糖尿病と認知症の関連性

糖尿病と認知症の関連性

糖尿病と認知症との関連性

 糖尿病と認知症は、現代社会において急増している深刻な健康問題で、超高齢社会において大変注目されていますが、近年の研究により、二つの疾患の間には密接な関連があることが明らかになってきました。

 糖尿病と認知症の関連性、新たな概念としての糖尿病性認知症、そのメカニズム、および最新の治療・予防戦略について述べていきます。

糖尿病と認知症との関連

 糖尿病患者が認知症に罹患するリスクは、非糖尿病者と比較して多いことが様々な研究で示されています。

 具体的には、糖尿病患者はそうでない人と比較して、アルツハイマー型認知症に約1.5倍、脳血管性認知症に約2.5倍なりやすいことが報告されています。さらに別の研究では、糖尿病は認知障害(認知機能障害および認知症)に対して1.25~1.91倍のリスクをもたらすことが確認されています。興味深いことに、糖尿病予備群の状態でも認知症リスクが高まることが示されていて、この関連は糖尿病の診断前から始まっている可能性があります。

 また、生活習慣病や認知症について福岡県久山町で長期間にわたって研究されている九州大学の久山町研究においても、糖尿病患者は正常な人と比べて、アルツハイマー型認知症の発症リスクが2.1倍高いという結果が得られています。

 糖尿病と認知症の関係についてさらに詳細に検討した研究では、糖尿病の罹病期間が10年以上になると、認知機能低下リスクが4.34倍に跳ね上がるという報告もあります。

糖尿病性認知症の概念と特徴

 糖尿病合併症としての認知症には、大きく分けて3つの病型があります。アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、そして糖尿病性認知症です。

 この中で「糖尿病性認知症」は比較的新しい概念であり、長期にわたる高血糖状態や糖代謝の異常による神経細胞のダメージによって認知症を発症するケースを指します。

 糖尿病性認知症は、「糖尿病のコントロールが不良、糖尿病の罹病期間が長い、インスリン治療をしている、などを含む認知症患者」と定義されています。重要なのは、高齢者ではこれらの循環障害、代謝異常などが混在し、”合わせ技”として認知症の発症を早めていることです。

 症状の特徴として、アルツハイマー型認知症では直近の記憶力が低下して物忘れや置き忘れ、しまい忘れといったことが多くなるのに対し、糖尿病性認知症では注意力や遂行機能(目的を達成するために計画的に行動する脳の機能)が低下しやすい傾向があります。もちろん認知機能全般に障害が発生しますが、特に記憶、遂行機能、情報処理能力、注意力などが約1.5倍前後障害されやすいことが報告されています。

糖尿病が認知症を引き起こすメカニズム

糖尿病が認知症のリスクを高める理由としては、以下の3つが挙げられます。

血管のダメージ(糖尿病による動脈硬化や脳血管障害)

 高血糖により全身の細い血管がダメージを受けると、動脈硬化を起こして血管が詰まりやすくなり、脳血管にも影響が及びます。その結果、脳の組織への血液の供給が滞り、神経細胞が死滅したり、認知機能が低下したり、あるいは認知症を発症したりすることがあります。慢性的な高血糖は活性酸素(ROS)の産生を誘導して神経細胞損傷と認知障害を引き起こすことになります。

インスリン分解酵素の不足やインスリン抵抗性

 インスリンを分解する酵素には、アルツハイマー型認知症の原因となる「アミロイドβ」を分解する働きがあります。血糖をコントロールするインスリンは役目が終わると酵素によって分解されますが、糖尿病で血糖量が増えるとインスリンの分泌も増え、インスリンを分解するために多くの酵素が使われ、アミロイドβを分解する酵素が減り、結果的にアミロイドβが蓄積して認知症につながります。
 インスリンは脳内では神経を調節する重要な物質として機能し、神経細胞の生存、シナプス可塑性、認知プロセスに影響を与えます。糖尿病におけるインスリン抵抗性と調節不全は脳内のインスリンシグナル伝達を阻害し、神経機能と認知を損ないます。慢性高血糖は酸化ストレス、炎症、AGE蓄積を通じてインスリン抵抗性を悪化させます。(AGEは終末糖化産物のことで、タンパク質と糖が加熱されてできた物質で、強い毒性を持っています)

長期にわたる神経細胞のダメージ(高血糖や低血糖など糖代謝の異常)

 糖尿病による高血糖状態や、治療などに伴う低血糖は、神経細胞に大きなダメージを与えます。数週間から数か月程度ですぐに影響があるわけではありませんが、何十年も高血糖状態が続いたり、あるいは低血糖状態を繰り返したりすることで、動脈硬化や脳梗塞を発症していなくとも、神経細胞が破壊されて認知症を発症するリスクが高くなります。実際に、重症低血糖があると認知症発症のリスクは1.44倍になることが報告されています。

