薬不足・供給不安の原因は?
薬不足・供給不安の原因は?
医療用医薬品の供給不足の発端となったのは、2020年12月に発覚した、後発医薬品のメーカーの品質不正問題です。
複数の後発医薬品メーカーで製造工程違反などの不正が発覚し、業務停止や出荷停止が相次ぎました。
その他に、
- 国際的な影響
世界的な物流の問題や、海外からの輸入依存が高い薬品では、海外での供給問題が日本市場に直接影響を与えます。 - 需要の急増
新型コロナや季節性の病気(インフルエンザなど)により、特定の薬剤の一時的な需要増加が供給不足を引き起こします。 - 規制強化や品質問題
ジェネリック医薬品の品質不正問題や、新たな規制強化によって生産が一時停止され、品質問題により出荷が遅れることもあります。
これらの要因が複合的に作用し、医薬品の供給不足が長期化しています。
2025年3月の調査では、供給停止薬剤数は714品目、限定出荷の品目数は1646品目となっています。(厚生労働省 医療用医薬品の供給にかかる調査結果より引用)
調剤薬局では、薬を発注すると、翌日には納品されていましたが、2020年以降、注文しても納品がいつになるかわからない状況が続いています。
また、納品個数に関しても、月の使用数量が1,000錠だとしても毎週100錠づつしか納品されず、あとは代替品に変更しなければならない医薬品などもあります。
【供給停止・出荷調整が多い薬】
- 咳止め
- 去痰剤
- 抗生剤
- カリウム製剤
- 鉄剤
- インスリン製剤
- 降圧剤(利尿剤)
など(ほか多数あり)
これらは、特に供給停止・出荷調整が多く、納品時期の確認や納品個数などを医薬品卸と相談しながら薬剤を確保しなければいけません。
また、不必要な薬剤や風邪症状などでの7日分以上の処方せん発行をしないように医療機関へも通達もありました。
(昔は必要以上の日数を希望したり処方されていたこともありました。通常の風邪症状であれば、5〜7日分で十分ですので、適正といえます。逆に症状が長期に及ぶときには再度受診しなければなりません)
医薬品の品薄はいつまで続くの?
今後数年〜見通しがつかないという意見もあります。
しかし、OTC (Over The Counter:ドラッグストアなどで購入する市販薬)では同成分の薬が流通している場合もあり悩ましい現状とも言えます。
先発品とジェネリックについて
一般的な先発品(またはオリジナル薬)は、特許を持つ製薬会社が開発した、初めて市場に登場する医薬品を指します。
これに対して、ジェネリック医薬品は、特許が切れた後に、他の製薬会社が製造する同じ有効成分を含んだ医薬品です。
先発品の定義
- 初めて開発された薬:
先発品は、その薬の成分、製造方法、用法・用量、効果について最初に開発・特許を取得した薬です。開発には長い研究・臨床試験が必要であり、製薬会社が数年から十数年にわたって研究開発を行います。 - 特許保護:
先発品は、通常、特許権によってその製造や販売が独占されています。特許期間中は他の企業が同じ成分を使って製造することはできません。
特許期間が終了すると、他の製薬会社がジェネリック薬(後発医薬品)として製造できるようになります。 - 価格設定:
先発品は、開発費用やマーケティング費用が反映されているため、一般的に価格が高く設定されています。市場における支配的な立場を持ち、最初に市場に登場することから、ブランド名が付けられます。 - 臨床試験と承認:
先発品は、厳密な臨床試験を経て、薬事承認を得ます。これにより、効果や安全性が確認され、処方されることになります。
ジェネリック医薬品(後発医薬品)は、特許が切れたブランド医薬品と同じ有効成分、効能、用量、服用方法を持つ医薬品です。オリジナル薬の特許が切れた後に製造され、市場に登場するため、価格が通常よりも安価になります。
ジェネリック医薬品の特徴
- 有効成分が同じ:
ジェネリック薬は、オリジナルの薬と同じ有効成分を含み、治療効果は同等とされています。 - 価格が安価:
特許切れのオリジナル薬に比べ、開発費用がかからないため価格が安く、医療費削減に貢献します。 - 品質と安全性:
日本では、ジェネリック医薬品は厳しい基準を満たさなければならず、品質はオリジナル薬と同等であるとされています。 - 効能・効果:
オリジナル薬と同じ効能・効果があるとされていますが、外観(色、形、サイズ)が異なることがあります。
ジェネリック医薬品の利点
- コスト削減:
患者や医療機関、保険制度にとって経済的負担を軽減することができます。 - アクセスの向上:
安価なため、治療が必要な患者にとって手に入れやすくなります。
ジェネリック薬も複数ある
- 通常のジェネリック:
オリジナル薬と全く同じ有効成分を使用しています。 - オーソライズド・ジェネリック(AG):
