人材確保がうまくいっている介護事業所の特徴とは?
前回のコラムでは、人材が定着しやすい介護事業所の特徴について、「令和6年度介護労働実態調査」(介護労働安定センター)の結果をもとに検討しました。その結果、事業所と労働者の認識にはやや差異があり、労働者の側からは「休暇の取りやすさ」「人間関係」「仕事上のコミュニケーション」の重要性が示唆されました。
今回は、テーマを「人材確保」に移し、同調査結果から事業所と労働者それぞれの認識を比較しながら、効果的な人材確保策について考えていきます。
*参考:介護労働安定センターウェブサイトhttp://www.kaigo-center.or.jp/report/
1. 人材確保難の「成功」と「困難」:事業所の認識から見る現状
まずは、事業所の管理者が人材確保の状況をついてどうとらえているか、その認識から見ていきましょう(図1)。
図1 人材確保について事業所の認識
出所)介護労働安定センター(2025)「介護労働実態調査(事業所調査)」より筆者作成。n=8,978
※過去1年間採用していない事業所および「その他」を除外しているため、各カテゴリーの合計は100%にならない。
図1は、過去1年間に採用した人材の「人数」と「質」についての評価を尋ねた結果です。これを見ると、「人数は不足しており、質にも不満がある」と回答した事業所が最も多く(26.0%)、採用に苦戦している様子がうかがえます。
一方で、「人数は確保でき、質にも満足している」と回答した事業所も全体の15.5%ほど存在します。「質はともかく人数は確保できている」という回答も含めると、約3割強(34.0%)の事業所が、一定の量的確保ができていることになります。
このように、一口に「人材不足」といっても、その実態は事業所ごとに大きく異なります。では、こうした人材確保の状況に、事業所の属性がどのように関係しているのかを次に見ていきましょう。
2. 施設系・大規模事業所はとくに苦戦
表1は、事業所の属性別に見た人材確保状況を示しています。
表1 人材の確保状況に関する事業所の認識(属性別)n=8,978
出所:介護労働安定センター(2025)「介護労働実態調査(事業所調査)」より筆者作成。
※表の見やすさを考慮して無回答の数値を除外している。赤の網掛けは全体より5ポイント以上高い数値、緑の網掛けは5ポイント以上低い数値を指す。
サービス系列別にみると、「施設系(入所型)」および「居住系」では、「人数・質ともに確保できていない」と回答した割合が他系列より高く、人材確保の課題感が際立っています。この背景には、夜勤やシフト勤務など不規則な働き方が関係していると考えられます。
次に規模別にみると、法人・事業所規模ともに、「大きいほど人材確保に苦労している」という明確な傾向が見られます。
特に、法人規模「50人以上」、事業所規模「20人以上」で課題感が顕著です。これは、前述の「施設系(入所型)」(特養や老健など)が比較的規模が大きい傾向にあるため、夜勤を伴う施設系特有の勤務体制が影響していると考えられます。
事業開始後経過年数でみると、5年未満の新しい事業所ほど、「人数・質ともに確保できている」割合が高い傾向があります。新設の施設・事業所は、「新しくてきれい」「設備が整っている」など、働きやすさや快適さが期待されていることが推察されます。
これらの結果をまとめると、人材確保の課題感が強いのは、「施設系(入所型)」「居住系」といった夜勤を伴う系列で、かつ規模の大きい法人・事業所であることがわかります。
この点は、前回のコラムで取り上げた「定着感」に関する傾向と一致しています。つまり、大規模な施設系事業所では、採用面と定着面の双方で人材マネジメント上の課題が重なっていると言えるでしょう。
一方、事業開始からの経過年数別にみると、採用面では新しい事業所ほど人材を確保しやすい傾向があるものの、定着面では逆に短期間で離職する傾向が見られます。新設の事業所は「新しくてきれい」「設備が整っている」などの魅力から応募者を集めやすい一方で、立ち上げ期特有の運営の不安定さから、早期離職につながりやすいと考えられます。
3.事業所の認識:採用に「効果あり」は賃金・休暇。しかし決定打はなし
次に、具体的にどのような取り組みが採用に効果を上げているのかを確認していきましょう。ここでは、事業所に対して「採用に効果があった雇用管理施策」を尋ねた結果を示します(図2)。
図2 事業所調査「採用に効果があった雇用管理施策」(複数回答)
出所:介護労働安定センター(2025)「介護労働実態調査(事業所調査)」より転載。
上位3項目は次のとおりです。
- 第1位:賃金水準の向上(22.5%)
- 第2位:有給休暇等の各種休暇の取得や勤務日時の変更をしやすい職場づくり(19.2%)
