「食の楽しみ」~料理に個性を与えるスパイスとハーブ~
料理の味は塩や砂糖で整えられ、油で印象が決まります。しかしもう一つ料理の印象を大きく左右するものがあります。それがスパイスやハーブです。同じ料理でも、ほんの少し加えるだけで、まったく違う料理のように感じることがあります。また、食材に加えることで、食べやすくしたり、食欲を増進させる役割もしてくれます。
スパイスやハーブを使いこなすのは難しいと感じている方もいるかもしれません。確かに一つ一つのスパイスやハーブの使い方を覚えるのは大変ですが、基本的な効果や使い方がわかると、気軽に使えるようになります。そして、料理の個性がはっきりして、食べる人の満足感も高まります。
スパイスとハーブの違い
スパイスとハーブの違いは何でしょうか?
どちらも植物由来のもので、古代には薬としても使われていたものも多く、料理だけでなく体調を整えるものとして大切にされてきた歴史があります。
一般的には葉・茎・花を使うものをハーブ、種・実・根・樹皮などを使うものをスパイスと呼んでいます。
しかし、同じ植物でも部位によって呼び方が変わるケースもあります。例えば、コリアンダー(パクチー)は、「葉」はハーブ、「種子」はスパイスと分けられますし、山椒も若芽(木の芽)はハーブ、実はスパイスというイメージで分けられています。さらに、スパイスは乾燥品、ハーブは生というイメージもあるかもしれません。でも、スパイスでも生もありますし、ハーブも乾燥したものもあります。ちょっとややこしいですね。
実はスパイスとハーブの違いの厳格な定義はなく、どちらも「香辛料」と一括りにして呼ばれることもあります。ここではまとめてスパイスという言葉で括って話を進めます。
パセリ栽培
スパイスと漢方薬
スパイスの中には、日本でも昔から漢方薬に使われているものも多く含まれています。例えば、しょうが、シナモン、山椒などは、古くから体を整えるものとしても用いられてきました。私の友人の薬局では昔はオリジナルの七味を作って売っていたそうです。こうした背景を知ると、スパイスやハーブは単に香りを加えるだけでなく、食と体との関わりの中で育まれてきたものだとわかりますね。
スパイス店(イスタンブール)
スパイスの3つの役割
スパイスを上手く使うための最初のコツは、どんな役割をするかを知ることです。スパイスの役割は「香りをつける」「辛味をつける」「色をつける」の3つに分けられます。
- 香りをつけるスパイス:クミン、シナモン、コリアンダー、ショウガなど
- 辛味をつけるスパイス:唐辛子(チリ)、ブラックペッパー、山椒など
- 色をつけるスパイス:ターメリック、サフラン、パプリカなど
香りをつけるスパイス
香り系スパイスは、加熱で香りを油に引き出すもの(ホールタイプ)と、熱に弱く香りが飛びやすい(パウダータイプ)があります。
中華やイタリアンでは、最初にニンニクを油で加熱して香りを油に移します。これは料理の香りの土台を作っているのです。洋風の料理でよく使うローリエ(月桂樹の葉)は、煮込んでいる間に深みと甘い香りを生み出します。
料理の仕上げとして鮮烈な香りを加えるのが、香りが飛びやすいタイプのものです。例えば挽きたてのブラックペッパーは、料理をきりっとさせてくれますし、鰻の蒲焼に山椒を振りかけると、あの香りが鰻の泥臭さを覆い隠し、油っぽさも感じさせなくしてくれてさっぱりと食べやすくなります。
辛味をつけるスパイス
辛味成分を持つスパイスは、「ホット系」と「シャープ系」に分けられます。これを知っていると、入れるタイミングがわかります。
ホット系
ホット系は、味の土台やコクを感じさせる役目をします。油でじっくりと加熱して辛味を出すタイプで、唐辛子がそれに該当します。また、唐辛子はアルコールを使って辛味を抽出することもできます。沖縄のコーレーグース(泡盛×唐辛子)という調味料がそれに該当します。唐辛子を水に入れても辛味は出ないということなのです。
シャープ系
味をきりっとさせる役目をするのがシャープ系のスパイスです。香りのアクセントや油っぽさを解消するなど、インパクトが強いスパイスで、わさび、山椒、胡椒、からしなどです。これらは加熱に弱いので、料理の仕上げや食べる直前に使います。わさびや山椒を加熱中の料理に入れても、ちっとも効かないわけです。
山椒の実(奥飛騨)
色をつけるスパイス
色をつけるスパイスは、油に溶ける性質(脂溶性)と水に溶ける性質(水溶性)のものに分けられます。脂溶性のターメリックやパプリカパウダーは、油で炒めることで成分が溶け出して、色が出るタイプです。スパイスの中で最も高級とされるサフランや、栗きんとんの色をつけるクチナシは水やお湯やスープなどの水分に浸すことで色が溶け出します。
1つで複数の役割をもつスパイス
スパイスの中には、一つで複数の役割を持つものの少なくありません。香りだけでなく色や辛味も同時につくものです。例えば、ターメリック(うこん)は料理を鮮やかな黄色に染めながら、ほのかに土っぽい香りをつけます。唐辛子(チリ)は、辛みだけでなく赤い色合いもつけられます。山椒も香りと辛味の両方をもっているスパイスです。
スパイスを効果的に使うコツ
スパイスを上手く使うには、役割だけでなく、使うタイミングと温度も重要です。同じタイミングで使えるスパイスは組み合わせしやすくもなります。
