介護を本音で話そう「家族なのにうまくいかない理由」

介護を本音で話そう・家族編

「家族なのにうまくいかない理由」

実は、「家族だからこそ難しい」

「家族のほうがうまくいきそう、だって家族だからクセも性格も知っている」そう考える方も多いでしょう。

気心が知れている。遠慮がいらない。本人のことを一番よく分かっている。確かに、そうした側面はあります。
しかし実際は、その関係の近さゆえに逆のことが起きる場面が多く見られます。

――家族だからこそ、うまくいかない――。

これは決して珍しいことではありません。現実として、「なぜ家族介護は難しくなるのか」を整理してみると、そこには家族だからこそ起こりやすい理由が見えてきます。

介護がうまくいかない本当の理由

感情が強く入りすぎる関係

家族介護には、「関係が近すぎる」という難しさがあります。

長年の親子関係、夫婦関係の延長線上にあるため、どうしても遠慮がなくなります。

「なんで分からないの?」

「さっき言ったでしょ」

こうしたすれ違いが起きてしまうのは、介護の技術や能力の問題ではなく関係性の問題です。

第三者であれば冷静に対応できる場面でも、家族は遠慮がないからこそ言いたいことを言ってしまい、感情がぶつかることがあります。

家族だからこそ、距離を取ることが難しくなるのです。その積み重ねが、少しずつ心をすり減らしていきます。

役割が増えることで生まれるストレス

本来の「親子」や「夫婦」という関係に「介護者・被介護者」という役割が加わります。これは、介護する側だけでなく、介護される側にとっても大きなストレスになります。

親に「こうして」と言わなければならなくなった子ども。
夫婦として対等だった関係に、どこか距離が生まれてしまう瞬間。
こうした関係の変化そのものが、双方にとって大きな負担になっていきます。

本人にとっては、「介護されている」というより「指図されている」と感じることも少なくありません。また、「人の手を借りている」という状況を素直に受け止められず、関係に摩擦が生まれてしまいます。

終わりのない介護という現実

介護施設やサービスには区切りがありますが、家族介護には終わりがありません。

夜間の対応、休みのない日常、気持ちの切り替えができない生活。こうした状況が続けば、どれだけ思いがあっても心身は消耗していきます。

家族は、元気だった頃の姿を知っています。
介護が必要になれば、当たり前にできていたことができなくなります。
そのとき、「なんでこんなことができないのだろう」と感じてしまうことがあります。

しかし、できなくなっていく現実を、介護する側もされる側も簡単には受け止められません。そうした戸惑いや不安が、少しずつストレスにつながっていくのです。

このズレがいら立ちを生み、言葉が強くなり、言い争いにつながってしまうことがあります。
その積み重ねが、関係を少しずつ悪化させていくのです。

介護が長く続くほど、気持ちに余裕を持つことが難しくなっていきます。

うまくいかないのではなく、近くにいるからこそ「逃げられない状態」になっているのです。

家族だからこそ生まれる“甘え”

「家族だからこのくらい」と互いに思ってしまうのが「家族」の介護です。
そして介護を受ける側は、家族だから「これくらいやってくれるだろう」「言わなくても分かるはず」などという甘えが出やすくなります。

介護をする側も、つい「何度も言わせないで欲しい」「わかってくれるはず」と言葉にしなくても伝わるはず――そんな期待が積み重なっていきます。

第三者の前では、しっかりする

その一方で、第三者の前では、不思議としっかりすることがあります。

介護サービスの場では、きちんと話し、自分でできることはやろうとする。「自分はまだできる」「しっかりしている」と見せようとする姿もみられます。

家ではできないのに、外ではできる

しかし、家族の前では、邪険な言葉を使ったり、わがままを言ったりすることがあるのも事実です。

親しい関係だからこそ、遠慮がなくなり、感情をぶつけてしまうこともあるのです。

そのため、介護する側は、「家ではできないのに、どうして外ではできるのだろう」と困惑し心が疲れてしまうのです。

自分のやり方が悪いのかな愛情が足りないのかなと自分を責めてしまう方も少なくありません。

正しさへのぶつかり合い

介護の中では、「安全に過ごしてほしい」という家族の思いと、「自分でやりたい」「自分で決めたい」というような思いがぶつかることがあります。

どちらかが正しいわけではなく、どちらも思いとして間違っていないのですが、お互いが「正しい」と思っているからこそ、ぶつかり合って、苦しくなることがあります。

生活そのものへの影響

家族介護は、単なるケアでは終わりません。
費用の問題、仕事との両立、将来への不安――。
これらが家族の生活に直結します。その重さが、気持ちの余裕を奪い、冷静な対応を難しくしていきます。

