介護職のやりがいとは?

介護職のやりがいとは?

介護の仕事は「3K(きつい、汚い、危険)」などマイナスイメージで語られることがあります。その一方で、介護はポジティブな「3K(感謝、感動、感激)」の仕事、やりがいのある仕事だと、その価値や魅力を発信する動きも高まっています。
では、介護職のやりがいとは何なのでしょうか?
そして、介護職のやりがいはどのように醸成されるのでしょうか?

やりがいの中心は利用者との関係性

筆者が、介護職のやりがいに関する研究をレビューした結果、介護職のやりがいは大きく3つの要因が関連していることがわかりました。
1つ目は、利用者との関係性です。利用者と肯定的な関係にあること、利用者に寄り添った介護実践を行うこと、そしてその手ごたえを感じられた時に大きなやりがいを感じることが示されています。
逆に言えば、利用者と良い関係性が築けない、利用者に寄り添った介護実践が叶わないという場合、介護職のやりがいがそがれるということにもなります。

介護職員の早期離職が多いのも、経験やスキルが伴っていない新人の段階で、利用者との良い関係性をなかなかうまく築けず、心折れてしまうことが多いからかも知れません。そう考えると、やりがいとは一人前になってやっと得られるものなのかも知れません。「自分にはできる」という自己効力感とも密接に関連していると考えられます。
一人前になって自己効力感が得られるまでは、ステップバイステップで経験をうまく積むための支援と、うまくいかなかった時に心折れてしまうのを防ぐためのメンタルサポートが重要になってくると言えるでしょう。

職場の人間関係も重要な動機付け要因

2つ目の要因は、職場の人間関係です。介護はチームケアを基本とするため、同職種、他職種、関係機関など多くの人たちと相互調整・連携しながら仕事を行う必要があります。そのため良好な人間関係と円滑なコミュニケーションを築くことが必須となります。
とりわけ、上司や同僚からサポートを受けられる環境にあるかどうかは、やりがいだけではなく職務満足向上、ストレス緩和、離職意向低減などにつながることが多くの研究でわかっています。
逆に言えば、良好な人間関係が築けない職場、コミュニケーションが円滑に行われていない職場、ソーシャルサポートが受けられない職場では、それが大きなストレスやダメージになりうるということです。

介護職の離職要因は人間関係が最も大きいとしばしば指摘されていますが、それだけ人間関係から受ける影響が大きいと言えるでしょう。
職場の人間関係やコミュニケーションは、「良くしましょう」と言って簡単に良くなるものでもありません。
経営者・管理者の重要なマネジメント事項の1つとして、日常的な声掛け・対話の促進や人間関係の介入・調整などに力を入れて取り組む必要があります。

コントロール感と自律性がやりがいにつながる

3つ目の要因は、職場におけるコントロール感と自律性です。これは心理学領域などで古くから指摘されていることですが、仕事におけるコントロール感や自律性は仕事のやりがいに大きく関連します。専門性やクリエイティビティを要求される仕事であればなおさらで、介護の仕事もそれに該当すると言えます。

例えば、すべて上意下達でそれに従うしかなく、自分で考えて自己決定する余地がないとか、忙しすぎて仕事のやり方を工夫する余裕がまったくないとか、前例踏襲が強すぎる職場だったりすると、そうしたコントロール感や自律性は大きく損なわれます。

もちろん環境だけではなく、任されたことを適切に自律的に実行できるかどうかというスキルや意欲のレベルも問われます。

言われたことを言われたようにやっているだけでは、仕事を面白いと思えないのも当然です。「現場に任せるマネジメント」と「安心して任せられる人材育成」が重要になってくると言えるでしょう。

介護職に強い内発的動機付け

以上をまとめると、介護職のやりがいは、人と人の「関係性」に支えられていることがわかります。そしてその「関係性」を良好にするためには、関わる人たちがコミュニケーションをとりながら、自律的に考えケアが実践できる環境づくりと、それができる専門性が備わっていることが重要であると言えるのではないでしょうか。

これらは内発的動機付けという理論で説明が可能です。
内発的動機付け理論を確立した心理学者Deciによれば、内発的動機付けとは、有能さと自己決定への欲求に基づく生来的な動機づけであり、「人がそれに従事することによって、自らが有能で自己決定的であると感知することのできるような行動である」と定義されています。そして、内発的動機付けを高めるためには自律性、有能感、および関係性への欲求を満たすことが重要だとしています。

介護職員のやりがいを醸成するためには、まさにこうした自律性、有能感、そして関係性への欲求を満たすことへの配慮が重要であると言えるでしょう。

職員の意欲はケアの質に反映される

では、介護職がそのようにしてやりがいを感じることは、ケアの質に影響するのでしょうか?
答えは「イエス」といって良いでしょう。
介護のようなヒューマンサービスにおいては、サービスの質は、サービスを提供する「人」のスキルや意欲に規定されると指摘されています。
これまでの実証研究でも、人材の質がケアの良し悪しを左右すること、介護職員の職務満足がケアの質を高めていること、介護職員の態度やサービス内容など人材の質が利用者の満足に大きく影響を与えるということなどが報告されています。
つまり介護職員の感情や動機づけの状態は、利用者との関係性やケアの質を大きく左右すると要因になるということです。介護職員が仕事にやりがいを感じられるような職務設計や職場作りが重要であることが改めてわかります。

「良い介護事業所」は職員が生き生きと働いている

以上のような観点から考えると、ケアの質が高い「良い介護事業所」とは、事業規模やブランド力などよりも、「職員が楽しそうに働いているか」「やりがいを持って働いているか」ということが重要な基準になるかも知れません。また料金が高ければ良いサービスを受けられるという考えにも疑問を持った方が良いでしょう。
筆者は、働く人にとっても、利用する人にとっても、「良い介護事業所」の基準は実は同じではないかという気がしています。まずは事前に視察させてもらい、職員が楽しそうに働いているか、利用者が穏やかに生活しているか、事業所の雰囲気はどうか、というあたりが重要なチェックポイントになるのではないでしょうか。
経営者や管理者は、働く人や利用者に選ばれる事業所になるために、職員がやりがいを感じられる職場作りに取り組む必要があるでしょう。

この記事の執筆者

茨城キリスト教大学 経営学部准教授
菅野 雅子

茨城キリスト教大学経営学部准教授。博士(政策学)、MBA(経営管理修士)。人事労務系シンクタンク等を経て現職。公益財団法人介護労働安定センター「介護労働実態調査検討委員会」委員。
著書に『福祉サービスの組織と経営』(共著)中央法規出版(2021年)、『介護人材マネジメントの理論と実践』(単著)法政大学出版局(2020年)など。