ロコモ・サルコペニア・フレイルとは何か
高齢社会の三大健康課題とその関係性
日本は世界でも類を見ない超高齢社会を迎えています。高齢者が健康で自立した生活を長く続けるためには、単に病気を防ぐだけでなく、加齢にともなう全身の機能低下をいかに予防・改善するかが重要です。
ここで近年注目されているのが「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」「サルコペニア」「フレイル」という3つの健康概念です。これらは互いに密接に関連しながら、高齢者の健康寿命や生活の質(QOL)に大きく影響します。
本稿では、それぞれの意味と関係性、問題点、具体的な予防・対策について解説します。
1. ロコモティブシンドローム(ロコモ)とは※https:locomo-joa.jp
※出典:日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト
(参照日:2025年6月25日)
1-1ロコモの定義と特徴ロコモの定義と特徴>
ロコモとは「運動器症候群」のことで、骨・関節・筋肉・神経など運動に関わる器官(運動器)が障害され、移動機能が低下した状態を指します。日本整形外科学会が2007年に提唱した概念で、加齢や運動不足、疾患などが原因となり、歩く・立つ・座るなど日常の基本動作が困難になるのが特徴です。。
ロコモは特定の病気ではなく、変形性膝関節症や骨粗しょう症、脊柱管狭窄症などの運動器疾患や加齢変化が複合的に関与します。
ロコモが進行すると、転倒や骨折のリスクが高まり、要介護状態への移行が早まります。
1-2ロコモの評価と診断
ロコモの評価には「ロコモ度テスト」※https:locomo-joa.jp/check/testが用いられます。主な項目は以下の通りです。
※出典:日本整形外科学会 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイト「ロコモ度テスト」
(参照日:2025年6月25日)
- 立ち上がりテスト:片脚または両脚で指定の高さから立ち上がれるか
- 2ステップテスト:できるだけ大きく2歩歩いた距離を身長で割る
- ロコモ25:移動に関する25項目の質問票
これらの結果から、ロコモ度1(移動機能の低下が始まっている)、ロコモ度2(低下が進行している)と判定されます。
1-3ロコモの問題点
ロコモが進行すると、外出や社会参加が減り、身体活動量が低下します。その結果、筋力やバランス能力がさらに低下し、転倒・骨折のリスクが高まります。
転倒や骨折は寝たきりや要介護の大きな原因であり、健康寿命の短縮につながります。また、活動量の減少は生活習慣病や認知機能低下のリスクも高めます。
1-4ロコモの予防と対策
ロコモ予防には、「ロコトレ(ロコモーショントレーニング)」が有効です。代表的な運動は「スクワット」と「片脚立ち」です。これらは下肢の筋力やバランス能力を強化し、転倒予防に役立ちます。加えて、ウォーキングなどの有酸素運動、バランスの良い食事、カルシウムやビタミンDの摂取も重要です。定期的な健康チェックも早期発見・早期対応に役立ちます。
2. サルコペニアとは
2-1サルコペニアの定義と特徴
サルコペニアは、加齢や疾患、活動量低下、栄養不良などにより筋肉量と筋力が著しく減少した状態を指します。ギリシャ語で「筋肉(サルコ)」と「減少(ペニア)」を組み合わせた言葉です。
20代をピークに筋肉量は徐々に減少し、特に50歳以降は減少スピードが加速します。
サルコペニアは、単なる筋肉の減少だけでなく、筋力や身体機能の低下も伴います。歩行速度の低下や握力の低下がみられ、重症化すると日常生活動作(ADL)の低下につながります。
2-2サルコペニアの診断基準
アジアサルコペニアワーキンググループ(AWGS)の基準が広く用いられています。
主な診断項目は、
- 筋肉量の低下(DXAやBIAで測定)
- 筋力の低下(握力:男性28kg未満、女性18kg未満)
- 身体機能の低下(歩行速度1.0m/秒未満)
筋肉量の低下に加え、筋力または身体機能の低下があるとサルコペニアと診断されます。
2-3サルコペニアの問題点
サルコペニアが進行すると、転倒や骨折のリスクが高まります。筋肉はエネルギー代謝や免疫機能にも関与しているため、サルコペニアは糖尿病や肥満、感染症のリスクも増加させます。筋肉量が減ることで基礎代謝が低下し、栄養状態も悪化しやすくなります。
2-4サルコペニアの予防と対策
サルコペニア対策の基本は「運動」と「栄養」です。筋力トレーニング(レジスタンス運動)は筋肉量・筋力の維持に非常に効果的です。特にスクワットや椅子からの立ち上がり運動など、大きな筋肉群を使う運動が推奨されます。
栄養面では、体重1kgあたり1.0~1.2gのタンパク質摂取を目安に、肉・魚・卵・大豆製品などをバランスよく摂ることが大切です。ビタミンDやオメガ3脂肪酸も筋肉の健康維持に役立ちます。早期発見のために、定期的な筋力測定や身体機能評価も重要です。
3. フレイルとは
3-1フレイルの定義と特徴
フレイル(Frailty)は「加齢により心身の活力が低下し、ストレスへの抵抗力が弱まった状態」を意味します。身体的な衰えだけでなく、認知機能や精神的な側面、社会的な孤立など多面的な要素が含まれます。フレイルは健康な状態と要介護状態の中間に位置し、適切な介入によって改善可能な「可逆性」が大きな特徴です。
