業界の未来を見据えて
業界の未来を見据えて
私たちの業界はこれからどう変わっていくのでしょうか?
急激な物価上昇に加え、人手不足も深刻化し、多くの方が将来への不安を感じていることと思います。
とはいえ、決して悲観的な話ばかりではありません。運営会社の規模が拡大し、より組織的で計画的な取り組みが可能になることや、テクノロジーが急速に進化している現状も見逃せません。今後の医療・介護業界においては、これまでの経験則に頼るだけでなく、外部の視点を取り入れることで、新しい技術やノウハウを経営・運営に積極的に取り入れることが、持続的な経営の鍵を握る重要なポイントとなっていくものと思います。
そこで、今回は、そういったポイントを見ていくにあたって、改めて医療・介護業界をとりまく環境について整理してみたいと思います。
日本の高齢化社会の現状
日本は世界でも類を見ない速さで高齢化が進む社会となっています。
この現象は、人口の年齢構成の変化、労働力人口の減少、医療や介護サービスの需要増加といった問題を伴い、多岐にわたる社会的影響をもたらしています。
本稿では、人口ピラミッドの変遷、これからの高齢者人口と就労者人口の増減について、医療・介護需要の地域差、国の借金と医療費の推移に基づき、日本の高齢化社会の現状を考察していきます。
人口ピラミッドの変遷
日本の人口ピラミッドは、1970年当時には典型的なピラミッド型を示しており、若年層が全体の中で多くの割合を占め、高齢層の割合は相対的に少ないものでした。この形状は、高い出生率と比較的短い平均寿命を反映したもので、活発な若年労働力が社会を支えている状況を象徴していました。

出典:国立社会保障・人口問題研究所:1965年~2015年:国勢調査、2020年以降:「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(出生中位(死亡中位)推計)URL:https://www.ipss.go.jp/(2025/1/23アクセス)
しかし、2025年になると日本の人口ピラミッドは劇的に変化し、「逆三角形」や「壺型」と表現される形状へと移行しています。

出典:国立社会保障・人口問題研究所:1965年~2015年:国勢調査、2020年以降:「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(出生中位(死亡中位)推計)URL:https://www.ipss.go.jp/(2025/1/23アクセス)
これは、長期間にわたる出生率の低下と医療技術の進歩による平均寿命の延びが組み合わさり、若年層の人口が減少する一方で、高齢層の割合が顕著に増加したことによるものです。これらは、単なる人口動態の問題にとどまらず、社会の価値観や生活様式、経済活動に大きな影響を与え、多様な課題を浮き彫りにしてきています。
具体的な数値を挙げると、1970年には総人口の約7.1%を占めていた65歳以上の人口が、2025年には約30%に達してきています。また、特に医療費の負担が重くなる後期高齢者と呼ばれる75歳以上の割合も急激に増加してきています。1970年にはこの層は総人口の数パーセントに過ぎませんでしたが、2025年にはその割合が倍増する見込みです。
このような人口構造の変化は、社会保障制度や医療・介護サービスに大きな負担をもたらしており、医療費の増加や年金制度の見直しが避けられない状況です。
これからの高齢者人口と就労者人口の増減について
医療介護業界における高齢者人口とは、この業界の市場規模を示す重要な指標の一つです。この市場はこれまで拡大の一途をたどり、今後しばらくは引き続き成長を続けると見込まれています。しかしながら、2042年を境に高齢者人口が減少に転じると予測されており、それに伴い、医療介護業界の市場規模も2040年頃までは拡大を続けた後、縮小に向かうと考えられています。地域によってはすでにこの現象が出ている所もあるでしょう。この縮小の過程では、施設間における患者をめぐる競争がこれまで以上に激化することが懸念されてきます。
一方で、この市場を支える就労者人口に目を向けると、ずっと減少が続いています。医療介護分野の現場では深刻な人手不足が顕在化しており、この課題に対して現行の少子化対策や労働政策では根本的な解決は難しく、それらの枠組みを大きく超えた大胆な取り組みが求められ、劇的な少子化対策の実施や、新たな視点からの外国人労働者受け入れ政策の導入といった手段が講じられない限り、この状況が大幅に改善される見込みは薄いと言えます。さらには、労働力の多様化を進めることです。これは、性別や年齢、国籍を問わず、多様な人々が働きやすい環境を整えることを意味します。また、テクノロジーを活用して業務効率を向上させることも重要です。これにより、限られた人材であっても業務を円滑に進めることが可能となります。これらの施策を組み合わせることで、人口動態の変化が医療介護業界に与える影響を最小限に抑えることが期待され、これらの取り組みは日本が持続可能な社会を築くための重要な鍵となってくるものと考えられます。

