「食の楽しみ」 ~油は料理の印象を決める存在~

「食の楽しみ」~油は料理の印象を決める存在~

 塩や砂糖は料理に欠かせない存在ですが、もう一つ大切な調味料があります。それが「油」です。 料理には、常温で液体の「油」と固体の「脂」を使います。植物からとれる油やバターやラードなどの動物性脂肪で、ここではまとめて「油」と呼びます。

 油は、料理そのものの印象を大きく変える力も持っています。塩や砂糖が味の骨格を作るものだとすれば、油は質感と余韻を産み出し、料理の印象を決めるものです。

 油脂は種類によって性格が大きく異なります。さらに、使い方によって役割も大きく変わります。今回は、体に良い油・悪い油という栄養の話ではなく、調理での働きや使い方についてお話ししていきます。

油の働き

 料理の視点から見ると、油は大きく分けて4つの大切な働きをしています。

香りを引き出す

 多くの香り成分は、水よりも油に溶けやすい性質を持っています。ハーブ、スパイス、にんにく、ねぎ、生姜といった香味野菜を油で温めると、香りが油に移り、料理全体に広がります。カレーを作る際に最初にクミンなどのスパイスを油で炒めるのは香りを引き出すためです。水で煮ただけでは生まれないあの香りは、油という媒介があってこそ生まれます。つまり料理の最初に使う油は、料理の土台を作り出し、香りを料理全体へと届ける役目を担っているのです。

コク・満足感を生む

 野菜炒めの油は全体をまとまりやすくして、コクやツヤも出します。茹で上がったパスタを具材と和える際に、少量のゆで汁と一緒にオリーブ油を加えると、ソースが乳化して滑らかにまとまります。

 中華料理の炒め物の最後にごま油を回しかけると、料理にコクが出たり満足感が増すことがあります。シチューなどの煮込み料理やステーキの仕上げにバターをちょっと加えることもありますね。

 これらの油はコクや満足感を生みだし、味の余韻を支えてくれるものです。つまり、油は主張し過ぎずに全体のまとめ役や、料理の奥行きを作る役目をしているのです。

食感を変える・整える

 油は料理の「食感」を大きく左右します。油を使って肉を焼くと、そのまま焼いた時よりもしっとりと仕上がります。野菜炒めは油を野菜にまとわせながら高温加熱するので、中の水分を保ったままシャキっとした状態に仕上がります。これは油は表面をやさしくコーティングして水分の急激な蒸発を防いでいるからなのです。

 天ぷら等の揚げ物は高温の油が一気に水分を外へ追い出すことで、表面の水分は蒸発して固まって衣になり、衣に覆われた内側は蒸された状態になります。ということは、揚げ物とは外側はサクサクという食感に変えて、中はしっとりさせる料理なのです。

 マヨネーズのように油と水分が混ざり合って乳化すると、なめらかな口当たりを生み出すことがあります。

 ご飯を炊く時に油を入れることがあります。油を少量加えると、米粒の表面が軽くコーティングされて、粘りすぎず、つやが出る効果があるので、食感を整えてくれます。コンビニのおにぎりなどには油が入っていることもあります。

このように同じ材料でも、油が加わることで食感は驚くほど変わるのです。油は味だけでなく、口に入れた瞬間の印象まで設計しているのです。

温度の伝わり方を変える

 油は水よりも高い温度まで上がるため、高温で加熱することができます。そのため食材に香ばしい焼き色をつけやすくしたり、揚げ物をカリッと仕上げたりすることができます。

 また油は食材の表面を包み込み、熱を均一に伝える働きがあります。フライパンに油をひいて焼くと表面がきれいに色づくのは、油が食材と鍋の間を満たし、むらなく熱を伝えているからです。

 同じ素材でも「蒸す」・「茹でる」・「煮る」よりも、油を使う「焼く」・「揚げる」調理法を使うと高温調理になるので見た目や味わいが大きく変わるのは、油が熱の伝わり方の影響が大きいからなのです。

油の種類とその特徴

 油にはいろいろな種類があります。ここでは栄養学的な分類ではなく、香りの強さや使い勝手の違いで分類します。

香り弱く、素材を邪魔しない油・・・サラダ油、こめ油、太白ごま油など

特徴

香りや味が控えめで、食材そのものの味や香りを邪魔しない油です。炒め物や揚げ物など幅広い料理に使える万能の油で、特に素材の味をそのまま生かしたいときに向いています。
クセが少ないため、日常の調理の基本となる油
です。

太白ごま油

香りが穏やかにある油・・・オリーブ油、なたね油など

特徴

やわらかな香りや風味があり、料理に軽く個性を加える油です。香りがほどほどで強すぎないため、和洋中問わず意外と使いやすい油です。

ただしオリーブ油は、オリーブの種類やノッベロといって搾りたての新物は香りや味が強い場合があるので注意が必要です。

長芋のゆかり和え オリーブオイルがけ

香りが強く主張が強い油・・・ごま油、バター、ラード、ココナッツ油など

特徴

香りや風味がはっきりしていて少量加えるだけで料理の印象を大きく変えます。

料理の最初だけでなく、炒め物の香り付けや料理の仕上げに使われることも多く、料理の個性やコクを強く引き出す油です。使い方によって料理のジャンルや特徴をはっきりさせることができます。

