年金生活者支援給付金
年金だけでは生活が厳しくなる時代に
年金生活者支援給付金は、公的年金だけでは日々の生活が厳しくなりやすい方に対して、年金に上乗せして支給される恒久的な支援制度です。
物価が上がると、食費、光熱費、医療費、介護サービスの自己負担など、毎月必ず出ていくお金の負担が重くなります。特に年金収入が少ない高齢の方、障害基礎年金を受けている方、遺族基礎年金で生活を支えている方にとっては、月に数千円の上乗せでも家計の安心感は大きく変わります。ただし、この制度でとても大切なのは、「対象になれば自動的に必ず振り込まれる」と思い込まないことです。原則として、受け取るためには請求書の提出が必要です。申請しなければ、1円も受け取れない可能性があります。該当しそうな方は、早めに確認することが大切です。
消費税財源を活用した生活支援
この制度ができた背景には、消費税率の引き上げと、低所得の年金受給者への生活支援という考え方があります。公的年金は老後や障害、家族を亡くした後の生活を支える柱ですが、保険料を納めた期間が短かった方や、現役時代の収入が低かった方は、年金額だけで十分な生活費をまかなうことが難しい場合があります。
そこで、社会保障と税の一体改革の流れの中で、消費税財源を活用し、所得が一定以下の年金受給者に対して、年金とは別に給付金を上乗せする仕組みが作られました。制度は令和元年10月から始まり、一時的な給付金ではなく、要件を満たす限り継続して支給される恒久的な制度です。
給付金の種類
年金生活者支援給付金には、大きく3つの種類があります。
老齢年金生活者支援給付金
1つ目は、「老齢年金生活者支援給付金」です。
これは、65歳以上で老齢基礎年金を受けている方のうち、世帯全員が市町村民税非課税で、前年の公的年金等の収入とその他の所得の合計が一定額以下の方が対象になります。令和8年度の基準では、昭和31年4月2日以後生まれの方は、前年の年金収入とその他所得の合計が90万9,000円以下、昭和31年4月1日以前生まれの方は90万6,700円以下が1つの目安です。老齢年金生活者支援給付金は、保険料を納めた期間や免除を受けた期間に応じて計算されます。満額で考えると、令和8年度の給付基準額は月額5,620円です。
障害年金生活者支援給付金
2つ目は、「障害年金生活者支援給付金」です。
これは、障害基礎年金を受けている方で、前年の所得が一定額以下の方が対象です。障害年金そのものは非課税の収入であり、所得判定には含めない扱いになっています。令和8年度の金額は、障害等級2級の方が月額5,620円、障害等級1級の方が月額7,025円です。障害等級1級の方は、2級の方の1.25倍の水準になっています。障害のある方は、医療、通院、福祉用具、移動、家族の付き添いなど、生活上の支出が増えやすい面があります。この給付金だけで高額な支出をすべて補えるわけではありませんが、毎月確実に上乗せされる支援として、生活設計上は見落とせない制度です。
遺族年金生活者支援給付金
3つ目は、「遺族年金生活者支援給付金」です。
これは、遺族基礎年金を受けている方で、前年の所得が一定額以下の方が対象です。令和8年度の金額は、月額5,620円です。遺族基礎年金は、家計を支えていた方が亡くなった後、子のある配偶者や子を支える制度です。けれども、残された家族の生活は、精神的にも経済的にも大きく変わります。家賃、教育費、食費、保険料、通信費などは、すぐに軽くなるわけではありません。そうした中で、年金に上乗せされるこの給付金は、生活の土台を少し厚くする役割を持っています。複数の子がいる場合などは、取り扱いや金額が変わることもありますので、実際の支給額は通知書で確認することが大切です。
| 給付金の種類 | 対象となる方 | 主な条件 | 令和8年度 月額 |
| 老齢年金生活者支援給付金 | 65歳以上で老齢基礎年金を受けている方 | 世帯全員が市町村民税非課税・前年所得等が基準以下 | 5,620円 |
| 障害年金生活者支援給付金(2級) | 障害基礎年金2級を受けている方 | 前年所得が基準以下 | 5,620円 |
| 障害年金生活者支援給付金(1級) | 障害基礎年金1級を受けている方 | 前年所得が基準以下 | 7,025円 |
| 遺族年金生活者支援給付金 | 遺族基礎年金を受けている方 | 前年所得が基準以下 | 5,620円 |
給付額はどう変わる?
