「食を楽しむ」 ~保存食~ 

「食を楽しむ」 ~保存食~ 

保存食で豊かな食生活を

 私たちは昔から、食品をおいしく長く楽しむために、さまざまな保存の工夫をしてきました。縄文時代には地中に穴を掘って食料を保存し、奈良時代には海産物を干物や塩漬けにしていました。ドイツのソーセージや、チーズ・バターなどの発酵食品も、保存を目的に生まれたものです。こうした工夫は地域の気候や風土に合わせて受け継がれてきました。

 現代の食生活も生鮮品だけでなく保存食に支えられています。保存食をうまく活用すれば、毎日の食が豊かに便利になります。

 また、これから先気候変動や国際情勢の影響で、食品が手に入りにくくなる可能性もあります。ですから食べ物を上手に保存する知識や工夫は、今後ますます重要になっていくでしょう。ここでは、「保存」とは何か、保存のコツ、災害時にも役立つ保存食の備え方をご紹介します。。

進化する保存食

 保存食とは、長く保存できるよう加工された食品のことで、以前は常温保存品が中心でしたが、今では冷蔵・冷凍品も含まれます。。

保存の目的は腐敗を防ぎ、食料を確保することです。かつては災害時や北国の厳冬期の備えのイメージでしたが、技術の進歩によって通常の食生活でも活用されるようになっています。今では、常温で保存できる豆腐、風味豊かなフリーズドライ味噌汁、冷凍総菜など多種多様な保存食があります。

食品の劣化を防ぐ方法

 食品が腐敗する主な原因は、細菌やカビなどの微生物によるものです。発生を抑えるためには、主に温度・酸素・水分をコントロールします。これは食中毒予防にもつながります。また、この3つの他にも食品の特徴に応じた方法があります。まずは、この3つをコントロールして保存する方法を紹介します。

温度を下げる

 微生物は30℃前後で特に活発になります。そのため、冷蔵や冷凍により温度を下げることで、増殖を抑えることができます。

  • 冷蔵保存:0℃~10℃で細菌の活動を遅らせます
  • 冷凍保存:0℃以下で細菌の活動を止めます。(家庭用冷凍庫の温度は-18℃以下)

できるだけ早く温度を下げることが、冷蔵でも冷凍でも劣化を防ぐポイントです。漁船で釣った魚をすぐ氷の中に入れるのも、温度を下げて鮮度を保つためです。家庭でも、温かいものは冷ましてから冷蔵庫へ、冷凍する場合は小分けにしたほうが中まで早く冷えます。

 食品を加熱してから冷蔵や冷凍する場合もあります。作り置きのおかずは加熱してから冷蔵して保存します。挽肉は傷みやすいので、ハンバーグは生のままよりも焼いてから冷凍したほうが長持ちします。もやしなどの傷みやすい野菜も、さっと茹でて水気を拭き取ってから冷凍すれば、保存期間を延ばすことができます。

水分を減らす

 食品中の水分が多いと、微生物が繁殖して腐敗しやすくなります。ここでは、水分を減らすための具体的な保存方法を紹介します。

「乾燥」は、もっとも手軽で昔から使われてきた方法です。天日干しや乾燥機などを使って水分を飛ばします。最近では、天候に左右されず安定して乾燥できる機械乾燥が主流になっています。乾燥の程度によって保存性や食味が異なります。

干し芋(蒸した芋を天日干している)

  最近よく見かけるようになったのが「フリーズドライ」という乾燥方法です。これは食品を一度凍らせたあと、真空状態で乾燥させて仕上げる方法で、風味がよく軽くて保存性に優れています。お味噌汁などでよく見かけますね。

 「塩」を使って脱水する方法も昔からよく使われています。野菜を塩もみすると、水分が抜けて柔らかくなります。塩漬けは肉、魚、野菜などを保存するために塩分濃度を高くして保存性を高める伝統的な方法です。梅干しは、塩漬けして水分を引き出し、天日で乾燥させた保存食です。

