「もっと介護を考えよう」「はじめての介護認定~なぜ認定調査で頑張っちゃうの?」

11月11日は介護の日「もっと介護を考えよう」

「はじめての介護認定~なぜ認定調査で頑張っちゃうの?」

介護サービスを開始するために必要なのが「介護認定」です。申請をして介護の認定が決定することによって介護サービスの利用可、不可が決まります。

介護をされる側の方も仕事や家庭などでも責任世代の方が多いこともあり介護サービスは有効に使いたいと思われ、介護申請の手続きをされていると思います。

私も、自分の両親、そして介護現場でも認定調査に同席したことがあります。また、利用者の家族様からもちらほら耳にする認定調査で一番耳にすることは「普段は出来ないことが、介護認定では出来てしまう」という言葉です。

普段できないことが介護認定では出来てしまう・・・ということは、介護認定の結果が軽く出てしまうのではないか?と思われるご家族もおられるのではないでしょうか?

ここであるご家庭の初めての介護認定調査の様子をご紹介したいと思います。

介護認定の日に、母がまるで別人のように見えた日

80代の母は、数年前から物忘れが目立つようになり、最近では数分前のことも忘れてしまうことがあります。

「お財布がない」「メガネが見つからない」ーーそんな電話が、私の職場に何度もかかってくるのが日常になっていました。

日中は私も夫も仕事。母は家にひとり。「せめて昼間だけでも介護サービスを使えたら」と思い、思い切って介護保険の申請をすることにしました。

「お客様が来るのだから、きちんとしなきゃ」

認定調査の日の朝、母に「今日は役所の人が来るからね」と伝えると、「あら、お客様が来るのね。失礼にならないようにしないと」

そう言って、母はクローゼットの奥からクリーニングのカバーに包まれたお気に入りのセーターを取り出し、きれいにお化粧までしていました。首にはネックレス。まるでお出かけの日のような張り切りように、私は何だかびっくりしました。

「まぁ、なんてお元気なんでしょう」と思われたい母

調査員の方が到着すると、母はにこにこと笑顔で出迎えました。

「まぁまぁ、ようこそ。私のことをわざわざ見に来てくださったの?」
普段は腰が痛くて立ち上がるのも一苦労なのに、その日はスッと立ち上がり、調査員の方に向かって挨拶をしました。

そして、調査が始まるといつもできないようなことがなぜかスムーズにできてしまうのです。さすがに無理と思っていた片足立ちも難なくこなし、動くたびに顔をしかめるいつもの母とは別人のように、余裕すら感じる表情をしていました。

(え? いつも「いたたた…」って言ってるのに!?)私はその光景を信じられない気持ちで見ていました。

「私は何でも自分でできますから」

調査が進むにつれ、母の行動に焦りを感じる私がいました。

調査員の「今日は何月何日ですか?」の質問には、「4月・・・えっと・・・」と母は部屋を見まわしました。そして壁のカレンダーと時計が目に入ると、調査員の顔を見ながら「そうそう、4月12日の2時20分よ」と答えました。

(カレンダー見たじゃん!カンニングよ…!)と思いましたが、調査員の方は母に対して、やさしくうなずきメモを取るだけでした。

そして、調査が終わりに差し掛かり、調査員の方から

「最近、お困りのことはありますか?」と聞かれた母は、
「大丈夫よ。私は何でも自分でできるし、家族に手伝ってもらうことなんてないの」と胸を張ります。

今まで母に対しての介護は十分ではないかもしれないけれど、仕事をしながら家族で協力して介護をしてきた。認知症だけではなくて、足腰も弱ってきて身体的な介護に疲弊する日もあるのに...。

私は思わず声を上げてしまいました。

「お母さん!毎日メガネや財布を探して何度も電話してくるじゃない!足も腰も痛くて、いつも私たち家族が一緒に歩いてるのに!なんで、何でもできるって言うの?」

その瞬間、母の顔が少し曇りました。

そして調査員の方が、やさしく母に言いました。

「B子さん(私)は、Aさん(母)のことを心配されているんですよ。お一人のときに困らないように、今日はそのお手伝いが必要かどうかを見に来たんです。」

「出来ないと思われたくない」—— 母の気持ち

調査が終わり、調査員が帰る前に私は思わず声をかけました。
「今日の母は、いつもと全然違ったんです。物忘れも進んできているし、いつもはあんなに動けないので私たちも介護に時間がかかり疲れが出ている状態です…。」

調査員は少し笑って、こう言いました。

「Aさん、今日は頑張っていらっしゃいましたね。
私たちは“できる・できない”だけではなく、“どう見せようとしているか”も見ています。カレンダーを見て答えていたのも気づいていました。でも、答えがあっているか自信があれば、私の表情をうかがう事はしないはずです。きっと私の顔を見て正しい答えだと思って答えたんですね。Aさんは“自分はまだしっかりしている”と伝えたかったんだと思います。」

