジメントを行うリーダー人材が重要な役割を果たします。しかし実際には、介護事業所の管理者や法人の人事担当者から、こんな声をよく耳にします。
「キャリアパスを整えても、リーダーになりたがらない職員が多くて困っている」
その理由は、「責任や負担ばかり重くて、大変そうだから」というものです。
リーダーとは、本当に「大変なだけの仕事」なのでしょうか?
ここでは、現場のリーダーに焦点を当て、改めて考えてみたいと思います。
「大変でもやりがいがある」-リーダーたちの職務満足の実態
まず、リーダーの職務満足の状況を、詳しくみていきたいと思います。
下の図表は、一般職・リーダー・管理職という職位別に、各項目への満足度(満足~不満足までの5段階評価の平均値)を示したものです。

これを見ると、多くの項目で、管理職の満足度が相対的に高いことがわかります。
管理職になると、キャリアアップや賃金、職場環境等への不満が小さくなり、仕事へのやりがいも高まる傾向が見られます。
リーダーについてみると「キャリアアップの機会」は、一般職より満足度が高くなっていますが、労働時間や休日、勤務体制、職場環境、人間関係など多くの項目では、一般職より満足度が低い結果となっています。
つまり、リーダー人材には、時間的・精神的な負荷が高く、不満を感じやすい現実があることが推察されます。
ただし、ここで見逃してはいけない重要なポイントがあります。
それは、「仕事の内容・やりがい」については、リーダーと一般職の間に差がないということです。つまり、負担が大きい中でも、リーダーたちは仕事にやりがいを感じながら取り組んでいる人が多いことが、このデータから読み取れるのです。
心も体も限界?-リーダーたちが抱える現場の負担
では、現場のリーダーたちは、具体的にどのような「大変」さを抱えているのでしょうか?
下の図表は、「労働条件に関する悩み」について尋ねたアンケート結果です。

これを見ると、どの職位においても共通して多く挙げられている悩みがあります。
- 「人手が足りない」
- 「仕事内容のわりに賃金が低い」
- 「有給休暇が取りにくい」
- 「身体的負荷が大きい」
こうした悩みは、一般職・リーダー・管理職を問わず、広く共有されています。しかし注目すべきは、リーダー層において、これらの悩みの選択率が相対的にやや高いことです。
つまり、現場のリーダーたちは、労働時間の問題や、身体的・精神的さまざまな負担をより強く感じていることがうかがえます。
板挟みのストレス-リーダーたちを苦しめる人間関係
次に、下の図表から「人間関係に関する悩み」について見ていきましょう。

これを見ると、管理職とリーダーの両方で、「部下の指導が難しい」と感じている人が6割以上にのぼっています。部下の育成・指導は、役職者にとって大きな共通の悩みとなっていることがわかります。
一方で、それ以外の人間関係の悩みを見ると、管理職では相対的に選択率が低い傾向が見られます。つまり、管理職は部下指導の悩みを除けば、人間関係に関する悩みがやや減少する傾向にあると言えます。
これに対して、一般職では、
- 「自分と合わない上司や同僚がいる」
- 「ケアの方法等について意見交換が不十分である」
といった悩みの割合が高く、職場内の人間関係や仕事上のコミュニケーションの問題に直面していることがうかがえます。
リーダーは、ちょうどその中間に位置しています。部下と上位職の間に挟まれ、双方との関係性に悩みを抱えやすい立場にあると推察されます。
部下よりも上司との関係がつらい?-リーダー満足度を左右する要因
最後に、どのような職場要因がリーダーの職務満足に影響を及ぼしているのかについて、分析を行いました2)。下の図は、分析の結果、職務満足の低下に影響を与えた要因を示しています。

