9/21は世界アルツハイマーデー
「認知症との付き合い方~不思議の旅から穏やかなランデイングへ」
認知症は人によって症状も異なります、また進行の仕方も違えば認知症の期間もまちまちです。
認知症の進行の上り坂を上がっている時期は、いつまで続くのだろうか?次はどんな状態になるのだろうか?などと不安に感じる介護者の方も多いでしょう。
1)統計によりますと、日本の認知症患者の発症からの平均寿命はおおむね5年から12年です。ほかの病気より短いと感じますか?それとも長いと感じるでしょうか?認知症の主症状は「記憶障害」です。意外にも認知症には元気なイメージがありますが、実は2)日本人の死亡率の統計を見てみると、そうではないのです。
3)厚生労働省・人口動態統計や学術研究の統計で「認知症」は死亡原因として上位に位置し、脳卒中、虚血性心疾患、悪性腫瘍生物(がん)などと肩を並べている死亡原因です。その理由は、医療の発達でもあります。医療が進化したために、脳、心疾患やがんなどは生存率が上がっています。それに対して、認知症の治療法はなかなか確立されていません。
認知症は、新薬なども開発されていますが、まだ適応範囲が狭く「軽度認知機能障害(MCI)」または「認知症の初期症状のみ」の期間でとどまり、アルツハイマー病に限られます。また、認知症を根治する効果でなく進行を長く遅らせるにとどまるのが現実です。点滴での投与や費用の面でも、現在使われている薬の効果や薬価などと比較すると、まだ躊躇せざるを得ないのが、新薬の現在の状況です。
認知症は「物忘れ」などが原因で死亡に繋がるのではなく、誤嚥性肺炎や廃用症候群による老衰などで死亡することが多く、その起因としての病気が「認知症」である場合がほとんどです。主に、記憶障害をはじめとし失行や失認などの中核症状が引き金となります。食事を飲み込むことを忘れる、食べることを忘れることが低栄養に結び付き死亡原因の病気を引き起こします。
では、どのように認知症と付き合っていくことで、健康で穏やかな生活を送ることが出来るでしょうか?
実録・私の認知症介護~母・史上最高体重を記録
認知症でよく聞くお悩みですが、ご飯を食べても食べたことを忘れてしまい、ご飯を食べたがり、食べたことを忘れ次から次への食べ続けてしまう方もいらっしゃるようです。
母の場合は少し状況が違い、元々「自称・胃が悪い人」だったのです。揚げ物などを食べるといつも「おなか痛い、胃が痛い」と条件反射のように胃薬を探し「これは胃が痛くなるから食べない」と言って選り好みを何十年もしていたのです。その母が認知症になり、「油っぽいものを食べる」=「胃が痛くなる」をいう概念がなくなりました。
この頃の母は「私は胃が弱い」から解放され、施設での食事を完食し、私たち娘からの差し入れも好きなだけ食べられるようになり、気が付けば施設に入って1年で入居の際に持参した服が着られなくなってしまいました。
入居前、風が吹けば倒れそうなほどやせ型だった母は、風船が膨らんでいくように大きくなり、リハビリパンツもSサイズからLサイズになっていました。
急激な体重増加で病気も心配になりました。
また「のしのし」と聞こえそうな歩き方を見て転倒のリスクも考え、入居施設の職員さんや施設長に相談をしました。
返ってきた言葉は「食べられるうちにおいしいものを食べていいんです」との言葉。健康に関しては、往診医曰く、血液検査などの数値をみても問題なく、むしろ健康になっているとの事でした。その時相談した職員の方に言われた言葉が今でも心に残っています。
「食べものをおいしく食べられるのは健康で幸せな証拠です。今は食べられるだけ、たくさん食べていいのです。食事は健康のバロメーター、食べられるということは健康なんです。」
「いずれ人は年を取って、食べても栄養にならず、低栄養になってやせてしまいます。
食べられなくなった時に『あの時もっと、食べさせてあげればよかった』と思っても遅いんです。今食べたいときに好きなものが食べられて、娘さんたちに甘えられることが、今のお母さんの一番の幸せです。人間の命は有限ですよ。」
よく考えてみれば今まで食べるものを選り好みしてきた母が「胃が痛くなる」から解放され「おいしい」と言って食べている姿は見ていて嬉しいし、施設の食事は栄養のバランスも取れていて、そして往診で健康チェックも定期的にしてくれている。
そうか、今が母にとっては、「最後の楽しみを謳歌する時間~グランドフィナーレ」なのだと思いました。母は色々な事を忘れることで、得るものがあったのです。
認知症だからこそ、グランドフィナーレを味わおうよ
認知症になって出来なくなることもあります。その反対に認知症になったから、今まで囚われていたことから解放され、出来るようになることもあります。認知症が発症してからの平均寿命は約5年~10年と言われています。
この期間、コミュニケーションが取りづらい時期もありますが、出来なかったことややり残してきたことを、「できる」最後の時間です。それならば、出来る限り最後は穏やかに迎えてほしいという思いは、介護する側の多くの方の思いではないでしょうか?