- 第3位:人間関係が良好な職場づくり(12.5%)
事業所としては、賃金や休暇などの労働条件の改善が採用に有利に働いていると認識していることがうかがえます。一方で、最も多い回答は「効果があるものはない」(44.9%)であり、多くの事業所が採用の難しさを実感し、決定打となる施策を見出せていない現状が浮き彫りになります。
4. 労働者の本音:重視するのは「通勤の便」「やりたい介護」「人間関係」
それでは、労働者は就職先を選ぶ際に、どのような要因を重視しているのでしょうか。
まず、図3により「現在の法人に就職したきっかけ」について見ていきましょう。
この結果を見ると、「友人・知人からの紹介」(35.7%)が最も多く、口コミや紹介の影響が大きいことがわかります。また「ハローワーク」(19.3%)や「求人情報サイト」(9.1%)など、公的機関や民間媒体も依然として重要な募集チャネルとなっています。
次に、現在の法人に就職した理由について見てみましょう(図4)。
図4 労働者調査「現在の法人に就職したきっかけ」(複数回答)
出所:介護労働安定センター(2025)「介護労働実態調査(労働者調査)」より転載。
上位3項目は以下のとおりです。
- 第1位:通勤が便利だから(51.9%)
- 第2位:自分のやりたい介護ができそうだったため(33.6%)
- 第2位:職場の人間関係が良さそうだったため(33.6%)
労働者にとって、通勤のしやすさが最も重要な要素であることがわかります。さらに、「やりたい介護ができそう」「人間関係が良さそう」といった職場の質的側面が、賃金よりも高く評価されています。
実際、「賃金水準が比較的高いため」は17.2%にとどまり、上位には入りませんでした。
一方で、「休暇のとりやすさ」(労働者24.4%、事業所19.2%)は、労使双方が共通して重視している項目であり、引き続き重要な施策であると言えます。
ここで注目すべきは、事業所と労働者の認識のズレです。事業所調査では「賃金水準の向上」が最も効果的な採用施策とされていたのに対し、労働者調査では上位に入っていません。
逆に、労働者が重視する「やりたい介護」や「人間関係」について、事業所側は採用施策として十分に重視していない傾向が見られます。
つまり、労働者は「職場の質的側面重視」に対し、事業所は「待遇重視」というズレがあることが明らかです。このズレを埋めることこそ、人材確保に向けた第一歩といえるでしょう。
5. 最大の「人材確保策」は、「定着促進策」にある
ここまで見てきた結果から興味深いのは、人材確保に関連する傾向が、前回のコラムで取り上げた「人材定着」の傾向と極めて共通しているという点です。
賃金については労使間にやや認識のズレがある一方で、「休暇のとりやすさ」については、人材確保・定着の両面で、事業所・労働者双方がその重要性を認識していることがわかります。
多くの事業所では、「賃金改善こそが人材確保・定着の鍵」と考えがちです。もちろん賃金は重要な要素ですが、それだけで人材確保がうまくいくわけではないことを、ここまでのデータが示しています。
求職者は、就職を決める際に、通勤圏内にある複数の法人・事業所を比較しながら、賃金だけでなく、ケア方針やケアの質、そしてそれを支える人間関係の良さにも注目しています。
こうした「中で働いてみないとわからない部分」も、地元での口コミを通じて伝わる傾向があるでしょう。実際に「友人・知人からの紹介」で入職した人が多いことは、そのような内情を知った上で納得して入職していることを示しています。
したがって、良好な定着促進策を進めることこそが、最大の人材確保策になる可能性が高いと考えられます。賃金改善に加え、労働者が重視する「良いケア」を実現するための方針の明確化、それを支える職務設計、そして良好な人間関係を育む職場づくりが不可欠です。
これらは「定着促進策」であると同時に、結果的に「採用力の強化」にも直結する取り組みといえるでしょう。
(注)
1) 介護労働安定センター(2025)『令和6年介護労働実態調査』(事業所調査).
2) 介護労働安定センター(2025)『令和6年介護労働実態調査』(労働者調査).
この記事の執筆者
茨城キリスト教大学
経営学部准教授
菅野 雅子
茨城キリスト教大学経営学部准教授。博士(政策学)、MBA(経営管理修士)。人事労務系シンクタンク等を経て現職。公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査検討委員会」委員。
著書に『福祉サービスの組織と経営』(共著)中央法規出版(2021年)、『介護人材マネジメントの理論と実践』(単著)法政大学出版局(2020年)など。

