地域に密着するために

地域に密着するために

 国の成長が鈍化し少子高齢化が進む中で、社会保障費の増加を如何に抑制するかが大きな問題になっている現在、診療報酬や介護報酬の大幅な増額は考えにくく、むしろ目減りしていくことが懸念されます。

 そんな中で介護事業者がどうやって生き残っていくかについては、経営の大規模化、複数法人での協働化という方法のほかに、徹底した地域密着という方法があります

どのようにして地域に密着していくのか

それでは、どうやって地域に密着していくのか、まずは基本的な「密着する地域を明確にする」から「アプローチ」までを考え、次に「点から立体への展開とファーストタッチ」について述べてまいります。

対象地域の明確化

 「社会保障・人口問題研究所」の、市区町村別人口、年齢別人口をベースに、各自治体の統計データ(自治体によっては町村別の要介護認定率などを公表しています)などを利用します。必要な資料が不足している場合は、AIツールを利用して推計データを作成する必要もあります。

 地域は、町村レベルよりも小さなサイズの区域や地域、または連合町内会や町内会のレベルまで落とせれば、なお具体的になります。

 実際に事業を展開している場合は、対象地域候補の大きな地図を用意して、現在利用されている方やこれまでに利用されていた方の住所を、ピンなどでマークしてみると現状の対象地域が見えてきますので、これを参考にしながら設定すると良いと思います。

 その上で、対象地域の要介護者や要介護予備軍の人数を把握します。行政で公開されている場合もありますが、無ければ高齢者人口と要介護率から想定することもできます。
 これらをベースに、サラリーマン世帯が多いのか、農家さんが多いのか、所得層はどれ位なのかなどのデータを肉付けし住民像まで見えてくれば更にプラス材料です。

 対象地域を設定するには、通所介護であれば効果的な送迎ルート、訪問介護であれば効果的な訪問ルート(訪問介護では移動時間も勤務時間にカウントされますので、なるべく訪問先を連続させて移動時間を短縮する必要があります)を考慮しなければなりません。地図を見ながら手作業でも良いですし、住所を入れると効率的なルートを作成してくれるアプリもありますので、検討してみるのも良いと思います。

アプローチ

 対象地域が明確になったところで、実際のアプローチになります。
 これには「知ってもらう」「見てもらう」「参加する」「一緒に行う」という方法があり、順を追ってでも良いですし、並行して行っても良いと思います。

◆「知ってもらう」

 地域の方々に自事業所を知っていただくためには、ホームページは必須ですが、その他に地域のコミュニティペーパーやチラシの新聞折り込み、ポスター、立て看板や垂れ幕、従業員の口コミといった旧来の方法に加えて、インスタグラム、Facebook、X、Tic Tok、YouTubeなどのSNSも必須になってきています。事業所の内容、規模などを考え併せて組み立てていきます。
 広告媒体は一つで効果が出るものではなく、あそこで見た、ここにもあるといった相乗効果で認知されますので、何種類かの組み合わせが必要になります。

 古典的な広告のアプローチとして1920年代にアメリカのサミュエル・ローランド・ホールが著書の中で消費者の心理プロセスを示したAIDMAが有名です。A=Attention I=Interest D=Desire M=Memory A=Action は、注意を惹き、興味を持たせ、欲求を刺激し、記憶させ、行動に繋げるというもので、商品販売の手法です。

現代では、SNSが広がってきていることから2004年に電通が提唱したAISASが広まりました。A=Attention I=Interest S=Search A=Action S=Share 注意を惹き、興味を持たせ、検索させて、行動に繋げ、その結果をネット上で共有する、というものです。

消費者の心理プロセス
  • A=Attention(注意)
  • I =Interest(興味)
  • D=Desire(欲求)
  • M=Memory(記憶)
  • A=Action(行動)
  • A=Attention(注意)
  • I =Interest(興味)
  • S=Search(検索)
  • A=Action(行動)
  • S=Share(共有)

A=Attention I=Interest D=Desire M=Memory A=Action

 飲食店や旅行での宿を探すときに、口コミサイトを見ることが一般化してきているので、ここを押さえて、次の方のIに繋いでいくという考え方です。
 介護事業は商品販売ではありませんので、これらの心理プロセスを参考にしながら、ストーリー性をもって組み立てることになります。

 ここまでが組み立てておくべき体制で、これらのほかにFace to Faceでの活動が必要になってきます。
対象となる方々の行かれそうな薬屋、商店から、病院、診療所、薬局、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所などを訪問し、対応いただいた方とコミュニケーションをとり、チラシやパンフレットの設置をお願いする。一度行けば終わりというわけではなく、何度かお邪魔することで、顔なじみの関係になることが重要です。

 メールでのお問い合わせであればお待たせすることなく回答する。
電話でのお問い合わせに対しては受けたものが誰でも回答できるように、マニュアルを作成することも必要です。

 ここで重要なことは、お問い合わせに対しては、不快感や不信感を持たれないことです。
どんなに完璧にお答えしても「感じ悪いね」「よく分かっていないみたいね」では、次のアクションには繋がりません。
人手の問題があれば今後増えていくと考えられるチャットボットを利用するという方法があります。サービスは月額数千円から有りますので検討するのも良いかもしれません。

