介護保険で「できること」と「できないこと」を知る意味

介護保険で「できること」と「できないこと」を知る意味

介護のご相談を受けていると、「介護保険があるから、そんなにお金はかからないと思っていました」というお声をいただくことがございます。

この言葉の裏には、「どこまでが介護保険で、どこからが自己負担なのか」が、実はよく分からないまま介護が始まってしまっている現実があります。

介護保険は、日本の社会保障制度の中でも非常に心強い制度です。しかし同時に、「万能な制度」ではありません。介護保険でカバーされる範囲と、されない範囲の線引きをきちんと理解していないと、想定外の出費に戸惑い、精神的にも経済的にも追い込まれてしまうことがあります。だからこそ、介護が始まる前、あるいは始まった直後に、この線引きを知っておくことがとても大切なのです。

介護保険でカバーされる範囲とは何か

介護保険でカバーされるのは、一言でいえば、**「介護が必要になった本人の日常生活の自立を支援するための行為」**です。
要介護認定(要支援・要介護)を受けた方が、その状態に応じて必要なサービスを利用できます。

在宅で受ける介護サービス

最も多く利用されるのが、自宅で受ける在宅サービスです。訪問介護では、入浴、排せつ、食事介助といった身体介護が中心になります。また、一定の条件のもとで、掃除や洗濯、調理といった生活援助も利用できます。ただしここで重要なのは、「本人の生活に直接必要な範囲」に限られるという点です。訪問看護や訪問リハビリテーションも、介護保険の対象です。医療的なケアや機能維持を目的としたリハビリが、自宅で受けられるのは大きな支えになります。訪問入浴介護など、自宅での入浴が難しい方にとっては、生活の質を保つうえで欠かせないサービスです。

通所サービス(デイサービス・デイケア)

通所サービスは、要介護者本人の心身機能の維持だけでなく、家族の介護負担を軽減する役割も担っています。日中、デイサービスに通うことで、入浴や食事、レクリエーションを受けられ、本人にとっても社会とのつながりを保つ貴重な時間になります。多くのご家族が、「本人のため」という理由だけでなく、「介護する側が少し休める」という理由で、このサービスのありがたさを実感されています。

短期入所(ショートステイ)

ショートステイは、介護するご家族が体調を崩したときや、冠婚葬祭などで一時的に介護ができないときに利用されます。
介護保険では、施設で受ける介護サービス部分はカバーされますが、食費や居住費は自己負担になります。ここを知らずに利用し、後から請求額を見て驚く方も少なくありません。

福祉用具と住宅改修

介護保険で意外と大きな役割を果たすのが、福祉用具貸与と住宅改修です。介護用ベッドや車いす、手すりなどをレンタルできることで、介護する側・される側の負担は大きく軽減されます。また、住宅改修では、手すりの設置や段差解消などが対象となり、原則20万円までが支給対象です。

施設サービス

特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院などの施設では、介護そのものに関わるサービス費用が介護保険でカバーされます。ただし、ここでも重要なのは、「施設に入ればすべて保険でまかなわれるわけではない」という点です。

介護保険でカバーされない範囲とは何か

介護が進むにつれ、多くの家族が直面するのが、介護保険ではカバーされない支出の存在です。

食費・居住費という大きな自己負担

施設やショートステイを利用した場合、食費と居住費は原則として全額自己負担になります。所得に応じて負担限度額認定制度を利用できる場合もありますが、それでも一定の自己負担は避けられません。この部分が、介護費用を長期的に考えるうえで大きなポイントになります。

医療費は介護保険とは別

病院での診察や入院、薬代などは、介護保険ではなく医療保険の対象です。介護と医療が同時に必要になると、「介護保険の自己負担」と「医療保険の自己負担」が同時に発生し、家計への影響が大きくなります。

日常生活の延長部分は対象外

介護保険は「本人のための制度」です。そのため、家族全員分の食事作りや掃除、庭の手入れ、ペットの世話などは対象外です。
また、ただそばにいるだけの見守りや、長時間の付き添いも、原則として介護保険ではカバーされません。

嗜好品・日用品・民間サービス

おむつ代、理美容代、衣類、日用品なども自己負担です。さらに、夜間の見守りや長時間の付き添いなど、民間の自費サービスを利用する場合は、全額自己負担となります。

自己負担割合にも注意が必要

介護保険サービスは原則1割負担ですが、一定以上の所得がある場合は2割、3割負担になります。「介護保険=安い」というイメージだけで考えていると、想定よりも負担が重く感じられることがあります。

まとめ:線引きを知ることが、安心につながる

介護保険は、介護に直面した家族を支える非常に重要な制度です。しかし、生活すべてを支えてくれる制度ではありません
介護そのものは保険で支えられ、生活の延長部分は自己負担になる――この基本的な考え方を理解しておくことが、介護費用の見通しを立てるうえで何より大切です。

介護は長期戦になることも少なくありません。だからこそ、制度を正しく理解し、どこまでを保険に頼り、どこからを家族で、あるいは自費で補うのかを整理しておくことが、心の余裕にもつながります。

この記事の執筆者

独立系ファイナンシャルアドバイザー( IFA)
法政大学大学院( MBA)

田中奈穂美

青山学院大学経営学部卒。IFA(独立系金融アドバイザー)、法政大学大学院MBA、宅地建物取引士、証券外務員1種、銀行融資診断士、相続診断士、投資診断士、ファイナンシャルプランニング技能士 2級。 年間100件を超える法人と個人の財務相談を受ける。 個人は年金・資産運用・ライフプランなどのマネーセミナーを、マネーキャリア、 マネーフォワードで行う。法人は、コスト削減、安定経営に役立つ処々の情報と確定拠出年金をご提供する。 社会保険料削減・節税・生命保険内部留保・投資信託・投資用マンションなど、 幅広い金融知識を持ち、士業チームとともに、クライアントの考え方に寄り添っ たコンサルティングに努める。 プライベートでは2児の母として、中学受験、大学受験を経験。両親の介護と相続、配偶者相続も経験。

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