イラン戦争と今後の私たちの生活

イラン戦争と今後の私たちの生活

イラン情勢が日本の生活に与える影響

イランをめぐる戦争が長引くと、日本人の生活はまず「じわじわ苦しくなる」形で変わりやすくなります。

日本は原油の約95%を中東に依存し、その多くがホルムズ海峡を通ります。足元では中東情勢の悪化で原油価格が急騰し、日本政府は備蓄放出やガソリン価格抑制策を急いでいますが、備蓄は“時間を買う手段”であって、価格上昇そのものを消せるわけではありません。

つまり、日本は突然ガソリンがなくなるというより、燃料・電気・物流・食品の順にコスト高が家計へ広がる可能性が高いのです。

燃料・電気・ガス代はどうなるか

最初に影響が出やすいのは、ガソリン代、灯油代、電気代、ガス代です。原油が上がると、車に入れる燃料だけでなく、発電や輸送の費用も上がります。トラック輸送や船便のコストが上がれば、食料品、日用品、外食、ネット通販の送料までじわじわ値上がりしやすくなります。

特に日本は輸入品が多いため、原油高は家計のあらゆる場面に入り込みます。スーパーでは食用油、冷凍食品、パン、乳製品、加工食品が上がりやすく、生活者の実感としては「一つひとつは小さいが、合計するとかなり重い」という形になりやすいでしょう。

家計の現場で起こりやすい変化を、順番に考えてみます。まず車を使う家庭は、通勤と買い物の両方で燃料代の負担が増えます。地方では車が生活必需品なので、この打撃は大きくなりがちです。次に、電気・ガス代が上がると、冷暖房を我慢する家庭が増え、体調や生活の質にも影響します。

さらに企業の配送費や包装資材費が上がると、店頭価格や宅配料金にも波及します。すると、特売日にまとめ買いをしても「以前ほど安く感じない」という状態になります。家計簿で見れば、自由に使えるお金ではなく、暮らすために必ず出ていくお金が増えるので、心理的な圧迫感が強くなります。

次に重くなるのが企業のコストです。工場は電力や燃料が必要ですし、店舗も配送も空調も値上がりします。企業は最初は自社で吸収しようとしても、長引けば販売価格に転嫁せざるを得ません。その結果、家計は値上げに追いつかず、実質賃金が目減りしやすくなります。

実際、ロイターは原油高が続くと日本の実質賃金の回復を鈍らせる可能性を報じています。給料が少し上がっても、電気代や食費や交通費がそれ以上に上がれば、暮らしは楽になりません。節約しているのにお金が残らない、という感覚が広がりやすい局面です。

食料品や加工食品への影響

食品への影響も見逃せません。農業や漁業、食品工場、冷蔵輸送、店舗の冷ケース運転まで、実はエネルギーをかなり使っています。輸入小麦や飼料、肥料、容器、包装材のコストも上がりやすいため、パン、麺類、卵、肉、乳製品、加工食品などに連鎖しやすくなります。

外食産業も仕入れ、人件費、光熱費が上がるため、値上げか内容量の調整に動きやすくなります。今後起こりやすいのは、派手な物不足よりも、「同じ値段でも量が減る」「安売りの回数が減る」「外食が少しずつ高くなる」という、静かな生活コスト上昇です。

為替と金利はどう動くか

為替はどうなるか

為替は少し複雑です。普通、世界が不安定になると円は「安全資産」として買われやすい面があります。実際、戦闘激化直後には円高方向に振れやすい局面もあります。ただ今回は、日本がエネルギーをほぼ輸入に頼る国であることが大きな弱点です。原油高になるほど日本は輸入代金の支払いが増え、貿易収支が悪化しやすくなります。

さらに、米国の金利が日本より高い状況では、投資資金がドルに向かいやすく、円は上がりにくくなります。つまり短期的には有事の円買いがあっても、中期的には「資源高で円安圧力」が勝ちやすい構図です。円高と円安が交互に来る荒い値動きになりやすく、家計としては“読みにくい相場”になると考えた方が安全です。

円安・円高と暮らし

円安になると何が困るのかというと、輸入品の値段がさらに上がることです。原油そのものが高くなり、さらに円の価値が下がれば、二重に効いてきます。

例えば海外から買う燃料、食料、原材料、医療関連資材、機械部品などの円換算コストが上がります。企業はその分を価格に乗せやすくなり、家計の負担が増えます。反対に、円高が一時的に進んでも、それだけで安心はできません。

戦争のニュース一つで相場が大きく動くと、企業は値付けを慎重にし、先行き不安から投資や採用を抑えることがあるからです。為替が荒れる時期は、円高でも円安でも、生活者にとっては落ち着かない時期になりやすいのです。

金利とローンは早めの点検を

金利も一方向ではありません。日本銀行は2025年12月に政策金利を0.75%程度へ引き上げており、物価と賃金の動きを見ながら追加利上げの可能性を探っています。

一方で、戦争が長引けば景気を冷やす恐れもあるため、日銀は「物価上昇を抑えるために金利を上げたい気持ち」と「景気悪化を避けたい気持ち」の両方を抱えることになります。そのため、短期金利は緩やかな上昇圧力が残っても、景気不安が強まれば長期金利は乱高下しやすくなります。住宅ローンでは変動金利がすぐ急騰するとは限りませんが、今後数年単位ではじわじわ返済負担が増える可能性を見ておく必要があります。

