認知症の新薬
認知症の新薬
近年、認知症、特にアルツハイマー病の治療において、新しい薬剤が登場しています。これらの新薬は、病気の進行を遅らせる効果が期待されています。主なものを以下にご紹介します。
◎ レカネマブ(商品名;レケンビ)
レカネマブは、アルツハイマー病の原因とされる脳内のアミロイドβタンパク質に結合し、これを除去することで病気の進行を遅らせる効果が期待されています。2023年12月20日に日本で発売されました。
アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度の認知症の方や、脳内にアミロイドβの蓄積が確認された方が対象で、2週間に1度、約1時間15分かけて点滴で投与します。
投与前に、認知機能検査やアミロイドPET検査、MRI検査などの精密検査が必要で、副作用として、脳の浮腫や出血が報告されています。
◎ ドマネマブ(商品名:ケサンラ)
ナネマブもアミロイドβを標的とする抗体医薬で、アルツハイマー病の進行を遅らせる効果が期待されています。2024年9月に日本の厚生労働省から承認を受けました。
アルツハイマー病による軽度認知障害または軽度の認知症の方や、脳内にアミロイドβの蓄積が確認された方が対象になります。
4週間に1度、約45分かけて点滴で投与します。
レカネマブ同様、投与前に精密検査が必要で、副作用として、脳の浮腫や出血が報告されています。
(これらの新薬は、すべての患者さんに適応されるわけではなく、投与前に詳細な検査と医師の判断が必要です。また、副作用や効果には個人差がありますので、治療を検討される場合は専門の医療機関にご相談ください。)
アミロイドβとは
アミロイドβ(ベータ)は、脳の中で自然に作られるタンパク質の一種です。通常は分解・排出されるのですが、何らかの理由で過剰に産生されたり、うまく除去されなかったりすると、脳内に少しずつ蓄積していきます。このアミロイドβが溜まってくると、最初は小さな粒として神経細胞の周りに浮遊し、徐々にそれらがくっついて大きな塊になります。これが、アルツハイマー病の初期に見られる「老人斑」と呼ばれる変化です。
アルツハイマー病では、このアミロイドβの蓄積が脳内の神経細胞に悪影響を与えることがわかっています。具体的には、神経の間の情報伝達を妨げたり、炎症反応を引き起こしたりして、神経細胞を少しずつ壊していきます。
さらに、アミロイドβの蓄積がある程度進むと、別のタンパク質である「タウタンパク質」が脳内で異常な変化を起こし、神経細胞の中に絡まるように蓄積します。これにより、神経細胞を壊す原因となり、結果的に記憶力や判断力を司る海馬や大脳皮質の萎縮が進みます。
つまり、アミロイドβはアルツハイマー病の最初の引き金を引く存在であり、その後、連鎖的にタウ異常や神経の障害を引き起こすと考えられています。
「レカネマブ」や「ドナネマブ」といった新薬は、このアミロイドβを標的としています。体の中でアミロイドβに結合し、それを除去することで病気の進行を遅らせることを目的とした抗アミロイドβ抗体は、あくまでも進行を遅らせるためのものであり、病気を完全に止めたり、失われた認知機能を取り戻すものではありません。(注意:アミロイドβだけがアルツハイマー病の原因ではないという指摘もあります。)
治療費と効果は?
レカネマブの年間治療費は約298万(保険適応前)になります。患者の自己負担額は1~3割。18か月間投与することによって、臨床試験では認知機能の低下を27%抑制することが示されてますので、18か月間投与することによって、認知機能低下の進行を5.3か月遅らせる可能性があると言えます。
ドマネマブの年間治療費は約308万保険適応前)になり、レカネマブ問ほぼ同じ治療費となります。患者の自己負担額は1~3割。臨床試験では、認知機能の低下を29%抑制することが示されました。
ちなみに、厚生労働省の2024年5月に出された認知症と軽度認知症(MCI)の有病率と将来推計の研究結果によると、65歳以上の人口に対する2022年の有病率(男女合計)は認知症が12.3%、軽度認知症(MCI)が15.5%で、合わせて27.8%。この有病率が今後も同じと仮定した場合、2050年の患者数は認知症が586.6万人、MCIが631.2万人で、合わせて1217.8万人になると推計しています。
仮に、MCIの患者全員が治療を行った場合には、公的保険でカバーされても、税金や保険料の負担が社会全体に大きな影響を与える可能性があります。
日本と海外の医療費・保険制度の全体的な比較について
医療費の国際比較
指標 | 日本 | アメリカ | ドイツ | フランス | カナダ |
---|---|---|---|---|---|
1人あたり医療費(年間) | 約50万円 | 約130万円 | 約75万円 | 約70万円 | 約65万円 |
GDP比 医療費割合 | 約11% | 約17% (世界最高) |
約12% | 約12% |
