「食の楽しみ」~発酵食品を上手に活用する~
発酵食品は、私達にとってとても身近な存在です。体に良い事は多くの方がご存じだと思いますが、料理を美味しくする大事な役目をする食品でもあるのです。今回は、そもそも発酵食品とは何か、調理に使うメリット、発酵食品選びのコツについてお話をしていきます。
発酵食品とは?
発酵食品とは、カビ、酵母、細菌などの微生物の作用を利用して製造される食品のことです。発酵は二つのタイプに分けられます。
①微生物が食品中で増殖して活動を行い、有益な食品成分の変化が起こる
例えばヨーグルトや納豆が該当します。ヨーグルトは乳酸菌の活動によって成分が分解されて酸味やとろみがつきます。納豆は納豆菌が大豆のタンパク質を分解して、アミノ酸と粘り成分を生成します。
②微生物が生み出した酵素が食品成分を変化させる
例としては、味噌や醤油が挙げられます。味噌は麹菌がアミラーゼやプロテアーゼという酵素を作り、でんぷんを糖に、タンパク質をアミノ酸に分解します。醤油は、麹菌、乳酸菌、酵母という主な微生物からアミラーゼやプロテアーゼという酵素が産まれ、その酵素が原料である大豆や小麦粉を分解して、香り、色、うま味を生成します。
この二つの他に、微生物の関与に限らず食品自体の持つ酵素や食品成分の化学変化によって有益な成分変化が起こる場合があります。これも発酵の一種で「熟成」と呼びます。ワインはアルコール発酵してから、熟成することで味や香りが変化していきます。
発酵食品を使うと料理がおいしくなる理由
発酵食品は体に良いだけでなく、調理に上手く活用することで、料理を美味しくしたり、保存性を高めたりすることができます。どのような利点があるか詳しく見ていきましょう。
①うま味とコクが深まる
発酵によってタンパク質が分解されてアミノ酸が増えます。アミノ酸はうま味成分なので、発酵食品や発酵調味料を使うとうま味をより強く感じさせることができます。同時に、糖分・有機酸なども生成されるため、甘味・酸味・塩味などのバランスが整い、コクやまろやかさが増します。
例えば、カレーなどに隠し味として醤油を入れたりすることがあります。これは、発酵食品の醤油がアミノ酸を含んでいるので、少量加えることで、うま味やコクがでるからです。
②複雑で深みのある香りが産まれる
発酵過程でできるアルコール・エステル・有機酸などが独特な香りを産みます。例えばパンの香ばしい香りや、チーズや日本酒の熟成香などが該当します。チーズの香りも発酵によって産まれるのですが、チーズの場合は、熟成期間によってかなり香りが変化します。
③素材を柔らかくする
発酵食品や発酵調味料には酵素が多く含まれています。タンパク質分解酵素のプロテアーゼやでんぷん分解酵素のアミラーゼなどは、肉や魚を柔らかくします。肉や魚を味噌に漬けたり、ヨーグルトに漬け込むと、柔らかくなるのはこのためです。
塩麹はお米由来ですからアミラーゼが含まれています。パサつきやすい鶏むね肉や豚もも肉を塩麹をからませて少し置いてから加熱調理すると柔らかくなりますし、塩麹に含まれているアミノ酸によってより美味しくもなります。
豚もも肉塩麹ロースト
④保存性を高め、風味を安定させる
発酵によって酸性になったり、アルコールや塩分が適度に生成されたりするため、発酵食品は雑菌が繁殖しにくくなります。ですから、発酵調味料を用いることで食品の保存性が高められます。
また、発酵調味料(味噌・しょうゆ・酢など)は、単にしょっぱいだけでなく、甘味や苦味や酸味など複雑な味です。加熱調理をした際に水分が減っていくときに、もしも塩味だけの味付けですととてもしょっぱくなりますが、発酵調味料を使えば、成分が飛んでも全体的な味の印象は変わりにくくなります。
つまり発酵調味料は単に味をつけるだけでなく、加熱調理しても変化に強く安定した味の土台づくりに適していると言えます。
⑤味のなじみが良い
発酵食品にはアミノ酸・ペプチド・有機酸など多層的な味成分があるため、料理の素材(野菜、肉、魚など)の風味と調和しやすいという特徴もあります。 例えば、塩だけで味付けするより、塩味を含んだ発酵調味料である塩麹や味噌で調味した方が味が全体になじむ感じがします。これは、発酵食品が持つ「まろやかさ」や「バッファー作用(酸や塩を緩和する働き)」によるものです。
アスパラガス塩麹昆布漬け
⑥発酵食品同士の相乗効果
料理を作る際に発酵食品を上手く組み合わせると、うま味成分(アミノ酸)が相乗効果を起こして、おいしさが倍増します。
例えば、納豆×醤油は発酵食品と発酵調味料の組み合わせです。和食には醤油×日本酒(みりん)を一緒に入れますが、これも発酵調味料を二つ使うことによって、まろやかな味を出したり、香ばしい風味などを産みます。味噌×チーズという組み合わせ(グラタンやトースト)もうま味が強くて美味しいと感じますね。
発酵食品・発酵調味料を選ぶコツ
「発酵食品・調味料」と呼ばれていても、発酵の途中で菌が生きている「生きた発酵食品」と、発酵後に加熱・殺菌やアルコール添加などで菌が死んでいる(活動していない)「生きていない(活動していない)発酵食品」の2種類があります。
