薬剤師の業務

薬剤師の業務

薬剤師の業務

薬剤師に対して、どのようなイメージをお持ちでしょうか?

白衣を着て、薬局で薬を渡してくれる人――そんな印象をお持ちの方も多いかもしれませんね。

皆さんも、風邪やインフルエンザ、花粉症など、体調を崩したときに病院やクリニックを受診されたことがあると思います。
医師の診察を受けて処方箋が出され、それを持って近くの薬局へ。受付で処方箋を渡し、しばらく待っていると、薬剤師が薬を準備して説明をしてくれる…。
きっと、そんな流れをご経験されたことがあるのではないでしょうか。

普段は何気なく行っているこのやりとりの中で、薬剤師は「患者さん一人ひとりに合った薬を、安全に、そして正しく届ける」ために、さまざまな確認や配慮を行っています。
「このお薬、いつ飲めばいいの?」「他の薬と一緒に飲んでも大丈夫?」といった疑問にも丁寧に答えてくれるのが、薬剤師の役割のひとつです。

とはいえ、中にはこんなご経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
「さっき医師に話したばかりなのに、薬剤師にまた同じことを聞かれた」
たとえば、風邪で受診したのに、「今日は風邪ですか? 熱はありますか? 喉の痛みや咳は?」などと、診察室で伝えた内容をもう一度聞かれる――。

ちょっと不思議に思ったり、少し煩わしく感じたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

実際、私自身も新人薬剤師だった頃、患者さんから強く叱られた経験があります。
ある日、あるご年配の男性から、「さっき先生に全部話しただろう!何度も同じことを聞くな!」、「早く薬を出せよ!」と怒鳴られたこともあります。

では、なぜ薬剤師は、あえて医師と似たような質問をするのでしょうか?

それは、薬剤師は“処方された薬”という限られた情報から、患者さんの状態を把握しようとしているからです。
医師のように診察を行うことができないため、薬剤師に届くのは「処方箋」だけ。つまり、症状に関する直接的な情報が一切ない状態で、薬の内容を確認する必要があるのです。

たとえば、医師は

  • 熱があるかどうか
  • 咳の有無
  • 喉の赤みや腫れ

などを、問診や視診、聴診などで判断し、適切な薬を選んで処方します。

一方、薬剤師は、

  • 「咳止めが出ている」=「咳の症状があるはず」
  • 「解熱鎮痛剤が処方されている」=「熱や痛みがあるのかもしれない」

といったように、薬の内容から逆算して症状を推測し、その推測が正しいかどうかを、患者さんに直接確認するのです。

とはいえ、現在の薬局業務では、薬の内容から症状を推測して確認する必要があるため、どうしても患者さんにとっては「何度も同じことを聞かれる」「早く薬だけ欲しいのに…」と感じさせてしまう場面もあるのが現実です。
薬局でのやりとりが、単なる確認作業のように映ってしまい、「薬をもらうだけの場所」として受け止められてしまうことも少なくありません。

では、もし薬剤師が、患者さんの診療情報(カルテ)を見ることができたらどうでしょうか?

たとえば、すでに医師による問診や診察の結果として、「急性咽頭炎」「インフルエンザ」「アレルギー性鼻炎」といった診断名が記載され、症状や経過も丁寧に記録されていたとします。
そうであれば、薬剤師が改めて「咳は出ますか?」「喉は痛いですか?」と尋ねる必要は、ほとんどなくなりますよね。

その代わりに、薬剤師が患者さんに対して本当に伝えるべきこと。
それは、薬の適切な使い方や、日常生活の中での療養のヒントではないでしょうか。

たとえば、

  • この薬はいつ、どのように飲めば効果が出るのか
  • 熱や喉の痛みで食事がとれないけど、薬はどうやって飲めばいいのか
  • どんな飲み物や食事が回復を助けてくれるのか
  • 仕事や家事はどの程度までなら無理をしてもいいのか