まず、労働条件に関する悩みをみると、
- 「仕事内容のわりに賃金が低い」
- 「有給休暇が取りにくい」
- 「精神的にきつい」
- 「仕事中のけがなどへの保障がない」
などが、リーダーの職務満足を大きく低下させる要因となっていました。
興味深いのは、アンケートの回答で選択率が高かった「身体的な負担」は、職務満足の低下にはあまり関連していなかったことです。
一方、「精神的な負担」は職務満足に大きな悪影響を及ぼしており、メンタルケアの重要性が強く示唆される結果となりました。
これは、リーダーが現場実務とマネジメント責任の両方を担う中で、役割の曖昧さや孤立感、裁量の少なさといった「見えないプレッシャー」にさらされやすいことを意味しているようにも思えます。
次に、人間関係に関する悩みでは、
- 「経営層の介護の基本方針、理念が不明確である」
- 「経営層や管理職等の管理能力が低い」
- 「上司や同僚との仕事上の意思疎通がうまくいかない」
- 「上司や同僚の介護能力が低い」
といった、上位職層との関係の不備が、職務満足の大幅な低下に関連していることがうかがわれました。
一方で、アンケートで選択率が最も高かった「部下の指導が難しい」という悩みは、職務満足の低下にはあまり関連していませんでした。
つまり、リーダーにとって大きなストレスになっているのは、部下との関係ではなく、経営層や上位職との関係性であることが浮かび上がってきたのです。
リーダーの職務満足を高めるためには、経営層や管理職など上位階層との関係性に着目した支援策が欠かせないと言えるでしょう。
現場と組織の両方から支えることの重要性
以上の分析から、介護現場のリーダーたちは、多くの負担を抱えながら、確かに「大変」な職責を果たしていることがわかりました。しかしながら、そうした状況下にあっても、仕事へのやりがいを感じながら取り組んでいる人が多いことも、同時に示されています。
そんなふうに頑張っているリーダーに対する支援が十分でなければ、『大変なだけで割に合わない』という感覚が強まり、リーダーになりたくないという声が増えてしまうのも無理はないでしょう。
だからこそ、リーダーたちの頑張りに頼り切るのではなく、現場と組織の両方から支える視点が必要です。
現場の視点:互いに支え合う関係づくりを
現場の視点からは、リーダーもメンバーもお互いに助け合い、補い合う関係性を築くことが大切です。ソーシャルサポート(他者からの支援)は、ストレスを軽減し、職務満足を高める効果があることは、多くの研究で明らかになっています。
例えば、
- 「突発的な欠勤が多い」
- 「誰かが手を抜いている」
こうした状況が続けば、ただでさえ忙しい現場に、さらに負担がかかり、職場の雰囲気もギスギスしてしまいます。
反対に、お互いに支え合う職場であれば、リーダーの精神的な負担も軽くなり、有給休暇が取りやすくなるといった効果をもたらすかもしれません。
組織の視点:理念と仕組み、両方を整える
組織の視点からは、法人・事業所の理念やケア方針の明確化、そして組織的なリスク管理やサービス品質管理体制の整備など、基本的なマネジメントの確立が重要ではないでしょうか。
介護の職場では、
- 「理念への共感」(人間的要素)
- 「経営管理の仕組み作り」(構造的要素)
この両方が、組織を支える車の両輪となります。
働く人の「仕事へのやりがい」に頼るだけではなく、共感という「人間的要素」と、仕組み作りという「構造的」要素を整備することで、リーダー人材はケアチームの中核となり、利用者本位のケアをリードできるようになるでしょう。
リーダーが笑顔で働ける職場こそ、チーム全体の活力を高め、最終的には利用者へのより良いサービス提供につながるのではないでしょうか。
(注)
1) 本稿の内容は、介護労働安定センター「介護労働実態調査(労働者調査)」の2017年度のデータを用いて、筆者が再分析した結果をもとに論じている。
引用元:菅野雅子(2020)「介護事業所のリーダー人材の職務意識-職務満足と職場環境要因の関連に焦点を当てて」『総合福祉研究』24, 137-146.
2)リーダーの職務満足に及ぼす職場要因を検討するために、重回帰分析(ステップワイズ方式)を用いて分析を行った。
独立変数に労働条件の悩み、人間関係の悩み、統制変数に属性、従属変数に職務満足(総合的満足度)を用いた。
この記事の執筆者

茨城キリスト教大学 経営学部准教授
菅野 雅子
茨城キリスト教大学経営学部准教授。博士(政策学)、MBA(経営管理修士)。人事労務系シンクタンク等を経て現職。公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査検討委員会」委員。
著書に『福祉サービスの組織と経営』(共著)中央法規出版(2021年)、『介護人材マネジメントの理論と実践』(単著)法政大学出版局(2020年)など。