その言葉に、私はハッとしました。
母は“できない自分”を見せたくなかったんだ。
私たちに頼っている現実を認めたくなかったんだ。
そう思うと、胸がチクッと痛みました。

介護認定の結果と、私の気づき

後日、介護認定の結果が届きました。結果は「要介護1」。正直、少しホッとしました。

主治医にも調査の日の出来事を話し、日常の様子や困っていることを伝えることで、ようやく母の“普段の姿”をわかってもらえたのだと思います。

母が張り切ってしまったあの日。「できる」と言い張る姿を見て、私は腹が立ってしまってしまいましたが、“できなくなっていく自分”を必死に守っていたのかもしれません。

今では、「『できるところを見せたい』も母の個性」と思えるようになりました。
介護認定の面談日は、母の“プライド”と“まだまだ元気でいたいと思う気持ち”を改めて感じた日でもありました。

介護認定調査では、認知症の方の“心の動き”や“今の状態”や“周囲の影響”がどのように現れているかなどを、質問やいくつかの行動動作などを行うことで現在の状況を把握することが目的です。

たとえば母のように、できないことなどを、いつもより頑張ってしまうーー。これは、認知症の方によく見られる姿です。「もう昔みたいに動けない」「覚えられない」と思われたくなくて、一生懸命、できる自分を見せようとする。その姿の奥には、プライドや自尊心、そして“まだ私はちゃんとできる”という想いがあるのです。

調査員は、そうした心の動きを汲み取りながら、言葉だけでなく、表情やしぐさ、目線なども合わせてみています。調査員はそれらを客観的に調査の場で記録に残します。

また、介護認定の結果には医学的な判断材料として、主治医の意見書があります。その中で医療の面から見た体や心の状態をもとに、ご本人や家族やの声とあわせて総合的に判断されます。

では、最後に適正な結果につなげるための、介護認定調査で調査員に伝えるポイントをまとめてみます。

伝える内容チェックリスト☑

① 日常生活での困りごと・できなくなったこと
  • ☐ 食事の準備ができない(火の始末、段取り、忘れる)
  • ☐ 薬を飲み忘れる/何度も飲もうとする
  • ☐ 買い物に行けない/何を買うか忘れる/同じものをいくつも買う
  • ☐ 家事ができない/掃除洗濯の手順がわからない、ごみが捨てられない

「昔はできていたが今は難しい」が重要!

② 記憶・判断力の問題
  • ☐ 同じことを何度も聞く/数分前のことを忘れる
  • ☐ 約束や予定を覚えていられない
  • ☐ 財布・メガネなどをよく失くす
  • ☐ 知らない請求書があったり、契約をしてしまう

「生活に支障がある物忘れ」を具体的に。

③ 行動・安全面の心配
  • ☐ ガス・電気の消し忘れ
  • ☐ 外出して迷う/帰れなくなる
  • ☐ 夜中に起きて家の中を歩き回る
  • ☐ 転倒歴がある/ふらつきがある

「事故につながる行動」がある場合は必ず伝える。

④ 感情・精神面の変化・・・「心の変化」も大切な評価ポイント
  • ☐ 不安が強い/寂しがる
  • ☐ イライラしやすくなった/急に怒る/疑い深くなる
  • ☐ 興味や意欲がなくなった/うつっぽい状態がある
⑤ 生活リズムのリズム・・・「出来るように見えてもサポートが必要な部分」
  • ☐ 昼間に寝て、夜眠れない/生活が不規則
  • ☐ トイレの失敗がある/間に合わない
  • ☐ 介助が必要な場面が増えている
⑥ 家族のサポートの実態・・・「家族がどれだけ支えているか」も判断材料
  • ☐ 毎日どのくらい介助している?
  • ☐ 放っておけない理由は何?
  • ☐ 介護のために仕事・生活に支障が出ている?
  • ☐ 今後、在宅で続けられるか不安がある
⑦ 一番困っていること(核心)・・・「これだけは伝えたい」ということを絞っておく

 例 

  • ♠ 常に目を離せない
  • ♠ 料理や火の扱いが危険
  • ♠ 迷子になるのが怖い
  • ♠ 感情が不安定で私が精神的に限界

※ 調査当日がいつもと違う様子なら必ず伝える

感情だけでなく「具体的なエピソード」を添えると説得力が増します。

この記事は介護福祉士に監修されています

介護福祉士
青木 いづみ

母親の認知症をきっかけに、サービス業から介護の道へ転身。サービス業で培ったコミュニケーション力と、介護職員や施設長としての知識や経験を活かし、入居相談員として家族が抱える悩みに寄り添っています。介護現場の視点、利用者目線、専門知識を基にした丁寧な相談を行っています。