「食の楽しみ」~冷凍食品を上手に活用する~
冷凍食品を上手く活用して食卓を豊かに
最近、スーパーマーケットやコンビニの冷凍食品コーナーが拡充していると感じたことはありませんか? 日本冷凍食品協会が今年発表した2024年度の冷凍食品の消費量は前年と比較して1.5%増となっていて、業務用・家庭用とも、ここのところ堅調に毎年増加しています。冷凍食品はこれからますます私達の食生活に浸透していくでしょう。
「ぜひ冷凍食品についてちょっと知識を深めて、上手く活用していただき、豊かな食生活の一助にしていただけたらと思います。
なぜ冷凍食品の需要が増加しているのか?
冷凍食品の需要が拡大している背景には、まず技術の革新的な進歩があります。急速冷凍機により「冷凍なのに作りたてに近いおいしさ」を提供できるようになりました。更に装置のコンパクト化や安価傾向が需要拡大に拍車をかけています。
冷凍食品は、安定した品質のものを安定した価格で手軽に使えるのが大きなメリットです。気候変動などの影響による生鮮食品の高騰や、価格変動の激しさを冷凍食品で回避できます。
外食や中食(総菜・弁当)業界では人手不足問題が深刻ですので、手間や時間のかかる工程を省いて冷凍食品へ代替する動きが顕著です。また冷凍食品を使うことで必要な時に必要な分だけ使えるので、フードロス問題も解決できます。
家庭用冷凍食品は、野菜、魚介類、肉などの素材を冷凍したものや、炒飯、餃子、パスタ、スイーツなど調理後に冷凍したものがありますが、どちらも時短や簡便化のニーズに支えられて伸びています。さらに、個食パック、レンジ対応容器等の進化もあり、バラエティに富んだ冷凍食品がラインナップされています。冷凍食品売り場を見てみると、「こんなものまで冷凍であるんだ!」と驚くでしょう。
冷凍食品はどこで作られているのか?
皆さんの記憶にもあるかもしれませんが、2008年に中国産冷凍餃子の農薬混入事件がありました。この報道が大きく取り上げられたことで、「海外産冷凍野菜はちょっと怖い」というイメージが広がりました。その事件を契機に、国内での輸入検査体制が強化され、製造メーカーや輸入業者は製造工程を可視化して食品の安全性を高めてきましたので、現在では安全管理が大幅に強化されています。
現在、素材系冷凍食品は輸入が多く、冷凍野菜などは約7割が中国、ベトナム、タイなどからの輸入に依存しています。一方で、主食や総菜などの多くの調理済み食品(炒飯、餃子、パスタ等)は国内生産が中心です。
どこで作られている商品なのか気になる場合は、冷凍食品のパッケージには必ず原産国や原材料が表示されているので、確認しながら自分にあった選び方をしてください。
冷凍食品の保存期間
冷凍食品の賞味期限は製造会社が設定していますが、家庭用冷凍庫はどうしても開閉などで温度変化があるので、品質維持が難しくなります。ですから、だいたい2~3か月を目安にして下さい。開封後はさらに短く数週間以内に食べることをお勧めします。
「冷凍焼け」といって、食品が冷凍保存中に空気に触れて水分が抜け、表面が白く乾いた状態になり品質が劣化します。そうなると風味や食感が損なわれ、パサついたり硬く感じられます。
冷凍焼けを防ぐには、空気に触れるのを最小限に抑えることが最も重要ですので、ラップやチャック付き袋などで密閉してできるだけ早く食べきることを心がけて下さい。
冷凍食品の栄養価
素材系冷凍食品(野菜、魚、肉など)の栄養価は、冷凍することによって素材の劣化が防げるので栄養価の損失は最小限に抑えられます。
また、市販の冷凍ほうれん草などの冷凍野菜は、旬の時期に収穫して急速冷凍して商品にしています。野菜は旬の時期のものが最も栄養価が高いので、旬をはずれた時期に流通される生野菜よりも栄養価が総合的に高いという実証データもあります。
肉や魚などの冷凍品のタンパク質、脂質などの栄養素は冷凍による変化は少ないのですが、解凍方法よって栄養損失が増えることもあります。特にビタミンCなどは加熱に弱いので、短時間加熱や凍ったまま調理すると良いでしょう。
調理済み冷凍食品は、どんな栄養が摂れるかよりも、カロリーや、塩分・脂質、食品添加物などに注意が必要です。
ホームフリージング
家庭でも、作り置きや余った食材を冷凍保存する「ホームフリージング」は便利な方法で近年人気になっています。まとめ買いをしたり、忙しい日々の中で手早く調理したいときなど、強い味方です。
