【お役立ち情報】2月「認知症予防月間」 「意欲旺盛か意欲低下が認知症予防の分かれ道」

2月は「認知症予防月間」

意欲旺盛か意欲低下が認知症予防の分かれ道

認知症は、記憶低下や脳を使わないことで起きる症状と思われがちですが、その記憶低下などの症状を引き起こしたり、進行させてしまう原因は「意欲」なのです。

意欲を旺盛にもっている場合は常に脳は活発に動き、活性化していますが、反対に意欲が低下すると、脳は省エネモードとなります。

以前は友好関係やおしゃれにも興味があった方が、急に部屋に引きこもりがちになったり、洋服や身だしなみにも気を使わなくなってしまったという方は、意欲の低下の始まりかもしれません。

意欲は一度低下してしまうと、自分の力だけで回復するのは容易ではありません。 

では、意欲はどのような仕組みで生まれているのでしょうか。ここで、そのメカニズムをご紹介します。 

高齢者の意欲のメカニズム

高齢者の意欲は単純な「やる気」ではなく、脳・心・社会的環境が相互作用して生まれる動的なプロセスです。

1. 脳と神経のレベル

意欲は脳内の報酬系や神経伝達物質の働きに依存しています。

 ドーパミン系

  • 報酬や達成感を感じるとドーパミンが分泌
  • 「やってみよう」という気持ちを作る
  • 高齢になるとドーパミン分泌や受容体感受性が低下 → 意欲が出にくくなる

 前頭前野の機能

  • 計画・意思決定・目標設定に関与
  • 前頭前野の老化で「先を考えて行動する力」が弱まり、意欲低下に影響

 海馬と記憶

  • 過去の成功体験や学習経験が意欲の動機付けになる
  • 海馬の萎縮や認知症の初期症状で達成感や学習意欲が減少

2. 心理的・情動のレベル

自己効力感

  • 自己効力感(自分ならできるという感覚)が意欲を生む
  • 高齢者は失敗体験や身体的制約で自己効力感が低下しやすい

報酬期待

  • 達成感・喜び・社会的承認を期待できる活動は意欲を刺激

感情の安定

  • 不安や抑うつは意欲を大きく低下させる

3. 社会的・環境のレベル

役割の存在

  • 家族・地域で必要とされている感覚が意欲を維持

社会的交流

  • 孤立は意欲低下に直結していく傾向
  • 他者との関わりはドーパミン系を活性化する

環境の挑戦感

  • 難しすぎても簡単すぎても意欲は低下
  • 適度な「チャレンジ感」が必要

4. 意欲低下のメカニズム(まとめ)

意欲は、次の3つの要素がバランスよく働くことで生まれます。

レベル  主な要素

低下の原因

脳・神経 ドーパミン報酬系、前頭前野、海馬

老化、神経変性、慢性疾患

心理・情動  自己効力感、報酬期待、感情安定

抑うつ、不安、失敗体験

社会・環境 役割、交流、適度な挑戦             孤立、過保護、挑戦不足

→ いずれかが低下すると意欲が下がる

→複数が重なると急激に無気力になることもある

高齢者の意欲は「脳の報酬系 × 心理的モチベーション × 社会的要因」の3つの相互作用で生まれる。

意欲のやる気スイッチは『脳の報酬系』

  • 何かをやってみようと思う気持ちを作る脳の仕組み
  • 達成感や楽しい気持ちを感じさせて、またやろうと思わせる回路

高齢者のやる気スイッチを入れる方法

1. 小さな達成感を作る

  • 簡単にできる目標を設定する
    :お茶を入れる、5分散歩する、洗濯物をたたむ
  • 達成するとドーパミンが出て「またやろう」と思える

2. 楽しさを取り入れる

  • 好きな音楽・香り・趣味などを活動に組み込む
  • :音楽を聴きながら掃除、花を見ながら水やり
  • 「やらされ感」を減らし、報酬系を刺激する

3. 社会的承認・交流を活用する

  • 「できたね」「ありがとう」と声をかける
  • 他人と一緒に行う活動で刺激を増やす
  • :家族と一緒に料理、地域の趣味サークル参加

4. 適度なチャレンジを与える

  • 難しすぎず簡単すぎない課題で成功体験を作る
  • 「少し頑張ればできる」レベルが理想

5. 身体の状態を整える

  • 運動・栄養・睡眠で脳と体を元気にする
  • 軽い運動はドーパミンの分泌を促し、意欲を高める

6. 自己選択の機会を増やす

  • 「やるかやらないか」を本人に選ばせる
  • 自分で決めることで意欲が湧きやすくなる
💡 まとめのイメージ

小さな達成 + 楽しさ + 承認 + 適度チャレンジ + 健康 + 自己選択
➡やる気スイッチON➡ 行動・意欲の持続

実録・Yさんのやる気スイッチON

「オレはまた、歩きたいんや!」

生活リハビリを取り入れて見事に「やる気スイッチ」をONしたYさん80歳男性の復活エピソード実録を紹介します。

Yさんはデイサービスを利用していた80歳の男性です。Yさんはけがをしてしまい、入院生活を送りました。

思いのほか入院生活が長くなり筋力の低下から、歩けなくなり、車いすでの生活を余儀なくされました。また長い入院生活のために認知機能も低下してしまいました。

退院をして自宅に戻ったYさんは、「思ったように動けない」「車いすで自由に体を動かせない」状態からイライラすることが増えました。家でも家族にイライラをぶつけることもしばしば。いつも楽しみに通っていたデイサービスでも、意欲も低下し浮かない顔で参加していました。

