人が育つ介護事業所の特徴とは?
これまでのコラムでは、「人材が定着する介護事業所の特徴」や「人材確保(採用)がうまくいっている介護事業所の特徴」を、「令和6年度介護労働実態調査」(介護労働安定センター)の結果に基づいて検討してきました。
その結果、「休暇の取りやすさ」や「良好な人間関係」など、定着にも採用にも共通して効果を発揮する特徴があることが見えてきました。
今回は、「人が育つ介護事業所」の特徴について見ていきます。介護労働実態調査は年度によって設問が変わるため、本稿では人材育成に関する設問が設けられている最新調査である令和4年度調査をもとに検討します。
*参考:介護労働安定センターウェブサイトhttp://www.kaigo-center.or.jp/report/
1. 事業所の「人材育成の充実度」は「人材定着」に関連する
まず、人材育成の取組みについての事業所の認識を確認してみましょう。表1は、介護事業所の「人材育成の充実度」(同業他社と比べてどの程度充実しているかを尋ねた質問)を定着率(事業所管理者が感じている定着状況)別に整理したものです。
表1 定着率別に見た人材育成の充実度(%)
出所:介護労働安定センター(2023)『令和4年度介護労働実態調査(事業所調査)』より筆者作成。
注:全体より5ポイント以上高い値に網掛けを、全体より5ポイント以上低い値にはアンダーバーを付した。
これを見ると、「定着率が低く困っている」事業所では、「充実している」「やや充実している」と回答した割合が低く、「やや劣る」「劣る」と回答した割合が高くなっています。人材が定着していない事業所ほど、人材育成が十分とは言いがたいと認識している傾向がうかがえます。
一方「定着率は低くない(良好)」事業所では、「充実している」と回答した割合が、他の群に比べて高いことがわかります。
こうした結果から、「人材育成の充実度」と「人材の定着率」は一定の関連があると言えそうです。ただし「定着率は低いが困っていない」事業所では、「充実している」割合は「定着率は低くない」事業所よりやや低い一方で、「やや充実している」割合が高くなっています。人材育成がどちらかといえば充実していると認識しているにも関わらず、定着率が低い理由については、この結果だけでは判断が難しいところです。
2. 定着率が良い事業所では、外部研修への参加促進の割合が高い
次に介護事業所が実際に取り組んでいる具体的な人材育成施策を見ていきます。表2は、人材育成策の実施状況を定着率別に示したクロス集計結果です。
表2 介護事業所が取り組む人材育成策(定着率別)(%)
出所:介護労働安定センター(2023)『令和4年度介護労働実態調査(事業所調査)』より筆者作成。
注:全体より5ポイント以上低い値にはアンダーバーを付した。
全体平均と比べて「高い/低い」項目を確認すると、「定着率が低く困っている」事業所では、「能力の向上が認められた者は、配置や処遇に反映している」と「自治体や業界団体が主催する教育・研修に参加させている」の割合が相対的に低い傾向が見られます。定着率が低く慢性的な人材不足に陥っており、能力に応じた人員配置や、外部研修への参加などまで手が回らない状況に置かれている可能性も考えられます。
「定着率は低いが困っていない」事業所では、「教育・研修計画を立てている」「採用時の教育・研修を充実させている」「職員に後輩の育成経験を持たせている」「自治体や業界団体が主催する教育・研修に参加させている」など、多くの項目で実施割合が低い傾向が見られます。前節で見たように、「人材育成の充実度」については「やや充実している」との自己評価が多かった一方で、具体的取組みは不足している様子もうかがえます。とくに、「採用時の教育・研修を充実させている」の実施率が低いことと、「定着率が低い」ことの間には、何らかの関係があるのかもしれません。
「定着率は低くない」事業所では、全体平均と比べて突出して「高い/低い」項目は見られませんが、「定着率が低い」2つのグループと比べると、「自治体や業界団体が主催する教育・研修に参加させている」の割合に違いがあることがわかります。外部研修への参加促進と定着率には、何らかの関連があることが示唆されます。
法人・事業所という枠を超えて学ぶ「越境学習」は、人材の定着・育成において重要な意味を持つ可能性が考えられます。とくに介護業界は中小零細の法人・事業所が多く、自前の教育研修体制を整えることが難しいケースも少なくありません。「越境学習」の意義・重要性については、以前のコラムでも取り上げたので、あわせてご参照ください。