といったように、患者さんの体調や生活環境に合わせたアドバイスができるのです。

薬局における調剤業務の変化→第5世代へ

日本薬剤師会「薬剤師の将来ビジョンより引用」

かつて薬剤師の主な役割は、処方箋に基づいて正確に薬を調剤し、用法・用量を説明して患者に薬を渡すという、いわば「薬という“モノ”を中心とした業務」が中心でした。いわゆる「対物業務」と呼ばれるもので、薬そのものの管理や準備に重点が置かれていました。薬剤師は処方された薬を正確に取り揃え、在庫を管理し、間違いなく患者に届けるということが最も重要な責任とされていたのです。

しかし、近年、医療や社会のあり方が変化する中で、薬剤師に求められる役割も大きく変わりつつあります。高齢化が進み、複数の病気を抱える患者や、通院が難しく在宅療養を行う人が増えるなかで、薬をただ「正しく渡す」だけではなく、「その人が本当に必要としている薬は何か」「薬をきちんと飲めているか」「生活の中でどう支えていくか」といった、より“人”に寄り添う視点が重要になってきました。

「ものからひとへ」とは、そうした背景のもと、薬というモノだけに注目するのではなく、その薬を使う“人”――すなわち患者さん一人ひとりの生活や状況、思いに目を向けた薬剤師業務への転換を意味しています。患者の体調、ライフスタイル、服薬への不安や悩み、家庭での介護状況などを理解しながら、その人にとって本当に必要な支援を提供する。それがこれからの薬剤師のあるべき姿とされているのです。

たとえば、薬の飲み忘れが多い高齢者に対しては、飲みやすい形に工夫したり、タイミングに合わせた服薬カレンダーを提案したりする。あるいは、食欲がなく薬が飲めないという患者に対しては、食事と薬の取り方を一緒に考える。さらには、医師に処方提案を行ったり、看護師やケアマネジャーと連携して在宅療養を支えたりと、薬剤師の関わり方は多様化しています。

このように「ものからひとへ」とは、薬剤師が薬の専門家であることを土台にしつつも、薬を使う“人”を中心に据えて、医療と生活をつなぐ存在へと進化していく姿を表す言葉です。

施設における薬剤師の業務の流れ

施設や在宅における薬剤師の業務は、大きく三つの段階に分けて進められます。

同行業務

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調剤業務

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訪問業務

まず最初に行われるのが同行業務です。ここでは、医師の往診に同席し、患者さんの体調や服薬状況、生活の様子などを確認します。また、介助者や施設スタッフからの情報も収集し、それをもとに必要があれば処方の提案を行います。患者さん本人だけでなく、その生活を支える周囲の人々からの情報を取り入れることが重要なプロセスとなります。

次に薬局内での調剤業務に移ります。処方箋に基づき、一包化や粉砕といった調剤を行い、誤薬を防ぐための服薬管理を行います。患者さん一人ひとりの状況に合わせた工夫が求められ、ここでの調剤の質が在宅療養の安全性を大きく左右します。

そして最後に行われるのが訪問業務です。再度施設を訪れ、服薬管理のための薬のセットを行い、体調や服薬状況を再確認し、薬の正しい使い方や療養上の注意点についてお伝えします。さらに、訪問で得られた情報があれば、医師や多職種にフィードバックすることで、チーム全体での患者支援につなげていきます。

このように、施設や在宅における薬剤師の業務は、情報収集から調剤、訪問後のフィードバックに至るまで一連の流れとして展開され、患者さんの安全と安心な療養生活を支えています。

この記事の執筆者

合同会社Sparkle Relation
代表 小林輝信

北里大学薬学部卒業
【資格】
認定 薬剤師/介護支援専門員/iACP認定/MBA/

【所属団体】
一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(J-HOP)会長
一般社団法人日本アカデミック・ディテーリング研究会 理事
日本老年薬学会所属
日本服薬支援研究会所属