3-2フレイルの評価方法と種類
フレイルは大きく「身体的フレイル」「精神・心理的フレイル」「社会的フレイル」に分けられます。
- 身体的フレイル:体重減少、疲労感、活動量低下、歩行速度低下、握力低下など
- 精神・心理的フレイル:認知機能低下、うつ症状、不安など
- 社会的フレイル:独居、社会的孤立、経済的困窮など
評価には「Fried基準」や「基本チェックリスト」などが用いられます。身体的フレイルでは5項目中3項目以上該当で「フレイル」、1~2項目で「プレフレイル」となります。
3-3フレイルの問題点
フレイル状態の高齢者は、転倒・骨折・入院・死亡のリスクが2~3倍高くなるとされています。身体的フレイルはADL低下や要介護化を招き、精神的フレイルは認知症やうつのリスクを高めます。社会的フレイルは孤立や経済的困窮を招き、さらに心身の健康悪化につながる悪循環を生みます。
3-4フレイルの予防と対策
フレイル予防の三本柱は「栄養」「運動」「社会参加」です。栄養面では低栄養を防ぐため、多様な食品からバランスよく栄養を摂ること、特にタンパク質摂取が重要です。運動面では有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることが推奨されます。社会参加では、地域のサークルや趣味活動、ボランティアなどへの積極的な参加が孤立防止に役立ちます。
4. 三者の関係性と連鎖
4-1相互の関連性
ロコモ・サルコペニア・フレイルは、それぞれ異なる視点から高齢者の健康問題を捉えていますが、実際には密接に関連し合っています。
- サルコペニア(筋肉量・筋力低下)が進行すると、ロコモ(運動器機能低下)を引き起こしやすくなります。
- ロコモによる移動機能低下は、活動量減少や社会参加の減少を招き、フレイルの進行につながります。
- フレイルが進行すると、さらに筋肉量や運動機能が低下し、サルコペニアやロコモが悪化するという「負の連鎖」が生じます。
4-2連鎖を断ち切るために
この負の連鎖を断ち切るためには、早期発見と多面的なアプローチが必要です。例えば、サルコペニア対策の筋力トレーニングはロコモやフレイルの予防にもなります。社会参加の促進は精神的・社会的フレイルの予防だけでなく、身体活動量の維持にもつながります。これらを総合的に捉え、個別の対策を組み合わせることが重要です。
5. 社会的・個人的な対策の重要性
5-1社会的な取り組み
日本では「地域包括ケアシステム」のもと、介護予防やフレイルチェック、通いの場の設置などが進められています。高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を続けられるよう、行政や医療・介護専門職、地域住民が連携して支援する体制が整いつつあります。
5-2個人レベルでできること
個人でもできる対策は多くあります。
- 運動習慣の確立:ウォーキングや筋力トレーニングを週2~3回以上継続
- バランスの良い食事:タンパク質やビタミンDを意識した食生活
- 社会参加:趣味や地域活動への積極的な参加
- 定期的な健康チェック:体重や筋力、歩行速度などの自己チェックと健康診断
これらを日常生活に取り入れることで、ロコモ・サルコペニア・フレイルの予防・改善が期待できます。
6. 結論
ロコモティブシンドローム、サルコペニア、フレイルは、高齢期の健康を脅かす三大課題です。
これらは独立した問題ではなく、互いに関連しながら進行し、要介護状態や健康寿命の短縮につながりますが、適切な運動・栄養・社会参加により予防・改善が可能な「可逆的」な状態です。
社会全体の取り組みと個人の自助努力を組み合わせ、早期発見・早期介入を徹底することで、健康長寿社会の実現が可能となります。今後ますます高齢化が進む日本において、ロコモ・サルコペニア・フレイルの理解と対策は、私たち一人ひとりにとっても、社会全体にとっても極めて重要な課題です。
この記事の執筆者
江頭 瑞穗
神奈川県出身 1987年設立の 学校法人国際学園 横浜国際福祉専門学校にて、介護福祉士、社会福祉士、社会福祉主事(任用)、保育士、幼稚園教諭などの養成を行う学科、コースの設立を主導し、事務長、事務局長を経て1991年理事長に就任。1995年同職を辞し、学校法人、社会福祉法人のコンサルタント業務を開業。
翌1996年 株式会社日本アメニティライフ協会を設立し、グループホームケアの実践を行うと共に、神奈川県、東京都に限定した介護事業を展開。現在、子会社にて日本語学校を経営するとともに、社会福祉法人理事として特別養護老人ホーム、老人保健施設、また医療法人理事としてクリニックの経営に携っている。
この記事は医師に監修されています
医療法人社団飛峯会
八王子北クリニック
理事長・院長
松田 兼一 先生
早稲田大学理工学部および大学院理工学研究科を修了後、千葉大学医学部を卒業。救急医療や集中治療を専門とし、東京慈恵会医科大学附属柏病院や千葉大学医学部附属病院での勤務を経て、山梨大学医学部で教授として救急集中治療医学講座を担当。
また、米国ミシガン大学での研究員経験も持ち、国際的な視点を活かした医療に携わる。現在は医療法人社団飛峯会八王子北クリニックの理事長・院長を務め、地域医療や在宅医療にも力を注ぐ。日本救急医学会および日本集中治療医学会の専門医として、幅広い医療分野に貢献。

