KSKからKSK2へ――個人がこれから注意したい税務のデジタル化
国税庁の国税総合管理システムKSKという言葉を聞くと、「何か新しい税務調査の仕組みが始まるのではないか」と不安に感じる方もいるかもしれません。けれども、KSKそのものはすでに長年使われている国税庁の基幹システムです。
KSKとは「国税総合管理システム」のことで、全国の国税局や税務署を結び、申告、納税、滞納、調査、各種資料情報などを管理するための仕組みです。
つまり、税務署は以前から、申告書だけを単独で見ているのではなく、さまざまな情報を確認しながら税務行政を行ってきました。
KSK2で何が変わるのか
今、話題になっているのは、すでにあるKSKを次世代の仕組みに刷新する「KSK2」への移行手続きに関してです。
国税庁は、令和8年9月24日に国税システムの更改を予定していると案内しています。また、e-Taxについても、この更改に伴い利用できない時間が発生することや、令和8年9月24日以降はe-Tax接続時のIPアドレスの扱いが変わることを公表しています。
さらに、国税システム更改に伴うe-Tax仕様書には「KSK2対応版」と記載され、令和8年6月以降に送信試験環境が整う予定とされています。つまり、KSK2は遠い未来の話ではなく、すでに準備が進んでいる税務行政の大きな変化だと考えるとよいでしょう。
紙からデータ中心の税務へ
KSK2で何が変わるのかを、個人の生活に置き換えて言えば、「紙中心の税務」から「データ中心の税務」へ、さらに進んでいくということです。
国税庁は、書面提出された申告書や申請書などについて、AI-OCRを使って読み取り、データ化やイメージ化を進める予定であることも示しています。つまり、紙で提出しているからデータとして見られない、という時代ではなくなっていきます。
これからは、確定申告書、源泉徴収票、支払調書、年金情報、証券会社の取引情報、保険会社からの支払情報、不動産取引、相続や贈与に関する情報などが、より整理され、確認されやすくなると考えておく必要があります。
「見られても説明できる」が大切
ただし、ここで必要以上に怖がる必要はありません。KSK2は、まじめに申告している人を困らせるためだけのものではありません。税務署側の事務を効率化し、将来的には申告や納税の手続きが便利になる面もあります。
大切なのは、「税務署に見つからないようにする」という考え方ではなく、「見られても説明できるようにしておく」という考え方です。
正しく申告し、必要な資料を残し、お金の流れを説明できるようにしておけば、過度に不安になる必要はありません。
投資や年金で気をつけたいこと
投資の利益と申告のルール
注意したいのは、投資に関する税金です。株式、投資信託、ETF、外貨預金、債券、暗号資産などで利益が出た場合、口座の種類や取引内容によって申告が必要になることがあります。
特定口座の源泉徴収ありであれば、原則として申告不要で済む場合もありますが、損益通算や繰越控除を使うなら申告が必要になることがあります。
また、暗号資産は株式とは税金の扱いが異なり、売却したときだけでなく、別の暗号資産に交換した場合や、商品・サービスの支払いに使った場合にも課税関係が生じることがあります。取引履歴をきちんと残しておかないと、あとから利益計算ができなくなります。
年金受給者も申告の確認を
年金を受け取っている方も、確認が必要です。公的年金だけで生活している場合でも、年金額やその他の所得の有無によって、確定申告が必要になることがあります。
年金のほかに、個人年金保険、不動産収入、配当収入、株式の売却益、講演料、原稿料などがある方は、申告が必要かどうかを確認しておきましょう。
また、医療費が多くかかった年は、医療費控除を使える可能性があります。病院の領収書、薬局の領収書、通院交通費の記録、介護保険サービスの領収書などを年ごとに整理しておくと、確定申告のときに慌てずに済みます。
医療費控除は資料整理が重要
医療費控除でよくあるのは、「領収書はあるけれど、どれが対象になるか分からない」という悩みです。
医療費控除は、病院代や薬代だけでなく、一定の通院交通費や介護に関する費用が対象になることもあります。一方で、美容目的の費用や予防・健康増進目的の支出など、対象にならないものもあります。KSK2の時代だから特別に医療費控除が変わるわけではありませんが、データ化が進むほど、申告内容と資料の整合性が大切になります。
家族分をまとめて申告する場合も、誰の医療費なのか、いつ支払ったのかが分かるようにしておきましょう。
相続・贈与・保険で注意したいこと
名義預金と贈与の注意点
相続や贈与については、特に注意が必要です。親から子へ、祖父母から孫へ、お金を渡す場面はよくあります。生活費や教育費として必要な範囲で渡す場合と、まとまった財産を移す場合では、税務上の扱いが変わります。