出典:総務省「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年4月推計)(出生中位・死亡中位)URL:https://www.ipss.go.jp/(2025/1/23アクセス)
医療・介護需要予測における地域差
日本の医療・介護分野において、需要の変動を理解する上で避けて通れない課題の一つが、地域による大きな差異です。この差異は、都市部と地方部、さらには人口の多いエリアと過疎地域との間で顕著に現れています。特に、東京都を含む都市部のような地域とそれ以外の地域では、医療・介護需要の将来的な動向に大きな違いが見られます。
日本医師会が発表しているデータによると、東京都における医療需要や介護需要の予測は、今後もしばらくの間増加を続けるとされています。この背景には、東京都が人口集中型の都市であり、高齢者人口も継続的に増加していることが挙げられます。一方、全国平均で見ると、医療需要はすでに停滞している傾向が見られます。また、介護需要についても、東京都のように一貫した伸びを示している地域は少なく、多くの地域では増加が鈍化する、あるいは横ばいの状態に向かうと考えられています。さらに、過疎地域に目を向けると、こうした需要の停滞や減少傾向は一層顕著です。過疎地域では高齢化が進んでいる一方で、若年層の人口流出や医療・介護従事者の不足が深刻であり、医療・介護の供給体制そのものが脆弱化している現状があります。これにより、需要が減少しているだけでなく、地域住民が必要な医療や介護を十分に受けられないという課題も浮き彫りになっています。このような地域差は、介護事業に従事している方々にとって、事業運営やサービス提供に直接的な影響を与える要因となってきます。地域による需要の違いを的確に把握し、それに対応した戦略を早急に立案することが求められてくるのでしょう。
日本では少子高齢化が急速に進行しており、それに伴い国全体の財政状況にも大きな影響が及んでいます。特に注目すべき点として、国の借金が増加を続けていることと、医療費が大幅に膨らんでいることが挙げられます。この2つの課題は、深刻な財政負担をもたらすと同時に、持続可能な社会保障制度の構築を難しくしています。
2022年時点で、日本の国債残高は約1200兆円に達しており、国内総生産(GDP)比で約250%を超えるという極めて高い水準にあります。この状況は、他国と比較しても非常に深刻であり、財政運営の厳しさを物語っています。このような膨大な借金の背景には、年金、医療、介護といった社会保障費の急増が大きな要因として挙げられます。高齢化社会の進展により、これらの分野への支出が増大しているのです。
特に医療費の増加は顕著であり、過去数十年にわたり急激な伸びを見せています。例えば、1970年の時点で約3兆円だった医療費は、2020年には約44兆円にまで増加しました。この約15倍もの増加は、病院での治療や医薬品のコスト上昇だけでなく、高齢者の割合が増えたことで慢性疾患の患者数が増加したことや、終末期医療の需要が拡大したことなどが主な要因です。高齢化に伴う疾患構造の変化や治療の高度化が、医療費の高騰に拍車をかけています。
まとめ
これまで述べてきたように、日本では高齢化が進む中で、医療や介護分野にさまざまな影響が出ています。
高齢者人口、つまり医療や介護を必要とする患者数は増加しており、それに伴い医療従事者の数もますます求められるようになっています。一方で働き手となる若年層の人口が減少しており、医療・介護分野では深刻な人手不足が課題となってきています。また、社会保障給付費も増加の一途をたどっています。年金、医療費、介護費用といった支出が財政に大きな負担をかけ、その結果、日本全体の財政状況は厳しさを増し、債務過多の状態が続いています。

こうした状況の中で、介護業界に携わる皆さんは、どのような対応策を考えるべきなのでしょうか。私が医療業界での経験を基に、介護業界との違いを踏まえながら、どのような取り組みが可能なのかを次回以降で考えていきたいと思います。
この記事の執筆者

事務長さぽーと株式会社
代表取締役 加藤隆之氏
医療法人おひさま会 事務局長・理事、中小企業診断士、MBA
病院向け専門コンサルティング会社にて全国の急性期病院での経営改善に従事。その後、専門病院の立ち上げを行う医療法人に事務長として参画、院内運営体制の確立、病院ブランドの育成に貢献。M&A仲介会社(日本M&Aセンター上席研究員)を経て起業。現在は、病院・企業の経営支援の傍ら、アクティブに活躍する病院事務職の育成を目指して各種勉強会の企画・講演・執筆活動など行っている。共著に「事例でまなぶ病院経営 中小病院事務長塾」「事例でまなぶ病院経営 事務管理職のすすめ」がある。