令和8年度は、年金生活者支援給付金の給付基準額が、令和7年度から3.2%引き上げられます。
令和7年度の老齢・障害2級・遺族の基準額は、月額5,450円でした。令和8年度は月額5,620円となり、月額で170円、年額では2,040円の増額です。障害1級は、令和7年度の月額6,813円から、令和8年度は月額7,025円となります。月額で212円、年額では2,544円の増額です。
金額だけを見ると、大きな臨時収入という印象ではないかもしれません。しかし、この制度の特徴は、要件を満たしている間、年金とは別に継続して支給される点にあります。物価上昇が続く中では、こうした恒久的な上乗せを確実に受け取ることがとても重要です。
| 区分 | 令和7年度(月額) | 令和8年度(月額) | 月額増額 | 年額増額 |
| 老齢・障害2級・遺族 | 5,450円 | 5,620円 | 170円 | 2,040円 |
| 障害1級 | 6,813円 | 7,025円 | 212円 | 2,544円 |
振り込まれるタイミング
支給のタイミングにも注意が必要です。
令和8年度の改定は、令和8年4月分から適用されます。ただし、年金と同じように実際の振り込みは後払いです。そのため、4月分と5月分の改定後金額が反映されるのは、原則として6月15日の支給分からです。
年金生活者支援給付金は、年金と同じ受取口座に、年金とは別の名目で振り込まれます。原則として偶数月の中旬に2か月分ずつ支給されますので、通帳では年金の入金とは別に、給付金の入金が記載されます。6月に届く年金振込通知書や給付金関係の通知を見て、金額がどう変わったかを確認しておくと安心です。
対象になる人・ならない人
受け取れる条件は、給付金の種類ごとに少し違います。
| 給付金の種類 | 対象となる方 | 主な条件 | 令和8年度 月額 |
| 老齢年金生活者支援給付金 | 65歳以上で老齢基礎年金を受けている方 | 世帯全員が市町村民税非課税・前年所得等が基準以下 | 5,620円 |
| 障害年金生活者支援給付金(2級) | 障害基礎年金2級を受けている方 | 前年所得が基準以下 | 5,620円 |
| 障害年金生活者支援給付金(1級) | 障害基礎年金1級を受けている方 | 前年所得が基準以下 | 7,025円 |
| 遺族年金生活者支援給付金 | 遺族基礎年金を受けている方 | 前年所得が基準以下 | 5,620円 |
老齢年金生活者支援給付金では、まず65歳以上で老齢基礎年金を受けていることが必要です。さらに、同じ世帯の全員が市町村民税非課税であること、本人の前年の年金収入とその他所得の合計が基準以下であることが条件になります。
ここで大切なのは、「世帯全員が非課税」という点です。本人の年金が少なくても、同じ世帯の家族に課税所得がある場合は、対象外になることがあります。また、所得が基準額を少し超える方でも、一定の範囲内で「補足的老齢年金生活者支援給付金」の対象になる場合があります。これは、所得が少し増えただけで給付が急にゼロになる不公平を和らげるための仕組みです。
障害年金生活者支援給付金と遺族年金生活者支援給付金では、障害基礎年金または遺族基礎年金を受けていることに加え、前年の所得が基準以下であることが必要です。令和8年度の資料では、所得基準は479万4,000円以下を基本とし、扶養親族等の人数に応じて増額されます。老齢の給付金と違い、世帯全員が非課税であることまでは求められていません。ここは誤解しやすい点です。
障害年金や遺族年金は非課税の収入であり、所得判定では原則として含めません。ただし、給与収入、事業所得、不動産所得などがある方は、前年所得との関係で対象になるかを確認する必要があります。
申し込み方法
申請方法は、状況によって分かれます。
すでに年金を受給している方
すでに年金を受けていて、新たに年金生活者支援給付金の対象になりそうな方には、日本年金機構から「年金生活者支援給付金請求書」という、はがき型の書類が届くことがあります。この請求書が届いた方は、氏名など必要事項を確認し、記入して返送します。難しい手続きではありませんが、出さなければ支給されません。届いたまま放置しないことが大切です。
新たに年金を請求する方
新たに老齢基礎年金、障害基礎年金、遺族基礎年金を請求する方は、年金の請求手続きとあわせて、給付金の請求手続きを行います。