油の使い分け~加熱向き・非加熱向き~

 油は火との相性によって向き不向きがあります。油は加熱されて煙を出し始める温度(煙点)があるのですが、煙点が高い油ほど高温調理に向き、低い油は低温調理や非加熱向きで香りを生かす使い方に向きます。それを基にして3つに分類できます。

強い加熱に向く油(揚げ物・強火の炒め物向き)

 米油、太白ごま油、ラードは高温でも安定しやすく、香りの変化が少ない油です。天ぷらや唐揚げ、強火の野菜炒めなど、しっかりと温度を上げる料理に向いています。こうした油はクセが少ないため素材の味を邪魔せずに、料理を比較的軽く仕上げてくれますし、使いやすい油です。

 普通のごま油も加熱に強い油ですが、香りが強いのが特徴です。天ぷら専門店は香りが弱い太白ごま油を使うことが多いのですが、江戸前の天ぷら屋はごま油で揚げる所もあります。ごま油で揚げた天ぷらには独特なコクや風味があります。

中温向きの油(焼き物・ソテー向き)

なたね油、オリーブ油などは、焼き魚や肉のソテー、卵料理などに向いています。ほどよく香りや風味があり、焼き色や香ばしさを引き立てながら、料理全体をまとめます。主張しすぎないので、日常の調理に使いやすい油といえるでしょう。

非加熱向きの油(非加熱で香りを楽しむ)

 エクストラバージンオリーブ油、えごま油などは、香りや風味が特徴なので、仕上げに向いている油です。熱を加えすぎると香りが弱まることがあるため、非加熱の料理や、料理の最後に加えることで油本来の風味が生きます。サラダドレッシングに使ったり、ナムルなどの和え物に使います。冷や奴やスープに少量たらすといった使い方がお勧めです。
ごま油は加熱に向きますが、香りを楽しむため、料理の最後に加えることもよくあります。

オールマイティな油(加熱・非加熱で使える)

 サラダ油は高温・低温でも、加熱・非加熱のどんな料理にでも広く使うことができるので、万能で日常的に使いやすい油です。

油の使い方のちょっとした工夫

 それぞれの油の特徴や適性がわかると、素材を変えなくても、油の使い方でいつもの料理をグレードアップすることが出来ます。

いつもと違う油と異なる種類のものを使ってみる

同じ料理でも油を変えるだけで風味が変わります。例えば野菜炒めを、サラダ油からオリーブ油に変えたら少し洋風な雰囲気になります。焼き菓子では、バターの代わりに太白ごま油を使う方法があります。太白ごま油は香りが穏やかで軽い仕上がりになるため、ケーキやマフィンなどがバターよりもふんわりとした食感になります。

ちょっと最後に油を足す

 料理の仕上げに少量の油を加えると、香りやコクがぐっと引き立ちます。例えば、スープや味噌汁にごま油やオリーブ油をひとたらしすると、香りが立ち、いつもの料理でも少し特別な味わいになります。

複数の油を混ぜて使う

油を組み合わせると、それぞれの良さを生かすことができます。例えば、オリーブ油に少量のバターを加えて魚や肉をソテーすると、オリーブ油の軽さとバターのコクの両方が生きて香り良く仕上がります。

 また筑前煮を作る時、サラダ油に少量のごま油を混ぜて使うと、サラダ油の軽さを保ちながらごま油の香ばしい香りをほんのりと加えることができて、コクがでます。

茄子とピーマンのたらこバター炒め

油は料理の印象の決め手

 油には地域性があり、その土地の食文化を映し出します。土地ごとに手に入りやすい原料が違うため、料理に使われる油も変わります。例えば地中海沿岸ではオリーブ油、アラスカなどの北極圏ではアザラシの油や魚の油が使われてきました。

 中国でも地域によっても使う油が異なります。私が以前訪れた山東省では炒めものにピーナッツ油が使われていました。シンプルな青菜炒めも、いつもの味とは違うコクがあり印象に残っています。中国では、なたね油や大豆油などを使う地域もあります。

油は味わいや個性を静かに支えて料理の印象を決める大切な存在です。まずはキッチンにどのような油があるのか、あらためて見直してみてはいかがでしょうか。そこから新しい食の楽しみが生まれるかもしれません。

この記事の執筆者

有限会社コートヤード
代表取締役
新田美砂子

農産物プロデューサー・フードデザイナー
MBA(経営管理修士)、NPO法人野菜と文化のフォーラム理事

「今ある資源を活かす」「もったいないをなくす」「健康的に食べる」をモットーにして、様々な形で農と食を繋いでいる。商品・メニュー開発、地域食材・農産物のマーケティング、地域活性化などを多数手がけてきた。
日本野菜ソムリエ協会講師、城西国際大学では食の知識と体験学習を織り交ぜた「環境と食文化」の講義を5年間担当。近年は様々な現場に携わってきた経験を活かし、食や農に対する「なぜ?」をわかりやすくフラットに伝えている。