私の母は幼少時代から波乱万丈だったと親戚から聞き、「残された時間は楽しい思いを味わってもらいたい」「覚えていなくてもいい、その時だけでも楽しいと感じてくれれば」と思うようになりました。
母の認知症介護をひとりで抱えることなく、分担をして介護力を上げる工夫をしました。私一人が頑張るのではなく、施設の職員さんや家族などの協力を得て、認知症の母が過ごした時間を紹介します。
外 出
半年に一回の通院の時は、施設の方の「せっかくだから施設で食べられない物食べて来てよいですよ」という言葉に甘え、昼ご飯は外食しました。相変わらずアスファルトを歩けない母を車いすに乗せて移動します。診察を終えるといつも和洋折衷の食事が選べる「ファミレス」に行きました。
メニューから食べたいものを選ぶのも楽しそうでした。「これ、おいしいから食べなよ」と自分の食べている料理を分けてくれる、時々見せる母の姿も私たち娘の思い出になりました。
外 泊
毎年、姉夫妻が計画や準備を整えてくれ、母を連れ温泉旅行に出かけていました。年一回のイベントです。旅行に行ってもすぐに忘れてしまいますが、写真を見ると嬉しそうに笑って、私に土産話しをしてくれました。
また、姉夫妻の家でのお正月も、母にとってかけがえのない時間でした。母のリクエストの料理を囲み、トランプやすごろくで遊ぶ時間は、まるで母が子どもに戻ったかのように勝ったら喜び、負けたらプイっとふくれる――そんな喜怒哀楽を見せる母の姿は、認知症が進んでも「母らしさ」を映していました。
外出や外泊は最期の1年前まで続きました。
最初は「急に声を上げてしまったらどうしよう」と不安でしたが、事前の準備と分担で意外と続けられるものだと気づきました。
また、母が怒ったり笑ったりする姿を見ていると、「困った行動」ではなく、ただその瞬間の気持ちを表現しているだけだと感じました。そしてすべてが母の人生の延長線上にあるものだということがわかりました。
認知症は子供に返るのではなく、その人らしく生きている
認知症の方を「子供に返る」と表現することがありますが、正しくは違います。確かに表情や行動が子供のように見えることもありますが、子供と大きく違うのは「これまで積み重ねてきた経験」があることです。記憶力が低下しても、できないことが増えても、その人の経験や生きてきた歴史は消えません。
「声を上げたり、変わった行動をしたりしたことを人に見られたら恥ずかしい」と思うご家族もいるでしょう。
でも、私は伝えたいのです――そんなふうに思わなくていい。大切なのは、その瞬間ご本人が楽しんでいるかどうか、それが一番なのです。
もちろん周りに驚く方もいるかもしれません、でも、その時間は一瞬です。それよりも貴重な時間を過ごす方が、介護をする側も、認知症のご本人もかけがえのない時間です。
時期は来るものです。アルブミンが教えてくれたこと
施設入居から3年ほど経ったころ、母は食べていても少しずつ体重が減り始めました。血液検査で「アルブミン」という数値が下がっていたのです。
アルブミンは体の栄養状態や元気さを映す指標で、低くなると体調を崩しやすくなります。アルブミンとは血液中のたんぱく質の一つで、栄養状態や体の抵抗力を映す大事な指標です。食べていても、からだに栄養が十分に吸収されなければアルブミンは下がってしまいます。つまり、「食べられる=栄養が足りている」とは限らないのです。
アルブミンは、体の元気さや予後を測るバロメーターのようなものです
食べられる時は好きなだけ食べていいです
医師からは「アルブミンは、体の元気さや予後を測るバロメーターのようなものです」と説明を受けました。数値が3.5 g/dLを下回ると低栄養状態のサインとされ、感染症にかかりやすくなったり、傷の治りが悪くなったりするリスクが高まるのです。母の場合も、食欲はあるのに数値はじわじわと下がっていました。
つまり、母のからだは「次の段階」に入っていたのです。振り返れば、施設の方が言っていた「食べられる時は好きなだけ食べていい」という言葉は、未来に向けた準備だったのだと思います。
その後母の介護は私たち家族、施設、医療が一緒に相談しながら、母が少しでも穏やかに過ごせるように支え、ゆっくりゆっくり穏やかなランディングへ向かいました。
介護を担う世代の多くは、仕事や家庭を抱えながら責任を背負っています。思い描いたように介護ができず、もどかしさを感じることもあるでしょう。ご本人が本当に満足しているかどうかを確かめることは難しく、介護する側も「もっとできたのでは」と悔やむことが少なくありません。
私自身も役割を分担しながら介護を続けましたが、やはり完璧ではなく後悔も残っています。
私は、母の介護や現場での経験を通して「穏やかなランディング(着陸)」を目指すことが大切だと感じてきました。認知症の方は一人ひとり違い、固定された姿はありません。まずは、できる限り認知症である姿を理解し、その人らしさを大切にする視点を持っていただければと思います。
≪参考文献≫
1)朝日生命「認知症を発症したら進行する前に今後の対応を話し合っておこう」
https://anshinkaigo.asahi-life.co.jp/activity/ninchisho/column15/
2)日本経済新聞(2025年3月21日朝刊)「日本人の『死因』、認知症が首位に 慶大など30年分解」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOSG182D50Y5A310C2000000/
3)厚生労働省「人口動態統計(第7表)2023年」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei23/dl/10_h6.pdf
この記事は介護福祉士に監修されています
介護福祉士
青木 いづみ
母親の認知症をきっかけに、サービス業から介護の道へ転身。サービス業で培ったコミュニケーション力と、介護職員や施設長としての知識や経験を活かし、入居相談員として家族が抱える悩みに寄り添っています。介護現場の視点、利用者目線、専門知識を基にした丁寧な相談を行っています。