糖尿病と認知症の治療・予防戦略

 糖尿病患者における認知症リスク低減のための重要な戦略は、適切な血糖管理になります。血糖値を適正にコントロールできていれば認知症のリスクを下げることができることが示されています。特にHbA1cが6%台という良好な血糖管理が維持できている人では、認知症リスクは0.79倍に大きく低下することが報告されています。 

 興味深いことに、つぎの糖尿病治療薬が認知症予防に効果を示す可能性が、複数の研究で報告されています。

メトホルミン

 Sydney Memory and Ageing Studyによれば、メトホルミンを服用している糖尿病患者は、メトホルミンを服用していない糖尿病患者や糖尿病でない人と比べて、全般的な認知機能の低下が遅く、6年間の経過観察期間中の認知症発症リスクが81%低下しました。

ピオグリタゾン

  ピオグリタゾンは、糖尿病患者の認知症リスクが47%減少することが示されています。ただし、その効果についてはランダム化試験などでさらなる調査が必要とされています。

SGLT2阻害薬

 SGLT2阻害薬の使用が、認知症リスクの21%低下と関連していることが報告されています。特に、アルツハイマー病リスクを19%、脳血管性認知症リスクを31%低下させる可能性が示唆されています。血圧、血糖値、コレステロール、腎機能などの要因を調整した後でも、この結果は一貫していました。

認知症予防のための総合的アプローチ

 糖尿病患者における認知症予防には、糖尿病治療の基本である食事指導や薬によって血糖管理を適正に行うだけでなく、以下のような生活習慣の改善による総合的なアプローチが推奨されます。

  1. 日頃の生活を見直し、血糖値や血圧、脂質の摂取量、体重を適切に管理する
  2. 禁煙
  3. 適度な身体活動(運動不足は脳への血流不足を招き、認知症の原因となるアミロイドβの蓄積を促進する)
  4. 質の良い睡眠(睡眠時間が短すぎる(5時間未満)または長すぎる(9時間以上)と認知症リスクが高まる)
  5. 社会的交流の維持

結論

 糖尿病と認知症の関連性は明確であり、糖尿病患者は非糖尿病者と比較して認知症、特にアルツハイマー型認知症や脳血管性認知症のリスクが高く、さらには、これら従来の認知症型とは異なる「糖尿病性認知症」という概念も確立されつつあります。

 糖尿病が認知症を引き起こす主なメカニズムとしては、血管障害、インスリン分解酵素の不足・インスリン抵抗性、長期にわたる神経細胞へのダメージが挙げられます。

 高齢者では、これらの要因が複合的に作用して認知症発症のリスクを高めていると考えられます。

 予防・治療としては、適切な血糖管理が重要ですが、メトホルミン、ピオグリタゾン、SGLT2阻害薬など、特定の糖尿病治療薬が認知症リスク低減に寄与する可能性も示されています。

 総じて、糖尿病患者の認知症予防には、早期からの適切な糖尿病管理と総合的な生活習慣の改善が不可欠であり、定期的な認知機能評価も推奨されます。

 今後も両疾患の関連性についての研究が進み、より効果的な予防・治療戦略が開発されることが期待されます。

参考文献

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この記事の執筆者

江頭 瑞穗

神奈川県出身 1987年設立の 学校法人国際学園 横浜国際福祉専門学校にて、介護福祉士、社会福祉士、社会福祉主事(任用)、保育士、幼稚園教諭などの養成を行う学科、コースの設立を主導し、事務長、事務局長を経て1991年理事長に就任。1995年同職を辞し、学校法人、社会福祉法人のコンサルタント業務を開業。
翌1996年 株式会社日本アメニティライフ協会を設立し、グループホームケアの実践を行うと共に、神奈川県、東京都に限定した介護事業を展開。現在、子会社にて日本語学校を経営するとともに、社会福祉法人理事として特別養護老人ホーム、老人保健施設、また医療法人理事としてクリニックの経営に携っている。

この記事は医師に監修されています

医療法人社団飛峯会
八王子北クリニック
理事長・院長
松田 兼一 先生

早稲田大学理工学部および大学院理工学研究科を修了後、千葉大学医学部を卒業。救急医療や集中治療を専門とし、東京慈恵会医科大学附属柏病院や千葉大学医学部附属病院での勤務を経て、山梨大学医学部で教授として救急集中治療医学講座を担当。
また、米国ミシガン大学での研究員経験も持ち、国際的な視点を活かした医療に携わる。現在は医療法人社団飛峯会八王子北クリニックの理事長・院長を務め、地域医療や在宅医療にも力を注ぐ。日本救急医学会および日本集中治療医学会の専門医として、幅広い医療分野に貢献。