市販品の冷凍食品は「急速冷凍」と呼ばれる方法で、短時間に食品の中心まで一気に凍らせます。ですから氷の結晶が小さいため、解凍後も細胞が壊れにくく、食感や風味が保たれます。
これに対して家庭用冷凍庫はパワーが弱く、時間をかけて凍らせる「緩慢冷凍」です。給食冷凍と比較して氷の結晶が大きくなり、解凍すると水分が出てパサついたり、風味が落ちたりすることがあります。つまり、市販の冷凍食品とホームフリージングした食品では、冷凍状態が異なるのです。
家庭での冷凍保存では、粗熱をしっかり取ってから密封容器やラップで空気を遮断すること、なるべく薄く平らにして早く凍らせることがポイントです。
そして保存期間は長くても1か月程度を目安にして、毎日の食事に役立て下さい。
ホームフリージングの落とし穴
最近では、家庭用冷凍冷蔵庫の急速冷凍技術や冷凍庫性能の向上により、生のまま冷凍してもかなり品質が保ちやすくなったので、生のまま冷凍する風潮が広がっています。
しかし、「何でも生でそのまま冷凍できる」という風潮には少し注意が必要です。というのも、冷凍できることと、美味しく食べられることは必ずしも同じではないからです。
市販の冷凍野菜は、ブランチングといって、短時間加熱をして酵素の働きを失活させることによって色、風味、栄養価の劣化などを防ぐ工夫をしてから急速冷凍をしています。
家庭の冷凍庫で生野菜を切って冷凍すれば、酵素を失活させていない分、味や風味の劣化などが起きやすくなります。更に緩慢冷凍なので、解凍時に細胞が破壊されやすく、ドリップが出たりして食感も変わりやすくなります。ということは冷凍できても、おいしさや風味がどの程度保たれているかは微妙なのです。もちろん、そのまま煮てしまうなどあまり食感や風味が気にならない調理法ならば問題ありません。
もしもご家庭で風味や食感を保ちたいならば、ブランチングの代わりとして、さっと茹でたり、電子レンジで加熱(ラップをして少量ずつ)をするなどをしてから冷凍するのもお勧めです。
解凍方法も重要
せっかくの素材も解凍方法を誤ると、味わいを十分に楽しめなくなってしまいます。解凍方法はとても重要なのです。特に魚介類や魚はドリップがでて旨みが流れ出てしまうと美味しさが半減してしまいます。
解凍方法には流水解凍、冷蔵庫解凍、電子レンジ解凍、調理しながら解凍(凍ったまま調理)などがあります。時間がある時はじっくり解凍する冷蔵庫解凍、急ぐ時には流水解凍、少量やすぐに調理したい時は電子レンジや半解凍で凍ったまま調理するなど使い分けが必要です。
お刺身用マグロなど冷凍魚介で生食用のものは、冷蔵庫で半日ぐらいかけて自然解凍すると、温度が急激に変化しないので、ドリップが出にくくなり身が締まったまま保てます。
お刺身は解凍が肝
冷凍食品を更に美味しく食べるコツ
冷凍食品は今後もますます増加して、私達の食生活の中で比重が大きくなっていくでしょう。もしかしたら、冷凍食品と電子レンジさえ合えば、ほとんど何でも食べられてしまいます。しかし、冷凍食品をより美味しく食べる工夫も忘れずにいたいものです。
そこでお勧めなのが「ちょい足し」です。例えば冷凍パスタなどに、ちょっと生のパセリなどのハーブを加えるとか、冷凍うどんにネギを刻んで乗せる、冷凍炒め物にほんの一滴ごま油やラー油をかける、魚のグリル、唐揚げ、野菜のソテーに生のレモン汁をかける等のちょい足しで、風味が良くなり料理がグレードアップします。
冷凍食品は、冷凍と解凍にそれぞれコツがあることがお判りいただけたでしょうか。冷凍食品を、自分のライフスタイルにあわせて上手に食生活に取り込んで、美味しく楽しい食事の時間を増やしていっていただけたらと願っております。
この記事の執筆者
有限会社コートヤード
代表取締役 新田美砂子
農産物プロデューサー・フードデザイナー
MBA(経営管理修士)、NPO法人野菜と文化のフォーラム理事
「今ある資源を活かす」「もったいないをなくす」「健康的に食べる」をモットーにして、様々な形で農と食を繋いでいる。商品・メニュー開発、地域食材・農産物のマーケティング、地域活性化などを多数手がけてきた。
日本野菜ソムリエ協会講師、城西国際大学では食の知識と体験学習を織り交ぜた「環境と食文化」の講義を5年間担当。近年は様々な現場に携わってきた経験を活かし、食や農に対する「なぜ?」をわかりやすくフラットに伝えている。