料理の最初に使うスパイスは油に香りを映して料理の土台になるもので、ホールスパイスやニンニクやショウガなどが当てはまります。中華やイタリアンでは、ニンニクを油にいれて熱してじっくりと香りを油に移します。加熱の途中では、パウダー状のスパイスを加えて全体に馴染ませます。料理の仕上げに使うものは香りを飛ばさないようにします。
さらに一部のものは、非加熱で使うことで、香りが鮮やかに立ちます。和のスパイスならば大葉やわさびや七味唐辛子、イタリアンのバジルやパセリなどが該当します。
ハーブ類を売っている店(トルコ)
インドカレーのおいしさの秘密
インドカレーのおいしさの秘密はスパイス使いにあります。ホールスパイス、粉のスパイスの両方を使い、3つのスパイスの要素である「香り」(クミンなど)、「色」(ターメリック)、「辛み」(唐辛子)をすべて使っています。
まず最初にホールスパイスを油に入れて熱して、油に香りを移し香りの土台を作ります。
そして油で玉ねぎをよく炒めて丸みを帯びた香りを加えます。その後に、具材や水分を入れてパウダーのスパイス類を投入します。このスパイスは、炒めた玉ねぎ、具材、油、水分と混ざり合い、味に深みをつけてとろみもつける役割をしてくれます。
最後に仕上げでガラムマサラというミックススパイスを入れるのですが、これは華やかな香りをつけるためです。また、テンパリングといって小さなフライパンで少量の油とスパイスを熱し、ジュワッと料理に入れて、スパイスのフレッシュな香りを投入することもあります。
インドカレーは、異なるタイミグでスパイスを何回も投入することで、香りの層を作り、立体的なおいしさを作っているのです。
スパイスで異国風に
世界各地の料理には、その地域らしい料理のもとになるようなスパイスが存在します。ということは、それを使えば現地っぽい料理になるということです。スパイスを使えば、自宅にいながら異国に行った気分にもなれます。
ただ肉を焼いただけでも、スパイスを使えばインド風になったり、イタリア風やエスニック風になります。ちょっと食卓に新鮮さが感じられますね。その例をいくつかご紹介します。
クミンでインドの香りを作る
インド風の煮込み料理(カレーなど)や野菜炒めの最初にクミンを入れるとインドっぽくなります。クミンシードを油の中に入れると、小さく弾けて香ばしい香りが立ち上がりますので、これが香りの土台になります。更に、料理の最後にガラムマサラ(粉)を一振りすれば、ますますインドっぽくなります。カレー粉でもかまいません。
カボチャのサブジ(インド風蒸し煮)
オレガノでイタリアンに
イタリアというとバジルというイメージですが、実はバジルよりもイタリアっぽくしてくれるのがオレガノです。オレガノはトマトやチーズを使った料理に合う万能スパイスだからです。トマトと一緒に煮込む時に入れたり、仕上げにふりかけたりします。
バジルは華やかな香りが特徴なので、仕上げ向きです。さらに、オリーブオイルとニンニクが加われば、イタリアンにぐっと寄せられます。
カボチャのサブジ(インド風蒸し煮)
レモングラスで東南アジアっぽくする
エスニック料理というと、パクチーを思い出すかもしれませんが、パクチーは好き嫌いがあります。そこで私がお勧めするのはレモングラスです。レモングラスは爽やかなレモンの香りで、タイ料理、ベトナム料理、インドネシアやマレーシア料理など東南アジア各国で使われています。日本では乾燥品と生のものが売っています。乾燥品は葉の部分を折って煮込み料理やスープに入れると、エスニック風になります。例えば、チキンスープにレモングラスを加えて煮ると、ベトナム料理のフォーのスープの味に近づきます。レモングラスを粉末にして塩を混ぜたレモングラスソルトを天ぷらに振りかければ、エスニック風の爽やかな揚げ物になります。
レモングラス(生)
メキシカンサルサでメキシコ風に
メキシコ料理の万能ソースはメキシカンサルサです。焼いた肉や魚や揚げ物にこれを添えただけで、メキシコ風になります。サルサは刻んだ生のトマト、タマネギとレモン汁(ライム汁)にスパイスを加えたものです。入れるスパイスは、辛みをつけるチリパウダーと、香りづけのクミン、コリアンダー、オレガノなどです。スパイスの名前を聞くと、インドとイタリアンとアジアが混ざっているような気がすると思います。
実はメキシコ料理は、マヤ族などの先住民の文化とスペイン植民地時代に持ち込まれた欧州やアジアの食文化の影響を受けています。先住民のスパイス(唐辛子)と、海外から持ち込まれたスパイスが融合して生まれた独自の風味なのです。
メキシカンサルサ
生のコリアンダーとオレガノ、クミンが入っている
スパイスは料理に個性を与える
スパイスは、料理の個性を引き立たせて、料理の完成度を高めてくれます。ひと振りでも料理の景色を変えてくれる魔法のような力をもっています。いつもの台所で、ちょっと試しに使ってみるだけで、食卓はぐっと豊かになるでしょう小さな変化を楽しんでいただけたら幸いです。
この記事の執筆者
有限会社コートヤード
代表取締役 新田美砂子
農産物プロデューサー・フードデザイナー
MBA(経営管理修士)、NPO法人野菜と文化のフォーラム理事
「今ある資源を活かす」「もったいないをなくす」「健康的に食べる」をモットーにして、様々な形で農と食を繋いでいる。商品・メニュー開発、地域食材・農産物のマーケティング、地域活性化などを多数手がけてきた。
日本野菜ソムリエ協会講師、城西国際大学では食の知識と体験学習を織り交ぜた「環境と食文化」の講義を5年間担当。近年は様々な現場に携わってきた経験を活かし、食や農に対する「なぜ?」をわかりやすくフラットに伝えている。

