患者申し出制度をわかりやすく解説
1. 患者申し出制度とはなにか
「患者申し出制度」とは、正式には患者申出療養制度と呼ばれる仕組みで、2016年に始まりました。これは、保険診療ではまだ認められていない新しい医薬品や医療機器、治療法を患者さんの希望に応じて一定の条件のもとで受けられる制度です。
通常、日本の医療制度では「保険診療」で認められたものしか健康保険を使えません。新しい治療は、まず臨床試験(治験)を経て有効性や安全性を確認し、その結果がまとまったうえで厚生労働省が公的医療保険として認めるかどうかを判断します。そのため、新しい治療法が保険で使えるようになるまでには時間がかかり、数年〜十年以上かかることも珍しくありません。
この間に患者さんからすると「もう少し早くこの治療が受けられれば…」という切実な思いが生じます。とくに、命に関わる病気や既存の治療で効果が十分に得られない病気を抱える方にとっては、待っていられない状況があるのです。そこで設けられたのが、患者申出療養制度です。
2. 制度の背景
この制度が生まれた背景には、日本の医療制度がもともと「安全性と有効性を十分に確認した上で公的に認める」という仕組みを大切にしてきたことがあります。これは国民にとって安心を与える反面、新しい医療が使えるようになるのが遅いという課題もありました。
たとえば、海外ではすでに承認されている治療薬が、日本ではまだ治験段階ということがあります。その結果、海外に渡航して高額な医療費を負担して治療を受ける患者さんも出ていました。こうした「医療の空白期間」を埋めるために、「希望する患者さんが、適切な管理のもとで未承認・適応外の医療を受けられるようにしよう」と考えられたのです。
3. 患者申し出制度の仕組み
この制度の基本的な仕組みは次の通りです。
- 患者さんや家族が希望する治療を主治医に相談
「この治療を受けたい」という思いを主治医に伝えることから始まります。 - 医療機関が厚生労働省に申請
主治医のいる病院が中心となり、厚生労働省へ申請を行います。
申請には治療法の内容、想定される効果やリスク、費用負担の見込みなどが含まれます。 - 専門家会議で審査
厚労省の専門会議が開かれ、その治療を実施する妥当性、安全性、倫理性が審査されます。 - 認められれば患者申出療養として実施可能
承認が下りると、患者さんは治療を受けることができます。 - 保険が使える部分と使えない部分がある
通常の診察や検査などは健康保険の対象ですが、未承認の薬や医療機器など「新しい部分」は全額自己負担になります。
4. 保険診療との関係
ここで大切なのは、「全部が自費になるわけではない」という点です。
日本の医療制度では、保険診療と保険外診療を組み合わせることは原則禁止(混合診療禁止)となっています。これは、保険診療の公平性や安全性を守るためのルールです。
しかし、患者申出療養は特例的に「保険診療と一部の自由診療を組み合わせられる」仕組みです。
たとえば、入院料や基本的な検査代は健康保険で3割負担、未承認の薬剤費だけを全額自己負担する、といった形になります。
5. 利用できる対象
この制度は、特定の病気だけに限定されているわけではありません。ただし、実際には「既存の標準治療では効果が期待できない患者さん」や「希少疾患で有効な治療が限られている方」が多く利用するケースが想定されています。
特に、がんの治療薬や難病に対する新しい治療法を希望する患者さんにとっては重要な制度になっています。
6. メリットとデメリット
メリット
- 新しい治療法を早く受けられる。
保険収載を待たずに、希望する治療にアクセスできる。 - 海外渡航せずに国内で治療可能になる。
費用や体力的な負担が軽減される。 - 国の制度のもとで行われるため、安全性がある程度担保される。
厚労省の審査を経るので、完全な自由診療よりも安心感がある。
デメリット
- 自己負担が大きい。
新しい治療の部分は全額自己負担となり、数百万円〜数千万円に達することもある。 - 必ず承認されるわけではない。
専門家会議で否決される場合もある。 - 時間がかかることもある。
申請から承認まで数週間〜数か月かかる場合があり、すぐに治療が始められないこともある。
7. 利用の流れ(イメージ)
- 患者さんが希望する治療について主治医に相談する。
- 主治医と病院が内容を整理し、厚労省に申請する。
- 厚労省の専門家会議で審査される。
- 認められれば「患者申出療養」として承認をうける。
- 治療実施、費用は保険部分+自己負担部分を合わせて支払う。
8. 具体例
たとえば「海外で承認されているが日本では未承認の抗がん剤」を使いたい場合、患者申出療養制度を利用して申請します。認められれば、入院料や血液検査代などは保険適用で3割負担、薬代は全額自己負担となります。
この場合、薬代だけで数百万円になる可能性もありますが、全て自費で海外に行くよりは負担が小さく、かつ日本の医療機関で治療を受けられるという安心感があります。
9. 制度の意義
患者申出療養制度は、患者さんの「希望」と「医療の安全性」を両立させるために設けられた仕組みです。完全に自由診療に任せてしまうと、経済的格差による医療格差が広がったり、安全性が担保されなかったりするリスクがあります。逆に、すべての治療を保険適用待ちにすると、命にかかわる患者さんが治療を受けられない問題が出てきます。
その間を埋める「橋渡し」として、この制度は大きな意味を持っています。
まとめ
患者申し出制度は、まだ承認されていない医療を希望する患者さんが、国の管理のもとで受けられる特例的な仕組みです。
- 一部は保険が使えるが、新しい治療部分は自己負担となる。
- 厚労省の審査を経るので安全性は一定程度担保される。
- ただし費用負担や承認までの時間がかかることには注意が必要。
この制度は、患者さんにとって「最後の希望」をつなぐ制度とも言えるでしょう。利用を検討する際には、主治医や家族と十分に話し合い、経済的・身体的な負担も考えながら判断することが大切です。
この記事の執筆者
独立系ファイナンシャルアドバイザー( IFA)
法政大学大学院( MBA)
田中奈穂美
青山学院大学経営学部卒。IFA(独立系金融アドバイザー)、法政大学大学院MBA、宅地建物取引士、証券外務員1種、銀行融資診断士、相続診断士、投資診断士、ファイナンシャルプランニング技能士 2級。 年間100件を超える法人と個人の財務相談を受ける。 個人は年金・資産運用・ライフプランなどのマネーセミナーを、マネーキャリア、 マネーフォワードで行う。法人は、コスト削減、安定経営に役立つ処々の情報と確定拠出年金をご提供する。 社会保険料削減・節税・生命保険内部留保・投資信託・投資用マンションなど、 幅広い金融知識を持ち、士業チームとともに、クライアントの考え方に寄り添っ たコンサルティングに努める。 プライベートでは2児の母として、中学受験、大学受験を経験。両親の介護と相続、配偶者相続も経験。

