肺がんステージ4

肺がんステージ4

2022年12月、夫が肺がんステージ4Bと告げられました。医師から「手術はできません。治療の中心は抗がん治療になります。」と説明を受けた瞬間、頭の中が真っ白になりました。

けれど、現実は待ってくれません。家族は、深い悲しみの中でも、その日から「何を選び、どう支えるか」を考えなければなりません。身の回りのご親族や大切な人が、がん告知を受けたとき、まず必要なのは、気丈にふるまうことではなく、情報を整理することかも知れません。

そして、本人が何を望んでいるのかを、急がず丁寧に確かめることです。

告知直後の準備

がん告知の直後は、家族も本人も強い衝撃を受けます。ですから、最初にしてほしいのは、医師の説明を一度で理解しようとしすぎないことです。

病名、病期、転移の場所、治療の目的、使う薬、副作用、今後の見通し、緊急時の連絡先。

この六つか七つだけでも紙に書き出して持ち帰ると、次の一歩が見えやすくなります。

できれば家族が一緒に診察室に入り、説明をメモし、分からない言葉はその場で遠慮なく確認することが大切です。あとで調べようと思っても、混乱している時期には正確に思い出せないからです。

治療の基本的な考え方

肺がんのステージ4は、一般に遠くの臓器への転移がある状態です。手術で取り切ることが難しく、治療の中心は薬物療法になります。

ただし、ここで大切なのは、ステージ4だから何もできない、ということではないという点です。近年は、がんの性質を詳しく調べ、遺伝子変異の有無や免疫の反応を見ながら、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬などを選ぶ時代になっています。

つまり「同じ肺がんステージ4」でも、治療の組み立て方は人によって異なります。治療の目的も、完治だけではなく、がんの進行を抑え、苦痛を軽くし、生活を保つことに置かれることがあります。

私の夫も、手術はできず、抗がん治療を受けました。最初に家族が戸惑ったのは、「治療をすること」と「治ること」が必ずしも同じではないという現実でした。

治療には、がんを小さくする、進行を遅らせる、息苦しさや痛みを和らげる、食事や睡眠を保つ、といった大切な意味があります。

だからこそ、家族は結果だけを追い続けるのではなく、今日息がしやすいか、眠れているか、食べられているか、笑える時間があるか、そうした日々の小さな指標を一緒に見ていく必要があります。

数字や画像だけでは測れない支えが、闘病生活には確かにあります。

副作用と緩和ケアへの対応

抗がん治療というと、多くの方が強い副作用を思い浮かべるかもしれません。実際に、吐き気、倦怠感、食欲低下、味覚の変化、しびれ、脱毛、口内炎、発熱、白血球減少など、体への負担は決して小さくありません。

肺がんでは息苦しさや咳、痰、胸の痛みが重なることもあります。治療が始まると、本人は「治したい」と「つらい」の間で揺れ、家族も「頑張ってほしい」と「休ませてあげたい」の間で揺れます。

このとき大切なのは、励ますことより観察することです。水分が取れているか、熱はないか、呼吸がいつもより苦しくないか、夜眠れているか。遠慮して我慢してしまう患者さんほど、家族のさりげない気づきが助けになります。

そして、緩和ケアは終末期だけのものではありません。診断されたときから受けてよい支援です。

痛み、息苦しさ、不安、不眠、便秘、食欲不振、気持ちの落ち込みなどを和らげることは、治療をあきらめることではなく、治療を続ける力を守ることでもあります。私たちも、もっと早く緩和ケアの力を借りればよかったと思いました。

がんと向き合う時間は、病気そのものとの闘いであると同時に、苦痛を一つずつ減らしていく時間でもあるのです。

治療費と公的制度の整理

公的医療制度の基本(高額療養費制度など)

お金のことも、避けて通れません。がん治療は長く続くことがあります。

外来の点滴、検査、画像診断、入院、薬代、通院交通費、付き添いの食事代、場合によってはウィッグや介護用品など、思った以上に出費が重なります。

ただ、日本には高額療養費制度があります。公的医療保険が適用される治療であれば、ひと月の自己負担には所得に応じた上限があります。

たとえば70歳未満で年収約370万円から約770万円の方なら、一般的な区分では自己負担限度額は「8万100円+(総医療費―26万7千円)×1%」が目安です。医療費が高額になっても、青天井で払い続けるわけではありません。

〈自己負担限度額の計算式〉
8万100円+(総医療費―26万7千円)×1%

まずは加入している健康保険に確認し、限度額の扱いを早めに把握することが大切です。

ただし、注意点もあります。差額ベッド代、入院時の食事代、先進医療の一部、通院交通費、家族の付き添いにかかる費用などは、高額療養費制度の対象外になることがあります。

また、治療が長引くと、収入が減る問題も出てきます。会社員や公務員など健康保険の被保険者であれば、条件を満たすと傷病手当金を受けられる場合があります。連続する3日間を含み4日以上仕事を休み、給与が十分に出ないときは、標準報酬日額のおおむね3分の2相当が支給され、期間は通算で1年6カ月です。

治療費だけでなく、生活費の見通しまで含めて考えることが、家族を守ることにつながります。

相談窓口と家族の支え

さらに、がん相談支援センターの存在を知っておくと安心です。本人や家族は無料で相談でき、治療内容そのものだけでなく、仕事、お金、療養先、心の不安まで幅広く相談できます。

