認知症の中核症状と周辺症状

認知症の中核症状と周辺症状

加齢による物忘れと認知症の違い

◎ 加齢による物忘れの特徴

  • 体験の一部分を忘れる
  • ヒントがあると思い出すことができる

加齢による物忘れの場合、「朝食を食べたこと」は覚えているけれど、「何を食べたのかは思い出せない」というケースです。物事や体験の「一部」を忘れている、ということなので、どこで食べたか、朝食の種類は何かなど何らかのヒントがあれば、自力で思い出せることができます。

  • 時間、場所などの見当はつく
  • 日常生活には支障がない

生活に支障をきたすことはあまりありません。加齢による物忘れの場合、時間や場所の感覚は問題なく認識できる事が多く、仕事や家事などに影響を及ぼすことはあまりないでしょう。

  • 物忘れに対しての自覚はある

「あの用事を忘れてた…」などというように、「忘れたこと自体」は自覚できているケースが多い。例えば「近所の方の名前、なんだっけ?」と、忘れたこと自体にやきもきしている場合は、加齢による物忘れである可能性があります。

◎ 認知症の物忘れの特徴

  • 体験自体を忘れる
  • ヒントを与えられても、思い出せない
  • 新しい出来事を記憶できない

体験したことを忘れてしまいます。例えば、「朝食を食べたこと」そのものを忘れてしまうため、朝食を食べた直後に「朝食はまだ?」と発言することもあります。出来事そのものを覚えられないので、ヒントが与えられたとしても全く思い出せない、というケースがあります。

  • 時間や場所などの見当がつかない
  • 日常生活に支障がある

時間感覚や自宅周辺の道が分からなくなり、外出して帰宅できなくなる可能性があります。
今まで問題なくできていたはずの家事や仕事の手順が分からなくなる場合もあり、日常生活自体が困難になってきます。

  • 物忘れに対しての自覚がない

用事のこと自体を忘れてしまい、さらに「忘れたこと」さえ認識できなくなる。そのため、時間や約束事が守れなくなるなどのケースがあります。例えば、近所のひとの名前だけでなく、存在そのものを忘れてしまう、ということがあります。

認知症の主な症状

認知症の症状は、大きく「中核症状」と「周辺症状(BPSD:Behavioral and psychological symptoms of dementia)」に分けられます。

①中核症状(脳の機能低下による直接的な症状)

記憶障害

最近あった出来事や新しい情報を忘れず、直前に会話した会話や食事をした事実すら忘れてしまう。
自分の物忘れに初期がない進行し、認知症の初期からほぼ全ての患者に見られる代表的な症状です。

見当識障害

日時や場所、自分が今どこで何をしているのかといった見当識がわかりません。「今が何月何日か分からない」「自宅の場所が分からなくなる」「目の前の人が誰か理解できない」などが現れます。

判断力・実行機能の低下

状況を理解して適切に判断したり、物事を段階的に捉えて行う能力が障害されます。その結果、計画を立てて実行することが困難となり、これまでできていたことができなくなる可能性があります。
「料理の手順が分からない」などがあります。

失語・失行・失認

言いたい言葉が出てこなくなる「失語」、箸や電話など道具の使い方がわからなくなる「失行」、見知った物や人を認識できなくなる「失認」などの症状です。認知症が進行すると徐々に現れ、会話がうまく消えたり周囲の動作が困難になります。

②周辺症状(BPSD:認知症の行動心理症状)

  • 興奮・暴言・暴力:感情のコントロールができなくなる
  • 徘徊:目的なく歩き回る
  • 幻覚・妄想:「お金を盗まれた」「誰かが家にいる」など
  • うつ・不安:気分が落ち込む、気持ちが低下する

不安・うつ、意欲低下

認知症の周辺症状で多く見られる症状です。
意欲が低下することで、物事に無関心となったり、外出せず引きこもりがちになったりする場合もあります。食欲減退などの症状が出ることもあります。

幻覚、錯覚(幻視・幻聴など)

脳内の神経情報伝達に障害が生じることで起こる場合があります。
実在していないものが実在しているような体験をする症状と言われています。
幻視は、「部屋の中に子どもがいる」、「虫や動物が走り回っている」と話すことがあり、視覚上の幻視と言われています。

妄想・せん妄

妄想とは、認知機能の低下や、不安・恐怖などの感情などが原因となり、事実とは異なることを現実であると信じてしまう症状です。
代表的な症状には、物を盗まれたと周囲を疑う物盗られ妄想、周囲から責められていると感じる被害妄想が挙げられます。

せん妄とは、脳の特定の過剰な興奮と活動低下により引き起こされる意識の混乱のことです。見当識障害が起こり時間・場所が分からなくなることで、幻覚を見る・怒りっぽくなる・思考が混乱する・興奮するといった症状が現れることがあります。認知症の方に多く見られることがあります。

睡眠障害

認知症の方は、以下のような理由から睡眠障害になりやすくなります。

  • 脳機能の低下
  • 睡眠と関連する脳部位の変性
  • 加齢による睡眠の質の低下
  • ベッドで過ごす時間の長さによる生活リズムの乱れ

このような原因が重なると、不眠・昼夜逆転・過眠といった睡眠障害が起こりやすいため注意が必要です。

多動・徘徊

認知症周辺症状における多動とは、落ち着きがなく同じコースを歩き回る、同じ時刻に同じ行動を繰り返す時刻表的生活など、同じ行動を何度も繰り返すのが特徴です。

徘徊とは、行き先が分からなくなる記憶障害・時間・場所が分からなくなる見当識障害により、家の中や外を絶えず歩き回る症状のことです。
迷子になることも多く、事故・事件・行方不明につながる危険性があります。