約11% |
外来受診回数(年) | 約12回 (世界最多) |
約4回 | 約9回 | 約6回 | 約6回 |
医療費の国際比較※出典:OECD(2023年)
日本の国民皆保険制度と世界の比較
日本の保険制度
公的保険
日本は「国民皆保険制度」を採用しており、すべての国民が何らかの公的医療保険に加入することが義務付けられています。会社員は「健康保険(協会けんぽ・組合健保)」、自営業者や無職者は「国民健康保険」、75歳以上は「後期高齢者医療制度」に加入します。自己負担は原則3割ですが、子どもや高齢者では1〜2割に軽減されます。
皆保険制度
すべての国民が保険に加入し、医療を受ける権利が保障されている制度です。全国どこの病院でも保険証1枚で診療を受けることができ、自己負担額も一定。高額療養費制度により、自己負担額にも上限が設けられており、低所得者への配慮もなされています。
民間保険
民間医療保険は任意加入であり、入院費の保障やがん保険、先進医療特約などを目的に多くの国民が加入しています。公的保険でカバーされない費用(差額ベッド代、自由診療など)や、生活保障の補完として活用されています。
アメリカの保険制度
公的保険
アメリカには全国民向けの一元的な公的保険はありません。ただし、特定の人々に対しては以下のような公的保険があります。
- Medicare:65歳以上や障害者向け
- Medicaid:低所得者層向け(州ごとに運用) これらは基本的に税金で運営されますが、加入条件が厳しく、対象外となる人も多くいます。
皆保険制度
アメリカには皆保険制度は存在しません。保険未加入者(uninsured)は過去には人口の10%以上に達することもあり、治療を受けることが難しい人もいます。オバマ政権下の「オバマケア(ACA)」により保険加入が促進されましたが、依然としてカバー率は不十分です。
民間保険
アメリカでは医療保険の中心は民間保険です。企業が従業員に提供する「雇用主提供型保険」が主流で、退職や転職により無保険になるケースもあります。個人で民間保険を契約することも可能ですが、保険料は高額(月3〜5万円が一般的)で、内容に応じて自己負担も大きくなります。
カナダの保険制度
公的保険
カナダでは、州ごとの公的医療保険制度(Medicare)が整備されています。基本的な医療(診察、手術、入院など)はすべて税金によってカバーされ、無料または極めて安価で受けられます。処方薬、歯科、眼科など一部は保険の対象外で、州によって異なります。
皆保険制度
カナダは税金で支えられる皆保険制度を採用しています。国民全員が公的保険の対象であり、経済的事情にかかわらず医療にアクセス可能です。ただし、専門医の受診や手術までの待機時間が長いという課題もあります。
民間保険
民間保険は、保険外サービスの補完として利用されます。歯科、眼鏡、薬代、リハビリなどに対して、職場の福利厚生や個人契約で民間保険に加入するケースが多いです。
ヨーロッパ(ドイツ・フランスなど)の保険制度
公的保険
ドイツやフランスでは「社会保険方式(ビスマルク型)」を採用しており、労働者と雇用者が保険料を折半して支払う仕組みです。ドイツでは「法定健康保険(GKV)」に約9割が加入し、フランスでも「社会保障保険」により医療が提供されています。失業者や低所得者も国が保険料を補助します。
皆保険制度
これらの国も皆保険制度を採用しており、国民のほぼ全員が医療保険に加入しています。制度によりアクセスの公平性が保たれ、費用負担も少ないのが特徴です。
民間保険
ドイツでは年収が一定以上ある高所得者は、任意で民間保険に切り替え可能です。フランスでは、多くの人が補完的民間保険に加入し、公的保険でカバーされない医療費を補填します。つまり、公的と民間の“二層構造”になっています。
「 救急車の値段? 」
日本では救急車を要請したときは、無料ですよね。
それでは、海外ではどうでしょう。
アメリカ(州による):約120,000円。
カナダ:約40,000円
フランス:約8,000円(+走行距離)
イギリス・デンマーク:無料
ただし、イギリスやデンマークの消費税(付加価値税)は17.5%、25%となっています。
最近、「お薬がない」、「流通が安定していない」、「いつ納入されるのか分からない」などと聞いた(言われた)ことがありますか。
実はこの現象は2020年より発生していました。5年たった現在でも未だに解消される見通しは立っていません…。
この問題に関して、次回はお伝えしていきます。
この記事の執筆者

合同会社Sparkle Relation
代表 小林輝信
北里大学薬学部卒業
【資格】
認定 薬剤師/介護支援専門員/iACP認定/MBA/
【所属団体】
一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(J-HOP)会長
一般社団法人日本アカデミック・ディテーリング研究会 理事
日本老年薬学会所属
日本服薬支援研究会所属