請求書を提出すると、通常は審査の後に支給決定通知書が届きます。その後、初回支払い月の前に振込通知書で金額を確認できます。原則として、請求した月の翌月分から支給されます。そのため、「あとで申請すればいい」と思っていると、受け取れたはずの期間分を逃してしまう可能性があります。
申請時に注意したいこと
手続きで気をつけたいのは、案内が来たら放置しないこと、住所変更をきちんとしておくこと、所得や世帯の状況が変わったら通知を確認することです。対象になりそうなのに請求書が届かない場合は、最寄りの年金事務所、市区町村の年金窓口、またはねんきんダイヤルに相談します。マイナポータルを利用した電子申請ができる場合もありますが、紙の請求書で手続きする方も多い制度です。
世帯・住所・所得確認の落とし穴
高齢の親御さんを支援するご家族は、郵便物の中に年金関係のはがきが埋もれていないか、封筒を捨てていないかを一緒に確認してあげるとよいでしょう。実務上は、まず「自分が受けている年金の種類」を確認するところから始めると整理しやすくなります。老齢基礎年金なのか、障害基礎年金なのか、遺族基礎年金なのかによって、所得要件や給付金額が変わります。次に、前年の所得、世帯の課税状況、扶養親族の有無を確認します。
特に老齢の給付金では、同居している子ども世帯の課税状況が影響することがあります。住民票上の世帯がどうなっているかも大切です。別居していても住民票を移していない、施設に入居したが住所変更をしていない、といった場合は、判定に影響する可能性があります。制度の対象かどうかは、感覚で判断せず、通知書、源泉徴収票、課税証明書、年金証書などを手元に置いて確認しましょう。
「対象外」と自己判断しないこと
家計相談の現場でも、「私は年金が少ないから対象のはず」と思っていたら世帯要件で外れる方もいれば、「少し収入があるから無理」と思っていたのに補足的な給付の対象になる方もいます。
だからこそ、自己判断であきらめないことが大切です。
生活保護とは別の制度です
また、この給付金は生活保護とは別の制度です。年金を受けている方が、所得要件などを満たした場合に上乗せされるものです。「申請すると何か不利になるのでは」と心配する必要はありません。むしろ、税金を財源として設けられた支援を、必要な方にきちんと届けるための仕組みです。ご家族が代理で確認する場合も、本人の同意を得て、年金番号や基礎年金番号、本人確認書類を準備しておくと相談がスムーズです。
まとめ
この制度は、生活に困ったときだけ1度もらう見舞金ではありません。公的年金制度の上に、低所得の年金受給者を支えるために設けられた、継続的な生活支援です。だからこそ、制度を知っている人と知らない人、申請した人としなかった人で差が出てしまいます。令和8年度は、6月15日支給分から増額が見込まれます。ただし、いくら増えるか、対象になるか、いつから受け取れるかは、1人ひとりの年金の種類、所得、世帯状況、保険料納付期間によって異なります。
年金は、老後や万一のときの大切な生活資金です。少額に見えても、受け取れる権利を確実に受け取ることは、家計を守る第一歩です。
通知書が届いたらすぐ確認し、不明点があれば年金事務所に相談し、申請漏れを防ぎましょう。申請しなければ受け取れない制度だからこそ、「自分は対象かもしれない」と思った時点で、早めに1歩動くことが大切です。
この記事の執筆者
独立系ファイナンシャルアドバイザー( IFA)
法政大学大学院( MBA)
田中奈穂美
青山学院大学経営学部卒。IFA(独立系金融アドバイザー)、法政大学大学院MBA、宅地建物取引士、証券外務員1種、銀行融資診断士、相続診断士、投資診断士、ファイナンシャルプランニング技能士 2級。 年間100件を超える法人と個人の財務相談を受ける。 個人は年金・資産運用・ライフプランなどのマネーセミナーを、マネーキャリア、 マネーフォワードで行う。法人は、コスト削減、安定経営に役立つ処々の情報と確定拠出年金をご提供する。 社会保険料削減・節税・生命保険内部留保・投資信託・投資用マンションなど、 幅広い金融知識を持ち、士業チームとともに、クライアントの考え方に寄り添っ たコンサルティングに努める。 プライベートでは2児の母として、中学受験、大学受験を経験。両親の介護と相続、配偶者相続も経験。