 「砂糖」にも保存性を高める働きがあります。砂糖が食品の水分と結びついて、微生物の活動を抑えるからです。ジャムや砂糖漬けがその例です。ジャムは糖度が低ければ、その分保存性が悪くなります。

 「脱水シート」は、浸透圧の作用で水分を抜くだけでなく、生臭さも取れるため、魚の保存に使われています。ただ価格が高めなので、キッチンペーパーとラップで代用する場合もあります。

 「燻製」も伝統的な方法です。塩水に漬けて水分を抜き、さらに煙で乾燥させることで長く保存させます。ベーコンも燻製食品ですが、市販されている手頃なベーコンの多くは、実際には燻さずに「燻液」という液体に漬けて燻製風味を付けているものです。

酸素を減らす

 微生物は酸素があると増えやすくなるため、酸素を減らすことで保存性を高められます。一番身近な方法は、ラップを食品に密着させて空気を遮りする方法です。

 チャック付きポリ袋も便利ですが、袋の中の空気をしっかり抜くのがコツです。

最近よく見かける真空パックは、気密性の高いフィルムやビニールを使って包装して中の空気を抜いて真空にする方法です。保存性だけでなく、食品の臭いが移らない、保管スペースをとらないという利点があります。

 お菓子や乾物などに入っている脱酸素剤は、密閉された袋の中で残った酸素を吸収して、食品の劣化を防ぐものです。

 昔ながらの缶詰も、酸素を遮断する保存方法のひとつです。食品を缶に詰めて密封し、加熱殺菌しているため、常温でも長期保存ができます。ジュースやビール等水分の多い食品にも使えるのが特徴です。

サバ缶の冷やし汁とざるうどん

 缶詰は長持ちしますが、重くてかさばるのが難点です。その点をクリアしたのが、「レトルト食品」です。調理済みの料理をパウチやトレーに詰めて、高温高圧で殺菌することで、常温で長期保存できるようになります。ただ、レトルトにはレトルト臭と呼ばれる独特な臭いがあるため、気になるときは香味野菜やスパイスを少し加えると風味がよくなります。

 油でも保存性をアップすることができます。「オイル漬け」は、食材を油に浸して酸素を遮断して、微生物が繁殖しにくくしたものです。たとえばツナ缶は、マグロを油の中で加熱して酸素を遮断したものです。アンチョビーはカタクチイワシを塩漬けしてから油に漬けたものです。

 野菜や果物は収穫後も呼吸を続けるため、そのままだと品質が落ちてしまいます。そこで使われるのがCA貯蔵(Controlled Atmosphere)という方法です。

 たとえばリンゴは秋に収穫されますが、翌年の夏ごろまで出回っています。実は長期間保存するために、貯蔵庫内の酸素を減らし、二酸化炭素を増やすことで呼吸を抑え、劣化を防いで保存しています。

 ジャガイモもCA貯蔵すると発芽しにくくなり、甘さも増しておいしくなります。

CA貯蔵ジャガイモ

 ここまでご紹介してきたように、私達の身の回りには、温度、水、空気をコントロールして劣化を防ぐ方法で作られた保存食が沢山存在していることがお判りいただけたと思います。ここからはそれ以外の方法も少しご紹介します。

 酢の成分である酢酸は強い酸性なので、菌の増殖を抑える効果があります。酢は、菌を抑える力が最も強い調味料なので昔から保存食作りに用いられてきました。冷蔵設備がなかった江戸時代に寿司が食べられたのは、魚を酢で締めて保存性を高めていたからです。酢漬けやピクルスなども身近な保存食です。この他、酢酸の強い力は日持ち向上剤などにも活用されています。

保存料

 市販食品には「保存料」と呼ばれる食品添加物がよく使われています。

食品の安全性を保つために、現在日本では約1,500種類の添加物が使用されていると言われています。保存料は劣化を防ぎ食中毒のリスクを減らすために使われるのですが、摂りすぎると健康への影響があると言われています。