「生きた発酵食品」は、発酵を止めていないため、微生物が今も活動しています。代表的なものは、無添加・要冷蔵の「生味噌」「ぬか漬け」「納豆」「ヨーグルト(非加熱タイプ)」「キムチ(自然発酵タイプ)」などです。
例えば、アルコール無添加の生味噌や、発酵を止めていない伝統的なキムチは、乳酸菌や酵母が生きたまま含まれています。ですから風味はとても複雑です。しかし、保存中にも発酵が進むため、味、香り、色も変化を続けます。しかし温度を下げると微生物の活動が抑制されて発酵がほぼ止まります。ですから生きた発酵食品は要冷蔵のものが多いのです。
塩麹もどれも同じではない
一方、「生きていない(活動していない)発酵食品」は、製造後に菌の働きを止めて品質を安定させたものです。発酵そのものは行われていますが、加熱殺菌や酒精(アルコール)や塩の添加により菌は死滅または休眠状態にあります。
例として、「酒精入り味噌」「常温保存できるヨーグルト飲料」「酢」「醤油」「日本酒」などが挙げられます。わかりやすい例ですと、日本酒の生酒は冷蔵保存ですが、火入れしてあるものは常温で売られていますね。
発酵を止めてある食品や調味料は、基本的に常温保存が可能で瓶やパックなどに密封されて入っています。味や保存性が安定して扱いやすい反面、菌そのものの働きは期待できません。
つまり、「生きた発酵食品」は自然の微生物が今も息づく“生き物”のような食品です。一 方で、発酵を抑制させたり止めた食品は、微生物の活動は停止されていますので、発酵で産まれたうま味や香りなどは残っていますが、菌はもう活動していません。
生きたものと生きていないものでは、味の複雑さや深さが異なっていたり、まろやかさが異なります。料理に手軽に発酵調味料を使いたいならば、生きていないタイプのものでもよいと思いますし、より複雑な味を求めるならば、生タイプのものがよいでしょう。
ラベルの「無添加」「生」「要冷蔵」「酒精入り」などの表記を確認することで、どちらの タイプかを見分けることができます。
醤油の代わりに塩麹で作った肉じゃが
和食と発酵食品の深い関係
日本は温暖湿潤な気候で微生物が活動しやすく、主食穀物であった米と麹を中心にした 発酵技術が発達して、和食という独自の料理や料理体系が形成されてきました。ですから、 和食は発酵食品ととても深い関係性があります。
和食の基本調味料
和食の基本調味料「さ(砂糖)・し(塩)・す(酢)・せ(醤油)・そ(味噌)」のうち、酢、醤油、味噌は発酵調味料です。塩は発酵を制御したり保存性を高める役目があり発酵に関わっています。つまり、和食の基本調味料の大部分が発酵と深く関わっているのです。言い換えると、和食の基本調味料は発酵の連鎖を産み出して、和食のうま味や香りに支えていると言っても過言ではありません。
出汁
出汁に使われる鰹節は魚をカビで発酵・乾燥させた発酵食品です。出汁は鰹節と非発酵食品でありながらアミノ酸(グルタミン酸)を多く含んだ天然の昆布を組み合わせることにより、うま味の相乗効果を産み出しています。
多くの和食は、味のベースとして「出汁」を使います。そこに発酵調味料で味をつけていきます。ですから、和食は「出汁」と「発酵調味料」の組み合わせで成り立っていると言えます。
一汁三菜
一汁三菜は日本の伝統的な食事スタイルです。ご飯と一汁(味噌汁)、三菜は、煮物やお浸しなどの副菜、漬物、焼き魚や肉の照り焼きなどの主菜です。味噌汁の味噌は発酵調味料です。漬物は乳酸発酵食品、焼き魚や照り焼きに醤油や味噌やみりんが使われていたら、発酵調味料を使っていることになります。つまり一汁三菜という食事スタイルは、発酵調味料で素材を繋ぎ合わせて一体感を出している食事スタイルと言えます。
発酵食品・調味料を上手く使う
発酵食品は体に良いだけでなく、料理に上手に使うと、お料理が美味しくなることがお判りいただけましたでしょうか。上手く使うコツとしてお勧めするのは、「ちょっと加える」あるいは「置き換える」ことです。 煮物などを作る際に、既に醤油やみりんが入った混合だしを使う際に、ちょっと日本酒や塩麹を入れるとか、マヨネーズを使うポテトサラダなどに、ヨーグルトをちょっと加えたりします。するとうま味が強くなったり味に深みが出ます。
また、砂糖の代わりに甘酒を使う、塩の代わりに塩麹を使うといったように発酵調味料で代用することで、いつもの料理が簡単においしくなります。
まずは、キッチンにどれだけ発酵食品や調味料があるか、改めて調べてみるのはいかがでしょうか。
この記事の執筆者
有限会社コートヤード
代表取締役 新田美砂子
農産物プロデューサー・フードデザイナー
MBA(経営管理修士)、NPO法人野菜と文化のフォーラム理事
「今ある資源を活かす」「もったいないをなくす」「健康的に食べる」をモットーにして、様々な形で農と食を繋いでいる。商品・メニュー開発、地域食材・農産物のマーケティング、地域活性化などを多数手がけてきた。
日本野菜ソムリエ協会講師、城西国際大学では食の知識と体験学習を織り交ぜた「環境と食文化」の講義を5年間担当。近年は様々な現場に携わってきた経験を活かし、食や農に対する「なぜ?」をわかりやすくフラットに伝えている。