オリジナルの製薬会社が製造するジェネリックで、品質や効能はオリジナル薬と同じですが、一般的に価格は安くなります。
比較項目 | 通常のジェネリック | オーソライズド・ジェネリック(AG) |
製造元 | 別の製薬会社が製造 | オリジナルの製薬会社が製造 |
価格 | オリジナル薬よりも安価 | オリジナル薬よりも安価だが、通常のジェネリックより若干高いことが多い |
有効成分 | オリジナル薬と同じ有効成分を使用 | オリジナル薬と同じ有効成分を使用 |
効能・効果 | オリジナル薬と同じ効能・効果がある | オリジナル薬と同じ効能・効果がある |
外観 | 外見がオリジナル薬と異なることがある | 外見がオリジナル薬とほぼ同じ |
品質保証 | 厚生労働省による品質・効果の確認が必要 | オリジナル薬と同じ基準で製造され、品質が保証される |
薬剤の製造過程 |
一般的に開発過程や製造過程は異なる | オリジナル薬と同じ製造工程を踏んでいることが多い |
市場導入 |
特許が切れた後、一般の製薬会社によって製造 |
オリジナル製薬会社がジェネリックとして製造 |
- 製造元:
通常のジェネリックは、オリジナルの製薬会社ではない他の製薬会社によって製造されます。
オーソライズド・ジェネリック(AG)は、オリジナル薬を製造した製薬会社がそのまま製造します。 - 価格:
両者ともにオリジナル薬よりも安価ですが、AGは通常のジェネリックに比べてやや高いことが多いです。 - 外観:
通常のジェネリックは、オリジナル薬と外見が異なる場合があります(形状や色など)。
AGは、オリジナル薬に非常に近い外観を持つことが一般的です。 - 品質保証:
通常のジェネリックも厚生労働省によって品質が保証されていますが、AGはオリジナル薬とほぼ同じ製造過程を経ているため、品質や効果が最も類似しています。
先発品を希望すると自己負担額が増える?→選定療養とは?
選定療養とは、医療保険が適用されない、または一部しか適用されない医療サービスや治療に関して、患者が自費で負担することを選択する制度のことです。この制度は、患者が希望する医療サービスが保険の適用外である場合に、その費用を自己負担することを認めるものです。
選定療養は、特に保険適用外の医療サービスやオプション的な治療に関連しています。例えば、最新の医療機器を使用した治療や、保険適用外の薬剤などが選定療養に該当する場合があります。
2024年10月から、選定療養に関する仕組みが一部変更されることになり、特に後発医薬品(ジェネリック薬)を希望しない場合の費用負担に関するルールが強化されました。
2024年10月1日から、医療保険制度で新たに導入される仕組みとして、「後発医薬品(ジェネリック薬)を選ばずに先発薬(ブランド薬)を希望した場合、その価格差の一部を患者が自己負担する」ことになります。この変更は、選定療養に関連しています。
選定療養の対象
ジェネリック薬ではなく、先発薬(ブランド薬)を患者が希望した場合、その価格差の4分の1を患者が自己負担するという制度です。
この目的は、
- 医療費の削減:
ジェネリック薬を使用することで医療費が抑えられることから、患者に選択を促し、無駄な医療費を削減することが目的です。 - 公平性の確保:
医療保険は基本的に患者の負担を減らすためにあるため、不必要な負担を避けるため、患者に選択を促すようにしています。
選定療養が適用される具体的な例としては、
後発薬(ジェネリック薬)を選ばず、先発薬を希望する場合、たとえば、ジェネリック薬よりも高価な先発薬(ブランド薬)を希望した場合、その価格差の一部(4分の1)を患者が自己負担することになります。
選定療養のポイントは、患者の選択権であり、ジェネリック薬を選ぶか、先発薬を選ぶかなど、医療サービスに関して選択することができますし、患者が特定のブランド薬を希望する場合、選定療養を選ぶことがあります。
その選択に対する負担は異なる場合があります。
選定療養は、保険適用外の治療や薬を患者が自費で選ぶことができる制度であり、特に2024年からは、ジェネリック薬を希望しない場合の費用負担が追加されるようになっています。選定療養を選択する場合は、その治療や薬に対する自己負担が発生するため、医師・薬剤師と相談しながら、費用と効果のバランスを考慮した決定が重要です。

この記事の執筆者

合同会社Sparkle Relation
代表 小林輝信
北里大学薬学部卒業
【資格】
認定 薬剤師/介護支援専門員/iACP認定/MBA/
【所属団体】
一般社団法人全国薬剤師・在宅療養支援連絡会(J-HOP)会長
一般社団法人日本アカデミック・ディテーリング研究会 理事
日本老年薬学会所属
日本服薬支援研究会所属