「食の楽しみ」~塩で料理は変わる~
塩は私達人間が生きていくために必要不可欠なもので、最も重要な調味料です。世界中の料理をみても、塩をまったく使わない料理はほとんどありません。塩で味付けをしていないように感じても、実際は塩が使われていたり、塩そのものを入れなくても塩分を含んだ味噌、醤油、チーズ、塩蔵品などが使われていることもあります。塩は五味の一つで、基本的な調味料ですので、料理のおいしさとは切り離せない存在なのです。
「塩を変えただけなのに、おいしく感じた」という経験はありませんか? 実は、使う塩の種類・入れるタイミングによって料理の印象は驚くほど変わります。今回は、料理のおいしさや完成度を左右する塩の力についてお話をします。
塩の役目 ~塩は味だけでなく素材に働きかける~
塩は味・香り・食感を同時に操れるほぼ唯一の調味料とも言えます。なぜならば塩は料理において、同時に複数の役目を担っているからで、料理を成立させるために欠かせないものなのです。
塩の3つの役目
- ❖ 味をつくる
- うまみを引き出す、甘味を際立たせる、苦みやえぐみを抑える
- ❖ 構造を変える
- 脱水する、細胞をゆるめる、タンパク質の性質を変える
- ❖ 香りを引き立たせる
- 揮発しやすくする、油と結びつける
例えば、魚を焼く前に塩を振ると、魚の表面の細胞から水が出て、焼くと皮がパリッと香ばしくなります。また塩と熱が加わると、表面のタンパク質が先に変性して半透膜のような役割を果たすので、中の旨味が逃げにくくなり味は締まります。さらに、余分な水分が減るので、焼いた時の香りが立ちやすくなります。
パスタを茹でる時には塩をいれますね。この時の塩の役目は、パスタそのものに下味をつけて、ソースと絡んだ時全体の味に一体感を与える、塩を入れるとパスタのデンプンの流出が穏やかになりべたつきにくくなる、小麦由来の香り成分が流出しにくくなるという多面的な役割を果たしています。
塩の種類 ~塩は一種類ではない~
いろいろな塩を舐め比べると違いがよくわかる
塩といっても種類によって性質が違います。どんな塩を選ぶかによって、料理の表情は変わります。大きく分けると人工的に作られた塩と自然(天然)塩に分けることができます。
また、同じ種類の塩でも粒の大きさ(粗塩、中粒塩、細粒塩)が異なる場合もあります。
精製塩 ~味を決めやすい塩~
塩化ナトリウムが主成分で、自然塩との違いは不純物やミネラル分が取り除かれていることです。 その分味はシャープで舌に触れた瞬間に、はっきりとしょっぱさを感じる塩です。ですから料理に塩を入れると、味の輪郭が一気にたちます。ひと言で言うと「味を決めやすい塩」です。逆を言うと、味の微調整に使う際はさじ加減が重要になります。
自然塩 ~どこから生まれたかで性格が変わる~
- 海水から作られる塩(海水塩)
- 日本で最も馴染みが深く、和食との相性がとても良い塩です。味に奥行きや丸みが出やすく、料理に馴染みやすいのが特徴です。海水に含まれるミネラル等の影響を受けるので、どこの海の塩かによってかなり味が異なります。
- 湖から作られる塩(湖塩)
- 主な湖塩は、現在存在する塩湖の水を蒸発させて結晶化させたものです。塩湖は太古の海の名残を受け継いだもので、ミネラルの量や質もかなり安定しています。また塩味が前に出過ぎず、素材の味をそのまま受けとめるので、料理の土台として使いやすい塩です。
- 山から作られる塩(岩塩)
- 太古に地殻変動によって海水が閉じ込められて、長い間地層の中で結晶化したものです。そのため、周囲の岩盤や地下水や温度差などの影響を長く受けているので、鉄分が多くコクがあったり、独特な風味があったり個性的です。またミネラルはどこの岩塩かによってばらつきがあります。味がはっきりとしていてしょっぱい塩なので、料理の輪郭をはっきりさせるには効果的です。ステーキなどうま味が強い料理の仕上げに向きますが、繊細な料理の仕上げにはあまり向きません。
特殊な塩
- 「藻塩」~おいしさを底上げする塩~
- 海水と海藻を一緒に焼いたり煮出したりしたもので、色がついています。
- 塩味が柔らかく、うま味が感じやすいので、繊細な料理の仕上げに向きます。
- 「燻製塩」~火を使わずに焼いた感を足せる塩~
- 塩そのものを燻して香りをつけたもので、味というより香りの調味料です。
- 「フレーバーソルト」~仕上げや演出用の塩~
- 塩にハーブや香辛料を加えたもので、味と香りで印象を強くする力が強い塩です。
塩を入れるタイミングとその効果
塩の役割は味付けをするだけではありません。色々な役目があり、いつ入れるかによってその効果が異なっているのです。
素材の状態を整える役割 ~水分の調整・雑味を抑える・食感をよくする~
