寒い冬に備えて気を付けよう
冬の介護「冬の転倒リスクと安全な歩き方」
冬は高齢者の転倒事故が特に増える季節です。その背景には、環境の変化と身体機能の変化が重なって起こる複数の要因があります。
冬の転倒リスク
まず、冬は雪や凍結、霜などにより屋外の路面が滑りやすくなります。加えて、屋内でも玄関や廊下、トイレなどで、靴や衣服に付いた水分、暖房による結露によって床が滑りやすくなります。見た目には乾いているように見えても、実際には滑りやすい状態になっていることが多く、転倒の危険が高まります。
次に、寒さによる身体機能の低下も大きな要因です。寒いと筋肉や関節がこわばり、動き始めが遅くなります。また、反射神経やバランス能力が低下しやすく、つまずいた際に体勢を立て直すことが難しくなります。特に朝起きた直後や夜間は、血圧の変動やふらつきが起こりやすく、転倒につながりやすい時間帯です。
さらに、冬特有の服装も影響します。厚着によって動作が鈍くなったり、長い裾やマフラーが足に絡んだりすることで、つまずきの原因になります。室内で履く靴下やスリッパが滑りやすいことも、転倒リスクを高めます。
このように冬は、「滑りやすい環境」「動きにくい身体」「行動を急がせる状況(寒さやトイレ)」が同時に重なる季節です。そのため、転倒は本人の不注意だけで起こるものではなく、季節による条件が重なって起こる事故であることを理解し、環境調整や声かけを行うことが重要です。
冷え込みが強く凍結の危険があるときには注意しましょう
冬の凍結時には、路面が一見乾いて見えても、実際には薄く凍っていることが多く、足を出した瞬間に滑って転倒する危険があります。そのため、歩く際は歩幅を小さくし、急がず一歩一歩確かめるように歩くことが重要です。大きく足を前に出すと体の重心が前に流れ、滑ったときに立て直しが難しくなります。
足の着き方にも工夫が必要です。かかとから強く踏み出すのではなく、足裏全体をそっと地面に置くように歩くことで、滑りにくくなります。音を立てず、静かに歩くイメージを持つと安定しやすくなります。
姿勢は、わずかに前傾姿勢を意識します。体を反らしたり、前かがみになりすぎたりすると、バランスを崩しやすくなります。足元だけを見続けるのではなく、足元と1~2メートル先を交互に確認し、凍結や段差を早めに察知することに心掛けましょう。
また、ポケットに手を入れたまま歩いたり、荷物で両手がふさがったりする状態は危険です。転びそうになったときにとっさに体を支えられるよう、手は自由に使える状態を保ちます。可能であれば、壁や手すり、ガードレールの近くを歩き、支えにできるものを意識して歩きましょう。
「小さく・静かに・ゆっくり」
冬の凍結時に転倒しにくい歩き方
【ポイントまとめ】
- 歩幅は小さく
- 大股で歩かず、一歩一歩確かめるように歩く。
- 急がない
- 早歩きは滑ったときに立て直せない。時間に余裕をもつ。
- 足裏全体で着地
- かかとから強く踏み出さず、足裏をそっと置く。
- 音を立てずに歩く
- 静かに歩く意識=滑りにくい歩き方。
- 姿勢は少し前傾
- 背筋を伸ばし、反りすぎ・前かがみを避ける。
- 視線は足元+少し先
- 足元と1~2m先を交互に見て凍結や段差を確認。
- 手は自由に
- ポケットに手を入れない。転びそうな時に支えられるようにする。
- 支えになるものの近くを歩く
- 壁・手すり・ガードレールの近くを意識して歩く。
- 「今日は滑りやすい」と意識する
- 慎重に行動する気持ちが最大の転倒予防。
寒い冬の防寒のポイント
冬の防寒で大切なのは、「温かさ」だけでなく「動きやすさ」と「安全」を両立させることです。寒さを防ごうとして厚着をしすぎると、体が動かしにくくなったり、足元や段差が見えにくくなったりして、転倒の原因になることがあります。そのため、重ね着は「薄手の衣類を重ねる」ことを基本にしましょう。
首・手首・足首は「三つの首」と呼ばれ、冷えやすい部位です。ここをマフラーや手袋、靴下で温めると、全身が効率よく温まります。ただし、マフラーは視界を妨げない巻き方を心がけ、裾の長い衣類や引っかかりやすい装飾は避けることが大切です。
室内でも冷え対策は欠かせません。暖房を使用する際は、室温だけでなく足元の冷えに注意し、ひざ掛けやレッグウォーマーを活用すると効果的です。脱衣所やトイレなど、暖房の届きにくい場所は特に冷えやすいため、事前に温めておくことで、ふらつきやヒートショックの予防につながります。