主治医には聞きにくいことや、家族だけで抱え込んでいる悩みを整理する場として、とても心強い存在です。家族は支える側と思われがちですが、家族にも支えが必要です。抱え込まないことは、弱さではなく、長く寄り添うための知恵だと思います。

治療中の過ごし方と日々の支え

夫が抗がん治療を受けた半年間、私が何度も自分に言い聞かせたのは、「今日を大切にする」ということでした。治療の結果に一喜一憂しながらも、食べられた日、少し笑えた日、穏やかに眠れた日を、私たちは確かに積み重ねました。やがて別れの日は来ましたが、あの時間が苦しみだけだったとは思いません。

大切な人ががんになったとき、家族にできることは、魔法のように病気を消すことではありません。正しい情報を集めること、本人の思いを尊重すること、治療と緩和ケアとお金の備えを整えること、そして一日一日を共に生きることです。

がんは家族の日常を大きく変えます。でも、支える方法を知ることで、不安の中にも確かな足場を作ることはできます。お金の心配をしないで済むという観点からいうと、医療保険やがん保険も大変大きな力になります。それが最新型の治療に合致した保険でしたら尚更心強く、ありがたいものです。

告知直後の実務整理

告知のその日から、家族の支えはもう始まっています。具体的に、告知を受けた家族が最初の一週間でしておくとよいことを挙げるなら、

第一に、病理結果や画像所見を含めた説明内容を一枚に整理すること。

第二に、次回受診で聞く質問を箇条書きにすること。

第三に、保険証、診察券、お薬手帳、保険会社の証券、勤務先の就業規則をまとめること。

第四に、本人が「何を一番大切にしたいか」を言葉にしてもらうことです。

延命を最優先にしたいのか、自宅で過ごす時間を大切にしたいのか、副作用が強い治療は避けたいのか。正解は一つではありません。けれど、その人らしい選択の軸が見えると、家族の迷いは少し減ります。

医師との対話と治療中の注意点

主治医に尋ねてよい質問もあります。。

たとえば、「この治療の目的は何ですか」「効いているかは何で判断しますか」「副作用が出たらどこに連絡すればよいですか」「救急受診の目安は何ですか」「治療を続ける場合とやめる場合で、生活はどう変わりますか」といったことです。

医師に遠慮してしまう方は少なくありませんが、納得して治療を受けるためには、質問することも大切な治療の一部です。説明をスマートフォンにメモし、家に帰ってから家族で確認するだけでも、不安はかなり違います。

また、治療中は感染症にも注意が必要です。

抗がん剤などで白血球が下がると、ふだんなら軽くすむ感染でも重くなることがあります。38度前後の発熱、息苦しさの悪化、水分が取れない、意識がぼんやりする、強い下痢や嘔吐が続く、こうした変化は早めの連絡が必要です。

家族は「様子を見てよい不調」と「すぐ相談すべき不調」の線引きを、最初に医療者と確認しておくと安心です。闘病では、頑張りすぎないことが、結果として命を守ることにもつながります。

経済面の補足と保険の位置づけ

お金の準備としては、医療保険やがん保険に加入している場合、診断給付金や入院給付金、通院給付金、先進医療特約の有無を早めに確認しておくことも大切です。

公的制度だけで足りる部分もありますが、収入減少や雑費への備えとして民間保険が役立つ場面もあります。

一方で、保険だけに頼るのではなく、家計を固定費から見直し、治療が続いても暮らしが回る設計に組み替えることも必要です。大きな病気は、命だけでなく家計の形も変えます。

だからこそ、家族でお金の話を避けず、早めに共有することが支えになります。

振り返りとこれからに向けて

振り返れば、私はもっと人や組織に頼ってもよかったと思います。

家族は、強くあろうとして自分の悲しみを後回しにしがちです。でも、悲しいものは悲しいのです。その気持ちにふたをしたままでは、長い治療を支えきれません。大切な人ががんになったとき、必要なのは完璧な介護者になることではなく、本人のそばで一緒に揺れながらも、その都度、最善を探し続けることなのだと思います。

あの日の私と同じように戸惑っている方へ、どうか伝えたいです。分からないままでも大丈夫です。一つずつ確認し、一つずつ支えればいい。治療にも、暮らしにも、心にも、必ず支える手立てはあります。

そして限られた時間の中でも、言葉にしておいてよかった思いは必ず残ります。ありがとう、ごめんね、助かったよ、そばにいるよ。その一言一言が、治療の記録以上に、残された家族の心を支えてくれるのだと思います。どうか一人で抱え込まず、医療者と制度を味方につけてください。

精神的にも経済的にも支えは、必ず見つかりますので。

この記事の執筆者

独立系ファイナンシャルアドバイザー( IFA)
法政大学大学院( MBA)

田中奈穂美

青山学院大学経営学部卒。IFA(独立系金融アドバイザー)、法政大学大学院MBA、宅地建物取引士、証券外務員1種、銀行融資診断士、相続診断士、投資診断士、ファイナンシャルプランニング技能士 2級。 年間100件を超える法人と個人の財務相談を受ける。 個人は年金・資産運用・ライフプランなどのマネーセミナーを、マネーキャリア、 マネーフォワードで行う。法人は、コスト削減、安定経営に役立つ処々の情報と確定拠出年金をご提供する。 社会保険料削減・節税・生命保険内部留保・投資信託・投資用マンションなど、 幅広い金融知識を持ち、士業チームとともに、クライアントの考え方に寄り添っ たコンサルティングに努める。 プライベートでは2児の母として、中学受験、大学受験を経験。両親の介護と相続、配偶者相続も経験。