たとえば、子ども名義や孫名義の口座に毎年お金を入れているものの、通帳や印鑑を親や祖父母が管理している場合、実質的には本人の財産ではなく、名義預金と見られる可能性があります。「あげたつもり」ではなく、贈与契約書、振込記録、受け取った人が自由に使える状態になっているかが大切です。
非課税制度は要件確認が重要
住宅取得資金、教育資金、結婚・子育て資金などには、一定の非課税制度が用意されている場合があります。ただし、制度には期限、金額、使い道、手続き、申告の要件があります。制度名だけを聞いて安心するのではなく、自分のケースで本当に使えるのか、期限に間に合うのか、必要な書類がそろっているのかを確認することが大切です。
特に、親子間で大きなお金が動くときは、あとから相続税の調査で確認されることがあります。家族間だからこそ、記録を残しておくことが家族を守ることになります。
保険金は契約形態で税金が変わる
保険金や満期金にも注意が必要です。生命保険は、契約者、被保険者、受取人の関係によって、所得税、相続税、贈与税のどれが関係するかが変わります。
たとえば、親が保険料を払っていて子どもが満期金を受け取る場合、贈与税の対象になることがあります。死亡保険金であれば相続税の非課税枠が使える場合もありますが、契約形態を間違えると想定と違う税金になることがあります。KSK2の時代には、保険会社からの支払情報も含め、お金の流れを説明できることがより大切になります。
デジタル時代の記録管理
電子データを整理して保存する
電子データの保存も、個人にとって大切なテーマです。副業をしている方や個人事業主の方は、メールで受け取った請求書、PDFの領収書、ネット通販の領収データ、クラウドサービスの利用明細、クレジットカード明細などを、探しやすく保存しておきましょう。
紙に印刷して安心するのではなく、電子データとして保存する意識が必要です。フォルダを年ごと、月ごと、取引先ごとに分ける。ファイル名に日付、取引先、金額を入れる。スマートフォンだけでなく、クラウドやパソコンにもバックアップする。こうした小さな工夫が、あとから自分を助けます。
e-Taxとマイナポータルを活用する
また、マイナンバーカードやe-Taxを使う方は、電子証明書の有効期限にも注意しましょう。確定申告の時期になってから、マイナンバーカードの電子証明書が切れていることに気づくと、手続きがスムーズに進まないことがあります。
医療費通知、ふるさと納税、保険料控除、証券口座の情報など、マイナポータル連携で申告が便利になる部分も増えています。便利な仕組みを使うためにも、早めにログインできるか、必要な情報が連携できるかを確認しておくと安心です。
まとめ
特別な節税策より基本の管理を
KSK2への対応というと、何か特別な節税策をしなければならないように感じるかもしれません。
しかし、個人にとって一番大切なのは、特別な裏技ではありません。
- 収入をもれなく確認すること
- 経費や控除の資料を残すこと
- 家族間のお金の移動を記録すること
- 投資や保険の取引内容を把握すること
- 電子データを探しやすく保存すること
この基本を整えておくことが、いちばん確実な備えです。
これからは「説明できること」が安心につながる
これからの税務は、「あとで何とかする」よりも、「日頃から整えておく」ことが大切になります。
税務署のデータ活用が進むほど、私たち個人も、お金の流れを自分で把握しておく必要があります。
とはいえ、難しく考えすぎる必要はありません。収入、支出、贈与、相続、保険、投資、医療費などを、年ごとに分けて保管し、分からないところは早めに税理士や専門家に相談する。それだけでも、安心感は大きく変わります。
KSKからKSK2への流れは、税務行政のデジタル化を象徴する大きな変化です。
けれども、正しく申告し、根拠を残し、聞かれたときに説明できる人にとっては、必要以上に怖がるものではありません。
副業、投資、年金、医療費、保険、相続、贈与など、暮らしの中のお金の動きを見える形にしておくことが、これからの時代に自分と家族を守る一番の備えになるのです。
この記事の執筆者
独立系ファイナンシャルアドバイザー( IFA)
法政大学大学院( MBA)
田中奈穂美
青山学院大学経営学部卒。IFA(独立系金融アドバイザー)、法政大学大学院MBA、宅地建物取引士、証券外務員1種、銀行融資診断士、相続診断士、投資診断士、ファイナンシャルプランニング技能士 2級。 年間100件を超える法人と個人の財務相談を受ける。 個人は年金・資産運用・ライフプランなどのマネーセミナーを、マネーキャリア、 マネーフォワードで行う。法人は、コスト削減、安定経営に役立つ処々の情報と確定拠出年金をご提供する。 社会保険料削減・節税・生命保険内部留保・投資信託・投資用マンションなど、 幅広い金融知識を持ち、士業チームとともに、クライアントの考え方に寄り添っ たコンサルティングに努める。 プライベートでは2児の母として、中学受験、大学受験を経験。両親の介護と相続、配偶者相続も経験。