◆「見てもらう」

 そしてお問い合わせに対しては、お越しいただき、見ていただくことに繋がるように意識していくことが必要です。
 来ていただくには、問い合わせから繋ぐ以外にイベントを催すという方法があります。内覧会や見学会、健康祭りなどのイベントで足を運んでいただくことが大事です。
 徳洲会グループでは地域の方々に働きかけ「健康友の会」を立ち上げてもらい、医療講演や健康診断、人間ドックでの割引きを行っています。
 歯科医院や診療所の内覧会を専門で請け負っている(株)メディカルアドバンスという会社もあります。
ホームページに内覧会までのスケジュールが載っていますので、参考にするのも良いと思います。

◆「参加する」

 知ってもらうためには営業的なアプローチが強かったのですが、地域に密着するためには、こちらから地域のイベントや活動に参加していくということも重要になってきます。
 地域のお祭りは地元のためのほかに、桜祭りや夏祭りなど観光目的のものもあります。また祭り以外にもビーチクリーン活動や、町内清掃などの活動もあります。これらの活動に参加していくことで人間関係が出来ていきますので、地域からも受け入れやすくなっていくでしょう。

 具体的な事例としては、高円寺阿波踊りに、平成医療福祉グループが「平成連(連とは踊りのグループを表す阿波踊りの用語)」というグループを作り2017年から参加しているといったものがあります。(平成医療福祉グループでは本場徳島でも連を作って参加しているようです)この活動は地元との繋がりを高めるとともに、グループ内でのクラブ活動などにも貢献しています。
 地域に密着するためには広報して待っているだけではだめで、こちらからも積極的に関わっていくことが必要なのです。

◆「一緒に行う」

 知ってもらい、こちらからも地域の活動に参加するようになったら、次は地域の方々と一緒に何かを行っていくことが大事になってきます。
 町田市では、訪問歯科診療所の方が音頭を取って、地域のケアマネの方々と一緒に勉強会を開催していますし、藤沢市の老人保健施設では、事務長クラスの方々が自主的に集まり情報交換会行っています。

 もう少し大掛かりな働きかけとしては、徳島県と徳島県サーフィン連盟が連携協定を結び、サーフスポットが多くある県南部への医療従事者の移住や定住に取り組んでいます。県立海部病院ではサーフスポットまで車で3分の立地を生かし、出勤前後にサーフィンが出来るという面をアピールし、同病院を「サーフ・ホスピタル」としてブランド化しようとしています。

点から立体への展開とファーストタッチ

 地域に密着するために一つの拠点で頑張っていくのも良いですが、一点を拡大していくという方法のほかに、地域の中にもう一つ拠点をもち、2つの点を線で結ぶという方法、さらに3拠点目をおき、ここでできる三角形で面を押さえるという方法があります。点から線へ、線から面へという広がり方、密着度を高める方法です。

 流通業界では、スーパーマーケットの黎明期の「ダイエー」が各県に大店舗を作り、地域の中での点を大きくして密着していきました。その後、「イトーヨーカ堂」や「西友ストア」は巨大店舗を置く戦略から、隣接地域に多店舗展開をして、線から面への展開をしていきました。
 点から線へ、線から面への次の展開としては、「西友ストア」は「西武百貨店」など百貨店との繋がりを前面に出し、面の中に中核となるスーパーの一つ上の百貨店を置く戦略を取りました。
一方で「イトーヨーカ堂」は、セブンイレブン、デニーズというアプローチの異なる店舗を展開し、面という平面から多層階にわたる立体にアプローチしたことになります。

 生き残ったのはどこかと考えれば、面から線へ、線から面へ、面から立体へというアプローチで地域への密着を図っていったところになっています。現在、イトーヨーカ堂は様々な他の理由から閉店の方向になっていますが、展開方法の手本であることには違いないと思います。
 ここで大事なことは、買い物はヨーカ堂ではしていなかったがデニーズで食事をしていたという方に、デニーズで割引券を配布するなどヨーカ堂としてもアプローチしやすかったということです。地域の中に競合するところは様々ありますが、地域の方々のファーストタッチが私達であれば、そこからアプローチが可能になるということです。

 介護業界でいえば、居住系サービスと訪問介護、通所介護だけではなく、配食サービスや福祉タクシーなどの送迎サービス、さらには保育サービスなどをも展開することで、点から線、線から面、面から立体の立体部分が作れることになります。

この記事の執筆者

江頭 瑞穗

神奈川県出身 1987年設立の 学校法人国際学園 横浜国際福祉専門学校にて、介護福祉士、社会福祉士、社会福祉主事(任用)、保育士、幼稚園教諭などの養成を行う学科、コースの設立を主導し、事務長、事務局長を経て1991年理事長に就任。1995年同職を辞し、学校法人、社会福祉法人のコンサルタント業務を開業。
翌1996年 株式会社日本アメニティライフ協会を設立し、グループホームケアの実践を行うと共に、神奈川県、東京都に限定した介護事業を展開。現在、子会社にて日本語学校を経営するとともに、社会福祉法人理事として特別養護老人ホーム、老人保健施設、また医療法人理事としてクリニックの経営に携っている。