また声を掛けても「はぁ?」「そうやっけ?」など発する言葉も少なくなりました。デイサービスに通っているというよりも、連れてこられているような感じです。

最近のデイサービスに来るYさんは以前に比べて元気もなくなり、投げやり感満載の状態でまるで魂がぬけたような状態でした。

しかしある日、デイサービスでYさんがふと声を発しました。

「オレはまた、歩きたいんや!自分の足で!!」

その言葉にはきっかけがありました。ゆっくりゆっくり自分のペースで立ち上がり、ゆっくり歩行してトイレに行く、Kさんの姿でした。

「オレも、Kさんみたいに自分で出来るようになりたいんや!」

その言葉を聞いたスタッフは、ほかの利用者さんの姿をみて「まだあきらめていなかったYさん」の奮起の言葉に驚きながらも、応援したくなりました。

そして「Yさん、じゃあ、また歩きましょうよ!」と言葉を掛けました。

その後、デイサービスでは「げんきなYさんに復活作戦」と題して、スタッフたちがYさんの希望がかなえられるようにケアを始めました。

まずは、家のベッドからトイレまで付き添い数歩でもいいから歩いてもらうことをはじめ、次はベッドから玄関までに距離を伸ばして歩いてもらう練習を続けました。

出来るたびにスタッフや、周りの方は「Yさん、できたやん!」「Yさん、もうすこしや、かんばり」などの言葉に励まされ、Yさんは頑張りはじめます。

デイサービスに着いてからは、玄関からリビングまでと、ゆっくり無理をせず、無理をさせず距離を伸ばしていき、歩く感覚を取り戻していきました。

そのうち、会話も増え、目にも勢いが出てきました。

そしてとうとう、Yさんは以前のように歩けるまでに復活しました。歩けるようになっただけではありません。意欲も元に戻り元気なYさんの声がデイサービスでも響くようになりました。

一時期は、意欲も認知機能も低下し「もう、ようできん」と言っていたYさんが計算や脳トレドリルもすらすら解けるようになったのです。

そのYさんはこう言います。

「勝手に元気になったわけではない。Kさんをみていて、元気になろうって自分にいいきかせたんや」というYさんの顔には自信に満ち溢れていました。

周りの人が行ったことは、支援だけで本格的なリハビリではありません。

復活の大きなきっかけはYさんの「自分で歩きたい」の「やる気スイッチ」だったのです。

今回のこのような機能訓練は、「生活リハビリ」と呼び、私たち成人が生活の中で当たり前に行っていることをリハビリとして機能回復をしていくのです。

一般に機能訓練、リハビリと聞くと「筋肉を鍛える」「体力を付ける」など鍛えるイメージがありますが、生活リハビリのように生活の中で当たり前の様な動きを行うことは健康維持、筋力維持にとても大事なリハビリになるのです。

♬ 生活リハビリ

例えば

  • 洋服を選んで、パジャマから洋服に着替える。
  • トイレやお風呂で用を済ませる。
  • 自分でご飯を食べる

すべては当たり前の動作に感じてしまいますが、毎日同じ動きであっても「今日できること」が機能訓練(リハビリ)に繋がっているのです。

出来るのが当たり前ではなく「今日も出来ていた、よかった」「今日は足並みがしっかりしている」など「出来た」と感じることが脳に変化が起きます。

脳の前頭前野が活性化され、脳の報酬系が活性して「やる気スイッチ」が入るのです。その状態を保つことで意欲低下を予防することが出来ます。

脳の報酬系を活かした認知症予防チェックリスト

☑ チェックリスト

1. 意欲・やる気(報酬系)

  • ☐ 毎日「できた」と感じる小さな行動がある(家事・散歩・体操など)
  • ☐ 楽しい・好きと感じる時間を意識的に作っている
  • ☐ 誰かに感謝されたり、褒められる機会がある
  • ☐ 自分で選んで行動していることがある(服・食事・活動など)

2. 身体活動・健康

  • ☐  毎日5〜10分以上、体を動かしている
  • ☐  転倒を恐れて動かなくなることが増えていない
  • ☐  痛みや体調不良を我慢しすぎていない
  • ☐  睡眠時間・生活リズムは大きく乱れていない

3. 脳への刺激・学習

  • ☐  会話・読み書き・計算・趣味など頭を使う時間がある
  • ☐  新しいこと、少し難しいことにも挑戦している
  • ☐  失敗しても「まあいいか」と受け流せている

4. 社会とのつながり

  • ☐  家族・友人・近所の人と定期的に話している
  • ☐  「自分は役に立っている」と感じられる場面がある
  • ☐ 一人で過ごす時間が長すぎない

5. 心の状態

  • ☐  最近、笑ったり嬉しいと感じることがある
  • ☐  何をするのも面倒だと感じる日が続いていない
  • ☐  気分の落ち込みが長く続いていない

 ※ 急激な意欲低下・無関心・生活変化がある場合は、医療・専門職への相談も検討しましょう

脳の中で起きている「意欲の向上」と「意欲の低下」は認知機能の活性化、不活性化の分かれ道なのです。何気ない言動には意味があります。なかなか気付けない事が実は意欲の低下の入り口であることもあります。「めんどくさい」は黄色信号です。

ご本人だけでなく、身近の方々が意欲の出る機会を作ることが意欲を少しでも高め、認知症予防にも繋がるのです。

この記事は介護福祉士に監修されています

介護福祉士
青木 いづみ

母親の認知症をきっかけに、サービス業から介護の道へ転身。サービス業で培ったコミュニケーション力と、介護職員や施設長としての知識や経験を活かし、入居相談員として家族が抱える悩みに寄り添っています。介護現場の視点、利用者目線、専門知識を基にした丁寧な相談を行っています。