3. 職員は「教育訓練・能力開発の機会」に満足していない
では、労働者は事業所の人材育成の取組みをどのように感じているのでしょうか。同じ年度に実施された労働者調査の結果から検討します。
まず、「現在の仕事の満足度」を尋ねた結果(表3)から、「教育訓練・能力開発の機会」に対する満足度を確認します。
表3 現在の仕事の満足
出所:介護労働安定センター(2023)『令和4年度介護労働実態調査(労働者調査)』より筆者作成。
注:満足度D.I.=(「満足」+「やや満足」)-(「やや不満足」+「不満足」)
この表では、「満足」「やや満足」の合計から「やや不満足」「不満足の合計を引いた値である「満足度D.I.」を用いて、各項目の相対的な満足度を確認することができます。
その結果、「①仕事の内容」「⑧職場の人間関係」「⑨仕事上の相談の環境」「⑩仕事関係の情報の共有」「⑪雇用の安定性」などは、相対的に満足度が高いことがわかります。
一方、「⑪教育訓練・能力開発」の満足度D.I.は▲6.8ポイントとなっており、他の項目と比べて満足度が低い傾向にあります。
事業所調査では、8割以上(83.4%)の事業所が同業他社と比べて「同程度以上」と回答していたのに対して、労働者側の満足度D.I.はマイナスになっており、両者の認識に「ズレ」が生じている可能性があるかもしれません。
4.「教育訓練・能力開発の機会」への満足度は「この仕事を続けたい気持ち」に関連
次に、今後のキャリアの希望別に見た「教育訓練・能力開発の機会」への満足度を確認します。表4は、そのクロス集計の結果を示したものです。
表4 今後のキャリアの希望と「教育訓練・能力開発の機会」に対する満足度のクロス集計
出所:介護労働安定センター(2023)『令和4年度介護労働実態調査(労働者調査)』より筆者作成。
注:満足度D.I.=(「満足」+「やや満足」)-(「やや不満足」+「不満足」)
これを見ると、仕事(職務)に関する希望として「今の仕事を続けたい」と回答した人は、別の仕事をしたい・わからない・働きたくないと回答した人と比べて「教育訓練・能力開発の機会」の満足度D.I.が相対的に高くなっています。
同様に、勤務先に関する希望として「今の勤務先で働き続けたい」と回答した人は、別の勤務先で働きたい・わからない・働きたくないと回答した人と比べて「教育訓練・能力開発の機会」の満足度D.I.が相対的に高い傾向が見られます。
つまり、労働者のデータで見ても、人材育成施策(教育訓練・能力開発の機会)は、今の仕事や勤務先で働き続けたいという就業継続意向と関連しており、職員の定着を促すうえで重要な施策であることがわかります。
5. 人が育つ職場づくりに向けて
ここまでの結果から少なくとも、
- 事業所が認識する「人材育成の充実度」は定着率と関連していること
- 職員が感じる「教育訓練・能力開発の機会」への満足度は、今の仕事や勤務先で働き続けたいというキャリアの希望と関連していること
の2点が示唆されました。
つまり、事業所調査・労働者調査のどちらのデータから見ても、人材育成に関する取組みは人材の定着と関連している可能性があるということです。
こうした点を踏まえると、学びや成長の機会を意識的に用意することは、職員の仕事満足や「この仕事を続けたい」という気持ちを支える重要な要素だと言えます。
成長実感を得て自律的に行動できるようになれば、介護の仕事に「やりがい」を感じやすくなり、その結果としてケアの量・質の両面で良い循環が生まれていくのではないでしょうか。
(注)
1) 介護労働安定センター(2023)『令和4年介護労働実態調査』(事業所調査)
2) 介護労働安定センター(2023)『令和4年介護労働実態調査』(労働者調査)
この記事の執筆者
茨城キリスト教大学
経営学部准教授
菅野 雅子
茨城キリスト教大学経営学部准教授。博士(政策学)、MBA(経営管理修士)。人事労務系シンクタンク等を経て現職。公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査検討委員会」委員。
著書に『福祉サービスの組織と経営』(共著)中央法規出版(2021年)、『介護人材マネジメントの理論と実践』(単著)法政大学出版局(2020年)など。