預金者にとっては、金利上昇は悪いことばかりではありません。普通預金や定期預金の利息は以前より少し改善しやすくなります。ただし、物価上昇の方が大きければ、実質的にはお金の価値が目減りします。借り手にとっては逆で、ローン負担が重くなりやすい一方、インフレで現金の実質価値が下がる面もあります。

つまり、これからは「借りて運用すれば得」という単純な時代ではなく、金利・物価・収入の三つを同時に見ないと危険です。特に教育費や住宅費が重なる世帯は、少しの金利上昇でも家計に効くため、早めの点検が大切です。

今、考えておきたい生活防衛策

では、生活防衛はどう考えるべきでしょうか。

第一に、家計の固定費を先に軽くすることです。食費の節約ばかり頑張るより、通信費、保険料、サブスク、車の維持費、住宅ローンの条件を点検した方が効果は大きく、しかも継続します。

第二に、生活防衛資金を厚めに持つことです。目安は生活費の6カ月分、個人事業主や歩合給が大きい方は1年分あると安心感が違います。

第三に、エネルギー高に弱い家計構造を見直すことです。車の使い方、電力会社プラン、断熱、給湯、移動回数の工夫だけでも毎月の流出は変わります。

第四に、借入金利の上昇に備えることです。住宅ローンが変動型なら、金利が1%上がっても返済できるかを試算し、家計に無理があるなら繰上返済、固定化、一部現金待機を検討します。

第五に、資産運用は「増やす」より「守りながら続ける」を優先することです。戦争局面では一時的に株価が下がることがありますが、慌てて全部売ると、その後の回復を取り逃しやすくなります。積立投資は生活防衛資金を確保したうえで継続し、余裕資金の範囲を守ることが大切です。

第六に、外貨や金を持つなら「資産の分散」として考えることです。円だけに偏りすぎると不安はありますが、焦って一括で外貨に寄せ過ぎるのも危険です。

具体策としては、まず家計簿を「変動費」より「固定費」と「エネルギー関連費」に分けて見直すことです。次に、生活口座とは別に防衛資金口座をつくり、自動積立で現金を厚くします。食料品は値上がり前提で、安い日に大量に買うより、使い切れる分だけ回転良く買う方が無駄を抑えられます。

車は急発進を避ける、不要な短距離移動をまとめる、タイヤ空気圧を保つだけでも燃費は変わります。高齢のご家族がいるご家庭では、灯油や電気を無理に削りすぎず、健康維持費として考える視点も大切です。節約で体調を崩すと、かえって医療費が増えるからです。

もう一つ見ておきたいのが、仕事への影響です。エネルギー高と物価高が続くと、体力の弱い企業ほど利益が圧迫されます。価格転嫁できる会社とできない会社の差が出やすくなります。同じ日本の中でも家計の感じ方に温度差が生まれます。ボーナスや残業代が減れば、表面上の物価以上に暮らしは厳しく感じます。自営業や歩合給の方は、売上が少し落ちるだけで資金繰りに影響しやすいため、平時より早めに手を打つことが大切です。

これからの暮らしで大切なこと

最後に大切なのは、「悲観しすぎないが、楽観しすぎない」ことです。日本には備蓄があり、政府も急激な価格上昇を和らげる対策を取り始めています。しかし、原油高と円安が重なると、家計は確実に圧迫されます。これから起こりやすいのは、ぜいたく品が買えなくなるというより、毎月の必要経費が静かに上がり、手取りの余裕が削られていくことです。

だからこそ今は、収入を増やす努力と同じくらい、支出を整え、借入を点検し、資産配分を無理なく整えることが生活防衛になります。

戦争は私たちの日常から遠く見えても、家計簿には必ず近い形で表れます。守るべきは、派手な資産運用成績ではなく、暮らしの継続力です。すぐに全部を変える必要はありませんが、固定費の見直し、ローン点検、積立の継続、この3つだけでも家計の耐久力はかなり変わります。

値上げの波は一気ではなく何度も来やすいので、一度の対策で終わりにしないことも重要です。月一回点検を。

この記事の執筆者

独立系ファイナンシャルアドバイザー( IFA)
法政大学大学院( MBA)

田中奈穂美

青山学院大学経営学部卒。IFA(独立系金融アドバイザー)、法政大学大学院MBA、宅地建物取引士、証券外務員1種、銀行融資診断士、相続診断士、投資診断士、ファイナンシャルプランニング技能士 2級。 年間100件を超える法人と個人の財務相談を受ける。 個人は年金・資産運用・ライフプランなどのマネーセミナーを、マネーキャリア、 マネーフォワードで行う。法人は、コスト削減、安定経営に役立つ処々の情報と確定拠出年金をご提供する。 社会保険料削減・節税・生命保険内部留保・投資信託・投資用マンションなど、 幅広い金融知識を持ち、士業チームとともに、クライアントの考え方に寄り添っ たコンサルティングに努める。 プライベートでは2児の母として、中学受験、大学受験を経験。両親の介護と相続、配偶者相続も経験。

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