一方では、国の安全基準に基づいて使われて、基準内であれば安全とも言われています。様々な意見や見解があるようですが、どの保存料がどのように体に影響するかは、まだきちんと科学的に解明されていない事が多くあるのが現状です。気になる場合は、まずは保存料が入っているか表示を確認して、なるべく入っていないものを選んで下さい。

発酵

 微生物の力を利用して保存させる方法もあります。微生物が食品の中の糖やたんぱく質を分解して、体に良い成分を生み出す現象が「発酵」です。逆に、体に悪い成分ができると「腐敗」となります。

 たとえば、牛乳に乳酸菌を加えると「乳酸」が作られヨーグルトになります。これが発酵です。しかし、牛乳をただ常温で放置すると、腐敗菌が増えてしまい腐敗します。

保存食との付き合い方

 保存は腐敗を防ぐだけでなく、食品ロスを減らすためにも役立ちます。家庭では、使い切れなかった食品を上手に保存することが、最も身近な食品ロス削減です。

 共働き世帯や一人暮らしが増えて、「すぐ食べられる」「無駄なく使いきれる」便性の高い保存食も増えてきています。冷凍食品、レトルト食品、缶詰などは、時間のないときにパッと食事が作れる、買い置きしておけば買い物に行けない日の強い味方です。

味噌作りは意外と簡単

また、自分で保存食を作ることもできます。ちょっと余ってしまった野菜を塩漬けや酢漬けにしてみる、手作り味噌を作るなど、出来る範囲で保存食を作ってみると、作る楽しみと食べる楽しみが両方楽しめます。

ローリングストックのすすめ

 上手に保存食と付き合うためのヒントになるのが、「ローリングストック」という方法です。これは、災害時に備えて日常的に使用する食品を購入し、使った分だけ新たに買い足していく備蓄方法です。実は普段の食生活も豊かに便利にするのにも役立ちます

保存食を種類や用途に応じて分類するとバランスよく保存食をストックしやすくなります。

  • 保存期間:半年/1年/2年以上
  • 保存方法:常温/冷蔵/冷凍
  • 使い方:そのまま食べる/水・お湯で戻す/加熱調理
  • 栄養素:炭水化物(主食になるもの)/たんぱく質/ビタミン・ミネラル類//甘いお菓子類

 甘いお菓子類というのは、災害時はストレス緩和で糖分補給できるものがあると便利なので入れてあります。

 お勧めとしては、特に災害時を想定して、火を使わないで出来るメニューにも使える食品をストックすることです。

災害食≪火を使わずビニール袋の中で混ぜるだけのサラダ≫
(切り干し大根、ツナ缶、乾燥ほうれん草、すりごま、マヨネーズ)

 この機会に、キッチンにストックしてある食品を整理してみて下さい。きっとご自身の食生活の「見える化」にもなると思います。

次に備蓄スペースを考えながら、バランスを考えて保存食を補充してみて下さい。ローリングストックという考え方は、家庭だけでなく介護施設など食事を提供する場所なら活用できる方法です。

 保存食との付き合い方は、暮らし方を映す鏡のような存在なのかもしれません。ご自身のライフスタイルに合わせて、様々な保存食を上手に活用して、楽しく豊かな食生活が送れるようになればと願っています。

この記事の執筆者

有限会社コートヤード 
代表取締役
新田美砂子

農産物プロデューサー・フードデザイナー
MBA(経営管理修士)、NPO法人野菜と文化のフォーラム理事

「今ある資源を活かす」「もったいないをなくす」「健康的に食べる」をモットーにして、様々な形で農と食を繋いでいる。商品・メニュー開発、地域食材・農産物のマーケティング、地域活性化などを多数手がけてきた。
日本野菜ソムリエ協会講師、城西国際大学では食の知識と体験学習を織り交ぜた「環境と食文化」の講義を5年間担当。近年は様々な現場に携わってきた経験を活かし、食や農に対する「なぜ?」をわかりやすくフラットに伝えている。