施設職員であれば、シフトで交代しながら対応できるため、一定の距離を保つことができます。

しかし家族は違います。関係そのものから離れることができません。
逃げ場のない状況が続くことで、ストレスは長期化し、さらに苦しさが増していきます。

周囲には見えにくい介護というもの

家族介護は「外から見えにくい」というと言う特徴があります。

たとえ、家の中では感情的な衝突があっても、周囲からは「仲のいい家族」と思われている場合があります。

家族自身も、衝突があったことを周囲に気づかれないよう振る舞うことが少なくありません。

そうした状態が続くうちに、悩みを打ち明けられずに抱え込み、介護をする側も、される側も、孤独感を深めてしまうことがあります。

「家族の介護」では、こんな感情を生みます

親から子どもに対しては「今まで自分が育ててきたから」、子どもから親に対しては「今までしっかりしていたのだから、急にできないはずがない」と感じてしまうことがあります。

夫婦でも、「長く一緒にいるのだから分かっているはず」「家族なんだからやってくれる」といった、“当たり前”を前提にした思いが、お互いの感情のすれ違いにつながっていくのです。

しかし、家族は血が繋がっていたとしても、長い間過ごしてきた年月があったとしても― お互い「別の感情」や「別の価値観」がある一人の人間同士なのです。

誰が悪いわけではありません。
もともと家族は感情が入りやすく、「家族だから」という甘えも生まれやすいため、その分だけ関係が崩れやすい面があるのです。

頼ることも、ひとつの選択肢です

しかし、血が繋がっている家族であっても、長い年月を共に過ごしてきたとしても――
お互いに違う感情や価値観を持つ別々の人間なのです。

そのため、頼るという選択をしていいのです。介護のサービスを使うことは「逃げる」ではありません。むしろ、良い関係を守るために必要な選択肢です。

頼りすぎず、抱え込みすぎず、適切に距離を取りながら支えを分け合うこと。
それが結果として、本人にとっても家族にとっても、よりよい介護につながっていきます。

入居相談でお伝えしていること

私が入居相談を受けていると、施設を検討し始めた理由として、「家族介護を続ける中で、関係がうまくいかなくなった」と話されるご家族は少なくありません。

さらに話を伺うと、「周りの人の言うことは聞くのに、家族の言うことは聞かない」「介護をしている自分にはきつく当たる」「わがままを言う」など、介護前にはなかった家族関係の悩みを抱えている方が多いように思います。

私自身、介護をしていた頃に同じような思いを抱いていました。
限界を感じて施設に入居した後は、離れて暮らす寂しさもありましたが、「今どんな生活をしているかな?」「元気にしているかな?」と、以前より相手を愛おしく思うようになった記憶があります。

その経験から、「施設を利用することは悪いことではありません。介護する側と介護される側がお互い距離を置くことも必要です。」

「施設の職員は介護のプロです。家族での介護が苦しくなったときは、無理をせず頼ってみてください。そして、ちょうどいい距離の中で、親子として過ごす時間を取り戻してほしいと思います。」

 大切なのは、一人で抱え込まないこと

介護を続ける中で、関係がうまくいかなくなることは特別なことではありません。
だからこそ、助けてもらえる部分はプロに頼りながら、家族にしかできない関わりを大切にしていくことも必要なのだと思います。

たとえどれほど懸命に、そして完璧を目指して家族で介護をしても、「後悔」がまったく残らないということは少ないものです。だからこそ、助けてもらえる部分はプロに頼り、その一方で、家族にしかできない関わりを大切にしていくことも必要なのだと思います。

介護の負担が少し軽くなることで心に余裕が生まれ、失われかけていた“元の家族の関係”を取り戻せることがあります。その方が、お互いにとって穏やかで良い時間につながっていくのではないでしょうか。

次回は、うまくいかなかった家族介護を、どう乗り越えていったのか。その実録をご紹介します。

この記事は介護福祉士に監修されています

介護福祉士
青木 いづみ

母親の認知症をきっかけに、サービス業から介護の道へ転身。サービス業で培ったコミュニケーション力と、介護職員や施設長としての知識や経験を活かし、入居相談員として家族が抱える悩みに寄り添っています。介護現場の視点、利用者目線、専門知識を基にした丁寧な相談を行っています。