暴言・暴力

脳の機能低下や萎縮により、思考力・理解力・判断力が低下するだけでなく、感情のコントロールに支障がでることがあり、暴言や暴力に発展してしまうケースがあります。脳の機能低下や萎縮が原因であるため本人の意思で抑制することが難しいとも言えます。

不潔行為

「トイレの失敗や失禁」「弄便」などの行為を指します。認知症中核症状の見当識障害や実行機能障害等により、汚物やトイレの方法を認識できないことが原因です。

介護拒否

  • 認知機能の低下により介護を受ける意味が理解できない
  • 介護を受けることに対する羞恥心が強い
  • 自立心が高く必要無いと思い込んでいる
  • 介護で不快な思いをした経験がある
  • 環境や習慣の変化を受け入れられない などの原因によって起こることがあります。

脳の構造と機能分類

前頭葉には高次機能(理性・社会性・計画など)の役目があるように、それぞれの部位により司る機能が異なっています。

脳卒中(脳梗塞や脳出血など)により脳の部位に障害が生じると、その部位の機能が失われることがあります。血管性認知症では、障害部位により特徴が見られることが多いです。

例えば前頭葉に梗塞などがおこり血管性認知症を生じた場合は、脱抑制と言われる、衝動や感情を抑えられなくなる状態が起きることがあります。

【脱抑制の症状】

  • 後先を考えずに行動する
  • 感情をむき出しにする、暴言、暴力
  • 場違いな言動をするなどの道徳的な思考の欠如
  • 万引きやセクハラなど違法なことを認知できない

認知症高齢者数等の推計

65歳以上の認知症及び軽度認知障害(MCI)の高齢者数並びにそれぞれの有病率の将来推計について下記の図を御覧ください。ここから推測されるように、2040年:認知症患者数は約584.2万人(有病率14.9%)に増加すると予測されています。

これらの推計は、高齢化の進行に伴い、認知症患者数が増加することを示しています。

出典:内閣府Webサイト 第1章 高齢者化の状況「認知症及びMCIの高齢者と有病数の将来設計」(最終アクセス日;2025/3/6)URL:https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_2_2.html

認知症高齢者数等の推計

認知症治療薬の歴史は、アルツハイマー型認知症(AD)を中心に発展してきました。1980年代以前では、認知症は老化の一部と見なされていました。アルツハイマー病の病理学の研究が進む一方、特効薬は存在しませんでしたが、神経伝達物質に関する研究が進展し、特にアセチルコリンの重要性が指摘されてりました。

1990年代になり、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が登場し1993年に米国でコグネックスがアルツハイマー病の治療薬として、初めて承認されました。アセチルコリンエステラーゼ(AChE)を阻害することで、アセチルコリンの分解を抑え、記憶力や認知機能を一時的に改善する一方、肝毒性などの副作用が問題となり、その後使用が中止されました。

1997年になり、日本でドネペジルが初めて承認されました。副作用が少なく、効果が安定しているため広く使用されています。 2000年代になり、新たな作用機序の薬剤として、リバスチグミン、ガランタミン、メマンチンなどが承認されました。

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出典:日経MD「【アルツハイマー病】10年ぶりの新薬登場間近」(最終アクセス;2025/4/2) https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/ report/t118/201012/517900_2.html

出典:日経DI「コリンエステラーゼ阻害薬同士の切り替えは有用?」(最終アクセス日;2025/4/2) https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/ yamamoto/201406/537068.html

抗認知症薬の種類

(1)コリンエステラーゼ阻害薬

  • 薬剤名:
    • ドネペジル(アリセプト / アリセプト)
    • リスチグミン(エクセロン / リスタッチパッチ)
    • ガランタミン(ラザダイン / レミニール)
  • 作用機序:アセチルコリンエステラーゼ酵素を阻害し、シナプス間隙のアセチルコリン濃度を増加させることで、認知機能を一時的に改善します。
  • 適応:軽度から中等度のアルツハイマー型認知症。

(2)NMDA受容体拮抗薬

  • 薬剤名:
    • メマンチン(ナメンダ / メマリー)
  • 作用機序:グルタミン酸の過剰な神経刺激を抑制することで、神経細胞の損傷を防ぎます。
  • 適応:中等度から重度のアルツハイマー型認知症。

※表も作成してみました

一般名 主な作用
貼り薬  リバスチグミン  アセチルコリンエクセラーゼを阻害する。
コリンエクセラーゼとは、シナプス(神経細胞と神経細胞の接続部同士の連絡を行う神経伝達物質を分解する作用を持つ酵素です。その働きを阻害することで、アセチルコリンを活性化させます。
内服薬  ドネペジル
 ガランタミン
メマンチン  グルタミン酸を抑制する。
脳内グルタミン酸受容体サブタイプのNMDA受容体チャネルの過剰な活性化を抑制することにより細胞内への過剰なカルシウムイオンの流入を抑制します。

この記事の執筆者

合同会社Sparkle Relation
代表 小林輝信

北里大学薬学部卒業
【資格】
認定 薬剤師/介護支援専門員/iACP認定/MBA/

【所属団体】
一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(J-HOP)会長
一般社団法人日本アカデミック・ディテーリング研究会 理事
日本老年薬学会所属
日本服薬支援研究会所属