外出時は、滑りにくく安定した靴を選び、靴下は滑り止め付きのものを使用しましょう。厚手すぎる手袋は手の感覚を鈍らせるため、物をつかみやすいものを選ぶことも重要です。また、寒さで体がこわばるため、出かける前に軽く体を動かし、体を温めてから歩き始めると転倒予防になります。
防寒対策は「寒さを我慢しない」ことと同時に、「安全に動ける状態を保つ」ことが大切です。服装や環境を少し工夫するだけで、冬の事故や体調不良を防ぐことができます。
事例 ①:雪の日の外出中の転倒してしまった 75歳女性 Aさん
75歳の女性のAさんは、買い物を日課としていました。多少の雨の際には外出をしていましたので、この日も前日に雪が降りましたが、「もう今日は降っていないから大丈夫よね」と雪が降った翌日、買い物に行こうと外に出ました。雪はそれほど積もっていませんでしたが、日陰部分の歩道には薄く凍結が残っていました。
普段使用している杖の先のゴムはすり減っており、滑り止めとして十分に機能していませんでした。歩き慣れた道という安心感もあり、普段歩くペースで歩いていました。足元への注意がやや不足していたところ、突然凍結した歩道に足を取られて転倒しました。膝を強く打ち、痛みのためその場で立ち上がることができませんでした。杖につかまり立ち上がろうとしますが、杖のゴムの部分もすり減っていたため、なかなか立ち上がれず、通行人の助けを借りることになりました。
大きなけがには至りませんでしたが、Aさんはこの出来事をきっかけに外出への恐怖心が強くなり、活動量が減ってしまいました。その結果、徐々に筋力低下が進み、さらに転倒リスクが高まるという悪循環になってしまいました。
事例 ②:厚着による足元・視界不良が原因の転倒 79歳 女性 Bさん
79歳の女性Bさんは、寒さ対策のため外出時に厚手のコートに加え、マフラー、帽子、手袋を身につけていました。防寒と転倒への不安が強く、「しっかり防寒しなければ危ない」という思いから、いつもより重ね着をしていました。
玄関で靴を履き、外に出ようとした際、長めのコートの裾が太ももから膝にかかり、足元が見えにくい状態になっていました。また、マフラーを首元まできつく巻いていたため、視界が狭く、下を向いたときも段差が十分に確認できていませんでした。
その状態で住んでいる団地の階段を下りようとした瞬間、マフラーで足元が思ったより見えず、階段で段を踏み外しそうになりましたが、手すりにつかまってなんとか転ばずに済んだため大事には至りませんでした。
しかし、外の歩道は手すりがありません。少し下った歩道を歩いている時でした。その日は厚手のコートだけでなく幅広の長めのズボンをはいていました。そのため、マフラーと幅の広いズボンの裾で足元が見えず、誤って裾を踏み、そのまま前のめりに転んでしまいました。
厚手の手袋で手を怪我することはなかったのですが、膝を強く打ち、幸い骨折には至りませんでしたが、数日間歩行時の痛みが続きました。
本人は「転ばないようにと思って厚着をしたのに、かえって危なかった」と話しており、防寒と安全のバランスの大切さを実感する結果となりました。
こんなこと心当たりはありませんか?
自分に合っている杖や補助具を使っていない
【例】安定感がある方が安全と考え、普通の杖でなく四つ杖を購入したが重くて動きづらく、転倒してしまった。
杖を持っていると安心だからと常に持ち歩いているがあまり使っていない
【例】杖を持っている方が安心だからと外出の際に杖を常に持ち歩いているが、しっかりついておらず、歩いている最中にゴムが段差に引っかかって転倒してしまった。
歩きなれているからと言ってすり減った靴で歩いている
【例】履きなれていて歩くのが楽だからとすり減った靴を履いていたら、雨の日に滑りやすいマンションのロビーで転倒した。
冬は、路面の凍結や寒さによる身体のこわばりなど、転倒の危険が一年で最も高まる季節です。
杖や靴、補助具は、本来「身を守るための道具」ですが、「慣れているから大丈夫」「持っているだけで安心」と思わず、今の身体の状態に合っているか、正しく使えているか、傷みはないかを、冬を迎える前に一度見直してみましょう。
道具を“持つこと”よりも、“正しく使い続けること”が大切です。
一つひとつの確認が、冬を安全に過ごすための本当の『転ばぬ先の杖』につながります。
この記事は介護福祉士に監修されています
介護福祉士
青木 いづみ
母親の認知症をきっかけに、サービス業から介護の道へ転身。サービス業で培ったコミュニケーション力と、介護職員や施設長としての知識や経験を活かし、入居相談員として家族が抱える悩みに寄り添っています。介護現場の視点、利用者目線、専門知識を基にした丁寧な相談を行っています。