よく調理の最初に塩を振ったりしますね。これは主に水分の調整を行ったり、雑味を抑えたり、食感をよくするなど役割の塩です。塩の脱水効果を利用して、食材から余分な水分を出します。その際、水分と一緒にえぐみや生臭さや雑味をとり除くことができます。
また、塩をふることで、細胞内の水が出ていくので食感を変えることもできます。少し具体的な例を挙げてみます。
キュウリの酢の物を作る際に、キュウリを小口切りにしたあとに塩をあてます。塩をふることで、細胞壁が壊れて中の水分が外に出ます。脱水することで、キュウリの独特な青臭さが抜けると同時に、パリッとした歯ごたえになります。
鯖は身割れしやすい魚なのですが、生の状態で塩をあてることで、生臭さを抜いて身がしまって崩れにくくなります。
オクラをまな板の上において「板ずり」をすることがあります。これはオクラのうぶ毛を取り除いて滑らかな食感にするためと、茹でる際に塩の作用で細胞が壊れにくくなり、加熱しても緑色が保たれやすくなる効果に繋がります。
調理時に素材に直接塩を振るのは、水分を調整したり、臭みや生臭さなどを取り除いたり、細胞内の水分を調整して食感をよくするなど、素材の状態を整える役割のための塩 なのです。
生ハムは最初に肉にたっぷりの塩を摺りこみ水分を出す
味の輪郭をつくる塩 ~うま味や香りを引き出す~
調理の途中で味を引き出すために塩を入れることもあります。例えば、昆布と鰹節でとった出汁にほんのちょっと塩を入れると、味の輪郭がはっきりし、うま味の存在が際立ちます。
トマトに塩を振ると美味しくなるのは、塩味が甘味を引き立たせるだけではありません。トマトはグルタミン酸といううまみ成分がとても多いのですが、塩をちょっと加えると、うま味が引き出されるからなのです。
きのこを焼く前に塩をちょっとふると、焼いている時に適度に中の水分が蒸発していくので、うま味が濃縮されて、含まれていた香り成分が解放されていきます。
ミネストローネなどの野菜の旨味を引き出したい料理の場合は、野菜を油で炒めている途中にほんの少量の塩を入れることがあります。加熱と油の作用に加えて塩をあてることによって、野菜の細胞壁がゆるんで壊れやすくなり、早くしんなりして、中の甘味や旨味や香り成分が出やすくするための塩です。野菜から出てきた成分が油と絡んでスープの土台の味になっているのです。
黒キャベツ入りのミネストローネ
調理の途中で塩をふるのは、うま味や甘味や香りや食感を引き出すためで、裏方的なシゴトをしてくれているのです。
印象を決める塩 ~最後の仕上げのひと押し~
既にある程度味がついていても、料理の仕上げの際に塩で味を調えることがよくあります。これは料理全体のバランスを考えながら微調整して、料理の印象を決定づけるための塩です。この時にどのような塩を使うかで、塩味、香り、うま味などのインパクトはかなり違ってきます。先ほどご紹介しましたが、仕上げに向く塩を使うのがお勧めです。
最後の味の調整に醤油を使う際は、醤油を入れて味を見てから、ちょっと塩味が足りないなと感じたら、醤油ではなく塩を入れて微調整すると味が決まりやすくなります。
塩を上手く探るものは料理を制す
最近、お土産で各地のいろいろな塩をもらうことがありませんか?もらってもどんな風に使えばよいのかよくわからないと言う方もいらっしゃるかもしれません。まずちょっと舐めてみて、味のベースに使える塩なのか、インパクトや調整用に向いているのかを自分で確かめてみてください。
私は、普段値段が手頃で味が安定して使いやすい「湖塩」を主に使っていますが、それぞれご自分が使いやすい塩を主に使えば良いと思います。なぜならば、どのような料理に仕上げたいかのイメージや条件も違うので、どれが良いとか悪いとかは一概に言えないからです。
ただ、塩の役割を知った上で塩を使い分けたり、いつ使うかなどを考えながら調理すると、驚くほど料理が変わります。つまり、塩を上手く操れると料理もぐっとおいしくなるということなのです。
この記事の執筆者
有限会社コートヤード
代表取締役 新田美砂子
農産物プロデューサー・フードデザイナー
MBA(経営管理修士)、NPO法人野菜と文化のフォーラム理事
「今ある資源を活かす」「もったいないをなくす」「健康的に食べる」をモットーにして、様々な形で農と食を繋いでいる。商品・メニュー開発、地域食材・農産物のマーケティング、地域活性化などを多数手がけてきた。
日本野菜ソムリエ協会講師、城西国際大学では食の知識と体験学習を織り交ぜた「環境と食文化」の講義を5年間担当。近年は様々な現場に携わってきた経験を活かし、食や農に対する「なぜ?」をわかりやすくフラットに伝えている。

